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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

陽の当たらない地
「だいぶ歩いたはずだ… ここは本当に俺たちの住んでた世界か?
 太陽がぜんっぜん、顔みせないじゃねぇかよ…」

塔を出たのが朝だとしたら、もう昼になっていてもおかしくなかった
それなのに空は空気は、相変わらず薄暗く濁ったまま

「おかしいですね 天気が悪いわけでもない、そういわれると雲も無い…」
「あ! そうだ、そうだよな! 雲も無いのに空が灰色だ
 俺はずっと厚い雲だと思ってたぜ…」

クリーニが言うまでぜんぜん気が付かなかった
雲は無い
なのに空は灰色、変だ…

「…ゾーマ、魔王の仕業でしょう」

ルビスが口を開く

「これはもしかすると、世界はこのまま……」
「どういう事ですか?
 あなたの不思議な力で見えるんですね? 世界はこのまま、どうなるんです?」

動揺したクリーニが質問攻めにする

「…わかりません 私の力もそこまでは知ることができないのです
 ですが不吉な、そんな気配を教えてくれています…」

俺も含め、四人は互いに目は合わさず、沈黙した

ルビスは何を知っている
みんなには言えない様な事なのか?

俺はルビスに対し心での会話をしようとするが、さっぱり出来ない
あれは話しかけられた時に限られるようだ

「…いきましょう、とにかく」
「待て、何かいる」

珍しくフーラルが真面目に止める

「魔物だ、見えないが確かにいる…」

しまった油断したか!

俺は質素な剣を腰から引き抜き、両手で構える
また、魔物と戦うことになるなんて、あの忌まわしい瞬間には考えても無かった

「ルビ… マリア、魔物が近づいてるのは気づいただろ」

俺が言った少し乱暴な言葉に、ルビスは頭へ直接返事を返してくる

(すみません 別のことをしていたので、そちらに気を取られていました)
(気を取られたって? なんか肝心なところまで人間っぽくなってるな、大丈夫なのか?
 俺も気付かなかったのは情けないが…)
(はい ですが、時間は少ないのかもしれません
 人間の身体になった今、この世界で神の力を保持するのはとても難しいようなのです)
(それって─)

「タカハシ! いるぞ地べたを良く見ろ!」

フーラルの怒号で一気に覚める
クリーニとルビスはすでにフーラルから少し離れた場所へと移動している
俺だけが、あさっての方向を向いて構えていた

「おい、戦えるか? 無理だったら俺が前に出る、あんたは援護だけでもいい」
「平気です」

フーラルの横へと駆け寄り、答えながら地面を探す
気配だけは感じる

「マドハンドだ、ほら向こうの茂み…」

すぐそこの、低い草が束になってよりそう辺り
なにか、複数の物体が動いていた

「いけるか?」

フーラルが念押ししてくる

「初めて戦う相手だけど、いけます」
「マドハンドは魔法を使ったり強力な攻撃があるわけでもない
 単体ではどうって事の無い魔物だ
 だが、あいつらは仲間を大量に呼ぶ
 群れられるとなかなか手ごわい、少ない時間で殲滅するんだ いいな」

茂みからぞろぞろと数体の魔物が地面を這って来る
人間の手のひらがそのまま歩いてる様にも見える、マドハンド

「俺がまず、やつら全部をなぎ払う
 あんたは避けたやつらを仕留めてくれ
 もちろん俺もやる」

俺は頷き、全身へ魔力を巡らせる
全身の血管へ湯を入れたかのように、体が熱くなってくる

「はっ」

フーラルが駆け、柄の長い槍をブンと一振り
マドハンドたちはそれを避けるため左右へと散開し、一体は刃の餌食となる
槍の先端が振り切られ空で止まる頃には、散開した魔物が俺へと一斉に飛び掛かかってきた

「ッ!」

ガツ!

左足を軸に体をひるがえし、背後のマドハンド目掛け刀身を打つ
真っ二つになった魔物がその事を知る前、更に剣で大きく円を描き、
左右に跳ねる二体をザツガツと切り裂き次の目標を探すと、
俺のいた場所を跳び越すマドハンド二体が、フーラルへと襲いかかっていた

「へっ!」

すでに迎撃体制へと入っていたフーラル
ビュン、グンと起用に槍を捌き残る二体を片付けた

バタバタバタと落ちる亡骸
全滅させたことを確認し、"ふぅ"と息を吐いた瞬間、剣から暖かな何かが俺の身体へ流れ込んできた

「?!」

この感覚は、治癒魔法とよく似てる
なんなんだこの剣…

「いや、お見事でした!」

クリーニがニコニコしながら俺たちの元へ来る

「やったな! まー、マドハンドじゃ相手にならないがな!」

ポンと、フーラルが俺の肩へ手を乗せてくる

「それにしてもよ、そいつは銅の剣じゃあなさそうだな?
 胴の剣だったらどんな腕だろうと、魔物を真っ二つになんかできないぜ」

右手へ握る謎の剣を、フーラルがクイとあごで指す

「あ、そういえばこの剣から治癒魔法っぽい感覚が伝わってきたんですよ」
「なに、本当か?」
「あれはベホイミに近かったと思います」
「ううむ… じゃあそれはあれだ… まさかこの眼で見られるなんてな」

フーラルが唸る
クリーニは会話についてこられず、ただただ笑顔だ

「奇跡の剣─ 神々が造り出した剣…
 戦いの最中、扱う者の傷を回復してくれるって代物だ
 どこかの洞窟に眠っているという噂はあったが…」
「奇跡の剣ですか… そんなすごい剣がなんであんなところに」
「たぶん、魔物が拾ってきたんだろうな
 俺も初めてみたが、そんな地味なんじゃ埋もれちまうぜ」

俺はその名前をやはり、カンダタの工房で聞いていた
"何か特別な力が働く剣"
そう、言っていたと思う

「まぁなんでもいいさ こんな世界じゃ価値より生き延びる事を考えなきゃならねぇ
 ついてたな!」
「そうですね、ここでベホイミが使える… わけじゃないけど、回復できるのは頼もしいです」
「よっしゃ、いこうぜ!」

足元では光にさらわれていくマドハンド
俺は聞きたいことがあって、ルビスへ合図を送る

「マリア ちょっと、いいか」

自分の胸へポンポンと手を当て、心へ話しかけてほしいと訴える
ルビスはすぐに悟り、声が響きだす

(どう、しましたか?)
(さっき何か言いかけていなかったか?)

前を行くフーラル
キョロキョロしながら歩くクリーニ
この会話も、周りの状況を見ながら出来るようになっている
まだ注意は散漫になりがちだが

(さっき、"この世界で力を保持するのは難しい"って)
(…はい これはゾーマによって"いのちの源"を利用されているからだと考えられますが、
 世界自体の存在が、非常に不確定なもへと置き換わろうとしています
 そのため、神の存在さえ確実ではなくなるかもしれません)
(?? 言っている意味がわからないな…)
(様々な事象がとても不安定なのです
 例えて言うなら、人間は土であったかもしれません
 風は水であったかもしれず、水は消え空になるかもしれません)
(よくわからないが、存在そのものが消えたり別のものだったり、してしまうって事か?)
(…はい それらと同じように私も、今後どうなるかわかりません
 神は人間よりも世界の影響を受けやすいのです
 今はまだ、そこまでの段階には至っていないようですが…
 私の力、神としての意識はもうすでに所々"もや"ができ、この身体にあわせ人間に近い存在となってきています)
(ん、んー… ようするに、世界がなんだか混乱しているから、あんたも神じゃなくなるかもしれないのか…)
(要約すると、そうです
 早くゾーマを止めなければ、神だけではなく生命の行き場所が無くなってしまう…)

ん、まてよ、神が神でなくなるほど……
それなら─

(魔物はどうなる? 同じじゃないのか?)
(…魔物はもともと"いのちの源"から直接、創られる存在なので影響されないのです
 そのため命を絶たれた魔物は即座に"いのちの源"へと、吸収されます)

"魔物は倒された後なぜ光に吸い込まれていくんだろうな"
ずうっと前に呟いた言葉は、こんな所で意味を知る

(人は、私たちが創る肉体へ"いのちの源"からいのちを宿します
 人同士の繋がりはその延長で、植物も同じです)
(そうか… ちょっと話はずれるけど、なんで魔物は創られるんだ?)

もっとも知りたいことを、俺はぶつけてみた
創られるとわかっていながら、なぜ止められない

(それは、わかっていませんし止める事も出来ません
 "いのちの源"の行うことですので、私たち神にも手を出せません
 わかっている事は、これまでの世界の記憶に基づいて創られている、という事だけです)
(魔王もそういう存在なのか?)
(そう、魔物と同じです
 魔王を討ったとしても魔物は存在し創られ続ける…
 タカハシ、あなたの世界とは違い、この世界ではそれが"必然"です
 それに対し私たちは常に戦い、これからも戦って行くのです)

この世界では"必然"か…
魔物を倒しても、魔王を倒してもやはり繰り返される戦い
…じゃあ俺の世界でも"必然"は、あるのかな

(例外もあります)
(例外? どんな?)
(それはゾーマです
 ゾーマの存在は例外であり、実際に"いのちの源"が直接それを排除しようとあなたを呼び寄せた)

( え )

(……その事はまた、お答えしていない質問と一緒に、機会を設けてお話します)

ちっとも、俺はわかってなかった
自分がどうしてここにいるのかを、教えてもらったことはないんだ

眼が覚めてからずっと、気持ちを揺さぶられる事ばかり見聞きしてきた
少しでいい
少しの間でいいから再び俺を、眠らせてほしい

けれど、
その願いは叶わず、目の前には数体の魔物が、人間を貪るため待ち構えていた
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