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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

近づく気配
話しながらもだいぶ歩いた、はず
けれど相変わらず、陽は昇ってこない

「ん…」

なにか、よくない気配を俺は感じ、立ち止まる
だが周りは開けた大地、何も無い

「どうした?」

先を行くフーラルが声をかけてきた

「あ… ちょっと、不穏な気配を感じたんで」
「んん? けど、どこにも何もいないぜ?」
「…気のせいかも」
「そうか けど、なんかあったらすぐに知らせてくれ」

魔物… のはずだ
どうも勘が鈍っている

(タカハシ、魔物が戻ってきています…)

ルビスの声が頭へ響く

(やっぱりか… だけど周りにはなにもいない)
(いえ、います)
(…わかった、用心する)

「タカハシ、あんたはどれくらい戦えるんだ?」

フーラルの声でわれに返る

「あ、俺は… たいしたことないですよ」
「魔物退治の旅をしてきたっていうんだから、そんなことないだろ」
「いえ、ほんとですよ」
「だいたい、防具が旅人の服なんて魔物と戦うにしちゃ軽装すぎるぜ
 俺なんか、まぁ腕に自信はあるが、みかわしの服だ
 これだって気に入ったのがなかったし、服だけよりはマシだから装備してんだ」
「それは…」

防具は装備したほうが良いとは思うんだけど、どうも俺には邪魔だから…
強い魔物相手に半端な鎧は、無意味だと悟ったから

「いい防具がなかっただけで」
「そうだったか? 薬草とかの回復手段がないから、気をつけろよ
 まぁさっきの話みたいに岩を斬れるほどなら、心配しないがな! ははっ」

そんな本音は言えなかった
もしかするとフーラルは俺なんかより遥かに強いかもしれないんだし、
そうじゃなくても自分が強いとは、まだ思えない

「"ねえちゃん"は、魔法とか使えるか?」
「…私は魔法を使えませんし戦えません」
「なるほど まぁな、"ねえちゃん"のそのナリで戦闘の達人だったら、ちょっと嫌だけどな」
「あの、お願いがあるのですが…
 私を呼ぶときの、その呼び方は、その…」

あまり物事を気にしないルビスも、さすがに"ねえちゃん"と呼ばれることには抵抗があるようだ
もしかしてそういう、感情みたいな部分も人間に近づけてるのか?

「あー、すまねぇ
 じゃあマリアって呼ぶが、かまわないな?」
「はい、お願いします」
「しかしあんたは喋んない人だよな」
「すみません…」
「別に責めてるんじゃないんだ、いいってことよ」

すぐさま、ルビスの声が響いた

(私は、彼の言うように喋らないですか? 自ら喋らなくてはいけませんか?)
(喋らないっていうのは、そうかもな 聞かれたことしか答えないんだから
 それも一言二言だし)
(…身も心も、人間と同じようにしているはずなのですが……)
(あんたは神だ
 なんでも知ってるし話題なんてないだろうからな
 まぁ気にする事は無いんじゃないか?
 あんまり喋らない人なんてたくさんいるし、見た目は立派に人間だから)

思ったことは口に出さずにいられない、このフーラルという男
ルビスが神だと知っても、驚きそうにない
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