タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語
勇気
合流した俺たちは、螺旋の階段をいくつか降り、昇り以外の階段が無い階にたどり着いていた
「ここが、一階でしょう」
クリーニが言う
「でも、よぉ… 出口らしき場所なんて、ないぞ?」
フーラルが壁を確認しながら言った
「…おかしいですよ─」
クリーニが言いかけ、止める
見るといつのまにかそこに、トルネコが立っていた
「ああ、これはみなさん
元気になられたのですねぇ」
一瞬、場の空気が止まる
「いったい、どこから?? どうやって??」
動揺し、少し裏返った声でクリーニが訝しがる
「え? あぁ、あぁ
ここですよ、ここから出てきたのです」
そう言い、壁へ小さな棒を差し込むトルネコ
すると─ 壁はスゥと穴を開け、部屋を作り出した
「うお! すげぇ、どうなってんだこれ?」
フーラルが穴の開いた壁を調べ始める
情報屋としての性分だろうか
「この部屋は武器庫で、私の部屋でもあるのです」
トルネコはこんな何も無いところに住んでるのか
グランバニアでやっていた武具売買といい、根っから武器が好きなんだな…
「そうでしたか…
ところでトルネコさん、我々はこの建物から出ます
あなたも行きましょう!
まだ回復できていない人たちはまた後日、人をたくさん連れて…!」
クリーニの提案を、あごに手をかけ考え始めるトルネコ
そして俺と、俺の横に並ぶルビスを見て言った
「私は、ここへ残ります
…あなたが来てから私は、そしてここも何かが変わり始めました」
言葉は、寡黙なルビスに向けられていた
「何が変わったのかはわかりませんが… 申し訳ない
私はタカハシさんとあなたを見ていると、頭が締め付けられる思いがするのです」
言葉が、俺とルビスへ向けられる
「ですがそれは… 悪い気分ではなく… 何かを、掴み掛け、けれども掴めずもがく─
私は、今はそんな気持ちに耐えることが… 出来ないのです」
トルネコは皆へと話す
「どうやら揺れと同時に、ここにいる人間への魔王の影響力はなくなったようですね」
トルネコはもしかして─
俺もトルネコの説得を試みる
「そうなんです だからトルネコさんももう、ここにいる必要なんかないんですよ?」
「それでも…
私は、これまでと変わらず、ここでまだ回復できていない人たちを、お世話していきましょう」
「どうして… 一緒にいきましょうよ!」
思わず大声を出してしまい、俺は少しうつむいた
トルネコは記憶を取り戻しつつあるんじゃないか?
だから、地上へいけばもっと、もしかすると記憶は完全に戻るかもしれない
そんな思いもあったからだ
しかし─
「いえ、タカハシさん 私は、わたしは恐ろしい
この外へ出て、もし、皆が言う以前の私が、大切にしていたものが失われていたらと思うと─
とてもではありませんが外へは出られないのです」
ライフコッドと、ネネ─
俺は、それ以上なにも言えなくなってしまった
失ってしまう恐ろしさを十分に知っているから…
「あ、武器はお好きなものを持っていって下さい
もともと、魔物たちが人間から奪ってきたものですからね」
一言、付け加えるようにトルネコは言った
クリーニとフーラルは、トルネコの言った意味がよくわからないという風だったが、
言うように残された人を世話する者が必要だろうと、納得していた
「タカハシさん」
トルネコが俺に近づき、小声で言う
「ルビスさんがここへ来て、あなたが目覚めて…
どうしてなのかはわからないのですが、私は感情をほんの少しだけ、持ちました
きっと、お二人は特別なんでしょうな」
感情か…
その感情は、まるで機械のように過ごしてきたトルネコに"恐ろしい"という気持ちを与えた
けど喜ぶべきことなんだ
きっとそれは、呪いの効果が薄くなってきたという証なんだ
「もしかすると私は、あなた方の思う、以前の私であったかもしれない─
その事を確信できるまでは、私はここへ残ろうと思っています
そうなればきっと、以前の私を取り戻す事ができたなら……」
トルネコは、言葉を止め考える
おそらく、適当な言葉が思い浮かばないか、今は言えない言葉なんだろう
俺は、トルネコの言葉には続きが無いかのように、返した
「わかりました、トルネコさん
だけど、感情を取り戻していなくてもトルネコさんに変わりはないんです…」
一呼吸おいて、続ける
「後日、迎えが来るはずです
その時に少しでも迷いがあったら、俺たちと一緒に行動しましょう
今と同じ気持ちでも、ここから離れて安全なところへ避難して下さい
もちろん、トルネコさんの考えがはっきりすれば、思うとおりになさって下さい」
俺の、少し生意気な言葉にトルネコは"ありがとう"と返す
「あ、それからルビスのことはこれからマリアと呼んでもらえますか
理由は… 聞かないで下さい」
うなずくトルネコ
表情は俺と二人で行動していたときよく見せてくれたあの笑顔を思い起こさせ、
嬉しかった
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