タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語
善し悪し
「今日は顔色が良いみたいですね」
ある部屋で、一人の男を目の前に話しかけるトルネコ
「あの女性がここへきてから、みんなの表情が変わったように感じます
よくはわかりませんが、あなたも少なからず影響を受けているのでしょう、カンダタさん」
筋骨隆々、ベッドへ腰掛けるその男、カンダタは
そんなトルネコの言葉に耳を傾けない
ここ数日、気力を無くした人間たちに変化があらわれ始めた
以前のような生気の抜けた表情をしなくなり、瞳には少しの活力を漲らせている
しかし、悲しい
この世界では余程の力を持たない限り、取り戻した力は即座に吸い取られてしまう
今この瞬間も、眼に力を宿した人間たちは、活と無の間をさまよっているのだろう
トルネコは運んできた食べ物を、ベッドの脇にあるテーブルへ置き、次の部屋へと向かう
そして同じように二言三言はなしかけ、食事を与え、また別の部屋へと移動する
これまで、毎日同じ事を繰り返してきた
何の疑問も感じずに、当たり前だと過ごしてきた
だけどあの女性─ ルビスがやってきてから何か違和感を感じる
その違和感がなんなのか、まではわからない
悪い兆しか、良い兆しなのか
どうも、おかしい
何かがおかしい
身体の中に湧き上がる不思議な感情に、支配されそうになる……
ふいと、身体を反転させ歩を進めはじめる
トルネコは考えることをやめ、自分の仕事へと戻った
ここまで持つ事のなかった"自分の思考"
考えを巡らせるという行為そのものが、今の呪われたトルネコには負担でありそして、
"湧き上がる不思議な感情"を自覚することが、怖かった
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