タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語
始め有るものは必ず終わり有り
音が、耳を伝い聞こえてくる
小さくガサガサコソコソ…
久しぶりだ…
自分以外の音を聞くなんて、どれくらいぶりだろう
夢、じゃない
俺はどうやら、永く眠りすぎたようだ
意識はこれまで感じたことがない程、透き通っている
目を開けばまた、戦い明け暮れる日々
…けれど、俺の出来る精一杯を、するために目を開けよう─
ゆっくりと瞼を開く
明るさが無遠慮に目を刺してきた
初めて目を開いたように恐る恐るぱちぱちと、瞬きを繰り返し目を慣らす
ここは… どこかの部屋のようだ
扁平な天井に固い布が身体を覆う感触
俺は、ベッドに寝かされていた
魔王に頭を掴まれ、その後は思い出せないが…
俺はこんな所に連れてこられていたのか─
「ん」
人の気配をすぐ隣に感じ、ふいと目をやる
そこには白い女性が目を瞑り、椅子に座っていた
この女が誰なのかは、わかっている
ルビスだ…
俺の動きに反応し、静かに目を開き、俺の顔を見つめるルビス
白く透き通るような肌に、絵に書いた姿
その瞳はどこか物憂げで、しかし魅力的でもある
俺の想像を遥かに超え、美しい
「メイを、俺に向けさせたのは、あんたか…」
ルビスの姿に少し、戸惑いのような嬉しさのような、複雑な気持ちを抱きつつ話しかけた
「別に、その事をどうこう言うつもりはない
そしてこれからやらなくちゃならない事もわかってる…
でも、何もわからないまま戦う事なんてできない
…全部、話してもらえるよな?」
俺のわからないこと
この世界にきてからずっと、ルビスは肝心な事だけは黙ってきた
やるべき事がわかった以上、それらを聞いておかなければならない
何もわからないまま言われるまま、行動だけをするなんて嫌だからだ
「…まず何を話しましょうか」
夢の中で聞いた声そのまま
目の前にいるのは本当に、ルビスなんだな
「まずは、あんたがどうしてこの世界にいるのかを聞きたい」
これはメイがルビスに聞けばわかるといっていた、最初の疑問
なぜ神が魔王の創った世界へいるのか…
だがはっきりいってこの事はどうでもよかった
言葉慣らしの意味での、質問だ
「私は、あなたがゾーマに囚われ異世界へ連れ去られていったのを見ていました
あなたには重大な使命がある…
ですから私は力を失うとわかっていながら人間の姿となり、わざと魔物につかまった─」
そうか
人間になる事もできるのか…
なぜ魔王にやられる瞬間、助けてくれなかったのかという事は、もういまさらどうでもいい
神にも手出しできないほどに、それほどに魔王の力は恐ろしいのだろう
「わかった
次は"いのちの源"について教えてくれないか?」
これもメイの言っていた言葉だ
今後の俺の行動は、どうやらその"いのちの源"の意思であるらしいから─
「"いのちの源"と今回の事は全て繋がり、そして起こりでもあります…
事を終わらせる為、全てをお話しましょう」
外気はわずかな物音だけをサァサァ伝達し
部屋の肌色が強く目を圧迫する
白い女性ルビスは時折、ふと悲哀に満ちた表情を見せ
それは悲しいことだけれど同時に、この世で一番の美しさに感じた
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