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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

最善
どうしてメイが…
死んでしまったはずじゃあ

「覚えてる? 静寂の玉を」

ああ、覚えている
だけどあの後いったいどうなってしまったのか
俺はわからないんだ
ここがどこなのかすらも…

「ここはあなたの心の底
 そして私は、ルビス様の手助けであなたの心に触れることが出来たの」

ルビスが?
…どういう事なのかわからない
なんでこんな事になってしまったのか

「それはすぐにわかるわ」

メイ
すまない
俺は取り返しのつかないことをしてしまった
この手で、メイを殺してしまった…

「タカハシ あの時の事は誰も悪くないの
 あれは魔王の見せたまやかしなのよ
 あなたはそれに騙されてしまっただけ
 だから─」

ダメなんだ
もう、どうしようもなく俺は自分に失望したんだ
結局、守れなかったよ
なんにも、この手はちっとも役に立たなかった
よりによって大事な人を、殺めてしまったんだ…

「私はあれからたくさんの事を知った…
 なぜあなたがこの世界にいるのか、なぜ魔王が存在してしまったのか
 他にも、いろいろ」



「あなたはきっとこう思ってる
 "きっと許してくれない" "許される事じゃない"」

そうだな
その通りだよ

「私は、一度だってあなたに悪い考えを持ったことなんて、ない
 それどころか、あなたに出会えてよかったって、思ってる」

それは─
そんな事、だって本人を前にして言えないだろう
本心なんて、言えるはずもない

「ふふ… 私は今、あなたの心に触れているのよ?
 嘘なんてすぐに伝わってしまうわ
 ね?」

ん…

だけど、でも俺は、自分が許せない
こうして話をしてるけど、失くしてしまった事は事実なんだ…

「固い心ね、もう…
 でもそこまで私の事を考えてくれるのは、正直にうれしいな」



目の前には暗闇がどこまでも続く

今、俺は戸惑っている
メイが、自分を斬った俺をどう思っているか、はっきりいえば少し不安もあった
だけど今はっきりと、その不安は全く無くなった
俺はどうすればいい?
知ったから、どうなるものでもあるまい?
やはり俺は、ここで自分の愚かさを悔い続けるべきなのでは─

「あなたはこの世界を救うため行動の出来るただ一人の人間なの
 私は、私の事は考えずに、その使命を全うしてほしい」

使命?
どういうことだ?

「そう、使命
 これはね、"いのちの源"の意思でもあるのよ」

"いのちの源"
それはいったい…

「詳しいことはルビス様に聞いて
 私にはうまく説明できない…」

ルビスか

なぁ、メイ
そうする事が今の俺にとって、一番の償いになるんだろうか
そうする事でメイにした事への、償いになりえるんだろうか…

「…私は償ってほしいとか、そういう気持ちは全然ないの
 ……けれどあなたがそう思い、行動してくれるのなら、きっと」

そうか………

「私だけじゃない たくさんの人が救われるの
 あなたも自分の世界へ戻ることが出来る
 …あなたが自分の為に動くことが、私や世界の為になる…」

……少し、考えを整理させてくれないか

俺はずっと考えていた
どうしてこんな事になったのかを
自分の未熟さを、愚かさを
どうすれば償えるのかを…

俺は……



わかった気がする
どうするべきなのかを…

「うれしい… 伝わった、心から伝わってきたわ…」

俺は、できるだけの事をしようと思う
心配かけてすまなかった
もし、もしメイが来てくれなかったら俺はずっとこのままだった…

ありがとう

「うん! 詳しいことはルビス様に聞いて
 気がついた先で待ってるから」

ああ、そうする
だけど─

もし魔王を倒せたとしても、メイは戻らないんだよな…

「もういかなくちゃ… タカハシ、あなたならやり遂げられる
 私、信じてるから…
 自分を取り戻すために、感情をゆっくり開放して…」

ボウと、眼前にメイの姿が薄く
俺は思わず手を伸べるが、それは空しく空を掴むばかり

「……ねぇタカハシ 私は、肉体は失ったけれど心までは失っていないの
 わかる? あなたが私を想ってくれたら、それだけで側にいる………」

声は長い反響となり、やがて、空間のチリとなり
俺の意識はスウと、上とも下ともわからない方向へ引かれていった
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