タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語
魔王ゾーマ
不気味に唸る城
それはライフコッドより北に位置し、魔物を押し込めるおぞましい建造物
「ゾーマ様」
サタンジェネラル
魔王の直ぐ側へ仕える魔物
その言葉に、詠唱を止める魔王ゾーマ
広い一室
魔王が"いのちの源"から力を引き出す為に作らせた、特別で無機質な間
魔物達からは"祈りの部屋"と呼ばれ、魔王に許された者しか立ち入ることが出来ない
そして、サタンジェネラルは入室を許された一人
「何用だ」
声をかけた魔物には一瞥もくれず、魔王は返答する
「は… 私が言うことではないと思うのですが…」
サタンジェネラルは戸惑い、言葉を繋げられずにいる
その気配を感じ、魔王が聞く姿勢を見せた
「言ってみろ」
「は…」
床へ片膝を付けたまま、サタンジェネラルは話し始める
「ゾーマ様はもうすでに全てを超えた力を持ったと、私は思います
もうそれ以上"いのちの力"は必要ないのでは、と…」
魔王が目を瞑り、高揚したサタンジェネラルは更に続ける
「その力は危険すぎます!
"いのちの力"だからでしょうか、その… 力として使うには純粋すぎるのです!
ですから─」
「聞け…」
サタンジェネラルの言葉を遮る魔王ゾーマ
遮られた本人は相当の覚悟を決め進言したのだろう
頭を下へ向けたまま上げることが出来ずにいる
「私は… 闇雲に力を取り込んでいるわけでは、ない」
魔王は決して、己の部下である魔物に対し罰を与える事が無かった
だが、サタンジェネラルは怯えた
それは魔王ゾーマの行動に、異を唱えたからに他ならない
過去に、主の行いを疑問に考える者は皆無だったからだ
「しかし、お前の気遣いに答えようと思う」
これまで行動の理由など、一切を話す事がなかった
それは残された側近がサタンジェネラルだけになった事も、あったのだろう
側近アトラス、バトルレックスは既に倒されている
「私は数百年、いやもっと過去であっただろうか…
ルビスの遣いと戦った事がある
その時も私は究極であった…!」
空気が、変わる
普通の人間なら気を失いかねないほどに強烈な、威圧感
「あったにも拘らず、私は倒され意識だけの存在となり…
その後"いのちの源"へ吸収されることもせず、彷徨った…
冷たく、永く、遠い時間を さまよったのだ……」
サタンジェネラルは物言わず、ただただと聞くだけ
「ある時、見つけたのだ この"いのちの源"には輝く力が蓄えられていると…
そしてその力を利用する術を!」
「私はいま、そうして我が身へ取り込み、何者も敵わぬ力を手にしている」
「だが─ だが! ルビスの遣いはソレを上回ることが出来る!」
ドンと、魔王の気に押されるサタンジェネラル
「過去、己の力を過信しすぎ私は斃れた」
「その過ちは二度と! …私は力を取り込み続ける」
「神など、もはや敵ではない」
「人間だ 神々の加護を受ける人間なのだ」
サタンジェネラルは思う
"なぜ、神の加護を受けたあのタカハシという人間を殺さなかったのか"
"確実に、グランバニア南で殺せていたはずだ"
わからなかった
自ら恐ろしい敵だとしながら、生き長らえさせる理由を、知りたいと思った
「それはな…」
心を読まれ狼狽するサタンジェネラル
「私は完璧として存在する必要がある
あのルビスの遣い… タカハシと言ったか、やつはまだ完全な力を発揮できていない
完全な力を倒さねば、真に完璧とは言えぬのだ…」
サタンジェネラルが去り
"祈りの部屋"へ一人、魔王はその天井を見上げ、考えていた
決して見せてはならない、側近へ語ったモノとは違う、本心
やがてここへやってくるであろうルビスの遣い
取り込む力としてだけ生かしたつもりであったが─
"いのちの源"を取り込むほどに、我が身の運命とは…
果たして、変えられぬ物なのか
私は滅ぶべき存在だというのか
そのような意識を私に齎らすものは
魔の繁栄を阻む生命の記憶…
ならば試さねばならない
私はだが、破れはせぬ
万有の力を、この手に─
©2008-AQUA SYSTEM-