タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語
最後の教え
「あ… あれが、いのちの……」
目の前に広がる、まるで見たことも無い途方な情景
夜の空に浮かぶたくさんになった小さな光たち
それぞれが不定な大きさで、ゆらゆらと、それぞれに力を携え瞬く
その光たちに囲まれて、更に大きな光が浮かんでいる
光の集中する地だけが部分的にぽっかりと口を開け、地から天、天から地へと無限に続いていた
「ここは…夜空じゃあないか…!
あの光が、ルビス様のいう"いのちの源"…
なんて、なんて美しい………」
しばらく散りばめられた光を眺め、はっと我に返り使命を思い出す
「そ、そうだ、静寂の玉を持ってこの光に触れて─」
視線を上から下へ向けると数人の人間が、小さな像に向かって集中している
その中には姉ミレーユの姿もある
「姉さん!!」
声はじゅうぶん届いたはずだ
だが、届いていない
「姉さん!俺だ、テリーだ!」
すぐ側へ駆け寄り、更に大きな声で呼びかける
が、やはり届かない
ミレーユ以外の人間も声に応えるでもなく、全くの無反応
まるでそれは、何か心奪われてしまったように、無心にひたすらに
「な、なんだ… まるで俺の存在に気付いてない─」
「オマエ ナニシテル グルゥゥゥ…」
う?!
低く、醜い声へ振り向く
「あ、お前はあの時の…!」
姉に気を向けすぎ全く気がつかなかった
目の先には、ライフコッドで戦ったあのドラゴン─ バトルレックスが今にも襲い掛かろうとしている
「ドウヤッテ ココマデ キタ? ナゼ、チカラヲ モッテイル…」
外に居た魔物と同じ事を投げかけてくる
「俺は 邪魔されるわけにはいかない…」
"いのちの源"を見る
どうやってもこのバトルレックスを相手に触れられる距離じゃない
どうあっても、ここで倒さねばならない
「マア、イイ コノ クウカンデ シネルコトニ カンシャ スルンダナ」
死んでたまるか!
「うおおお!」
スラッと剣を抜き魔力を込めまっすぐ駆ける
『シャァアアァアァアァァア!!!』
きた!
思惑通り激しい冷気を吐くバトルレックス
真正面の広範囲に広がるそれを、俺は避けるように動く
前は恐ろしい技だったが、今はそれが恐ろしく鈍い攻撃に感じる
いける!
俺は、自分で思う以上に強い─!
バトルレックスの横腹へ回り込み一突き
ギシリと固い音が聞こえ、厚い鱗を破る
同時に尾が俺の頬をかすり、直撃を免れるため場を飛び退く
更にじりじりと、他の人間が巻き添えにならない位置へと移動する
「く、油断ならんやつ… さすがに外にいた雑魚とは違う…」
だが─
以前は無理だった剣での直接攻撃でダメージを与えられる
制約なく動けるその意味は大きい
「ギガデイン!!」
突進してくるバトルレックスへ魔力の薄い雷撃魔法を見舞う
大した効果は望めないがこいつは雷撃にめっぽう弱い
考えたとおり、ドラゴンの足が一瞬とまる
「おおぉお!」
その隙、飛び上がり上段へ構えた剣を振り下ろす
「バカメ!」
「!」
ガスッと胴へ、バトルレックスの腕が入り弾き飛ばされる
「ソンナ コザカシイ コトデ コノ オレヲ!」
「ぬ…!」
炎の鎧のおかげか、俺の力か、大したダメージではない
こいつは目晦ましなんかじゃ無理だ
力で剣技で、対抗するしか─
「わかっていたがやはり簡単じゃないな
よし、真っ向勝負といこう!」
「ヨシ ノッテヤル」
話に乗ってきたバトルレックスが、少し笑ったように見えた
こいつは、俺と同じにおいがする…
「は!」
敵は一つ
強烈な冷気にさえ気をつければ問題ないはずだ
俺は剣を斜めに、間合いを詰め切りかかる
対してバトルレックスの武器はその鋭い爪と腕力、そして長い尾
俺の連続した剣技を器用に、そして力強く捌いていく
キィンギィンギリガキリと、次々に雷鳴の剣を叩きつけ払われる
少し隙を見せれば今度は逆に爪と尾が襲い掛かり、それを刃で払い除ける
一進一退、だが一瞬でも気を抜けばあっさりと爪に裂かれるだろう
振るわれるドラゴンの爪を剣で払い、勢いのついた身体を回転させ刃を身体へ中てる
尾を足で受け、切先を突き刺す
刃を撥ねられドラゴンの尾が胴へ衝撃を伝え、爪によって頬や腕が切られる
「はぁはぁ… ちくしょう、このままじゃ埒があかない…」
「グゥゥゥゥ…… グゥウ…」
互いに体力を消耗し、だんだんと手数も減ってくる
ダメージが蓄積されてゆく
対峙したまま距離を置き、肩で息を切る
ほぼ互角─
「ふぅはぁ… こんな、強い魔物が、まだいるっていうのか はぁはぁ」
思わず漏らしたその言葉に、ドラゴンも続いて呟く
「グルゥゥ オレハ ゾーマ サマノ ソッキン ダ… グゥゥルゥゥウゥ…」
強すぎると思えばこいつは側近か!
倒せばもしや、魔王を除いて残りは雑魚かもしれん
そうとわかればまだまだ踏ん張れる
こいつを倒しタカハシを目覚めさせ、共に魔王を討つ!
「いぁぁあ!」
力なんてほとんど残ってなかった
だが倒さなければ なんとしても─
『シャアァァアァアアァァァ!!』
「し、しまっ…!」
冷気!
俺は咄嗟に両腕を身体の正面で合わせ、防御する
「ぐうぅぅぅぅうう!!」
体中が軋む
冷たさが全身を蝕み痛みを発生させ筋肉を硬直させる
体内から確実に肉体を滅ぼさんとする究極の技
「オ、オレハ マケルコトハ デキヌ… カタネバナラヌ グゥゥウゥ…」
どうにか冷気に耐え、倒れる事はしなかった
幸いだったのはバトルレックスも消耗し冷気の質が高くなかったことだ
だがダメージはそれでも、大きい
「う、うう… 俺だって、負けるわけにはいかん… ちくしょう…」
痛い
全身が痛い
身体は、足や腕は辛うじて動かせる
だがどこまでもつか
「ソロソロ オワリニ サセテモラウ! グゥオォオ!」
バトルレックスの追撃
全力の打撃を見舞おうと高く尾を持ち上げ地を鳴らし近づいてくる
これは、この攻撃をかわしたとしても今のままでは決め手に欠け─
『これは非常に危険な技じゃが… お前なら成功させることが出来るじゃろうテリー…』
ふと、メルビンの言葉が思い出される
彼が最後に教えてくれた、危険な技
ヤツも次を最後の攻撃にしようと全力だ
ならば俺も、全ての体力と魔力を懸ける─!
「グアアォォォオオ!」
バトルレックスの尾が振り降ろされる瞬間
「おぉぉおぉおお!」
体力魔力全てを攻撃力とし、切先で地面を削りながら防御無視の刃をドラゴンへ叩きつける─!
『ズバッガッ!!』
「ガアアアァァァァァアアアアア!!!」
「がはっ!!」
血を噴きながら地面へと突っ伏すバトルレックス
尾によって殴り飛ばされ地面へ這い蹲る俺
相打ちだと思った
だが僅かに早く、雷鳴の剣がドラゴンの胴を切り裂き、尾の一撃は失速していた
通常の戦闘では絶対に使うことの出来ない、捨て身の攻撃
この剣技は相手との力が互角に近くないと威力を発揮しない
防御を完全に捨て、もてる全ての力を攻撃力のみへ傾けるソレは"まじん斬り"と名付けられていた
「グ ググゥゥ…… ガッハッ! アノ シュンカンニ、ミゴト ナ… コウゲキ…… ダ………」
バトルレックスの呼吸が止り、そしてもう二度と、動くことは無かった
「はぁはぁ 勝った、勝ったぞ……」
尾は肩から胴、足へかけ袈裟斬りされたような感覚
炎の鎧の硬い鉄を通してもなお、衝撃はすさまじい
もし、もしもヤツがベホマを使っていたら、俺は確実に倒されていた
冷気を使ったが俺の言葉に乗って魔法までは、使わなかったのだろうか
ふむ… どちらにしても、強かった 見事だったよ……
冷気ダメージもあり、薬草も回復魔法もない今、動くためにはしばしの休息が必要だった
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