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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

盗まれた魔法
「俺達は、勇者の呪いを解くため旅をしてきました」
「うむ、知っている
 先ほど、失礼ながら心を読ませてもらったからの
 一応、聞いてみただけじゃ」

……心を読む、か
読まれる方は嫌な感じだ

「だからあんたたちの目的は知っておる
 ……残念な事なんじゃが、勇者様の呪いを解くことはできんのじゃ」
「そんな」

俺は、ガックリと肩を落とし絶句する

古代魔法もなかった
そして、カルベローナの長でも呪いは解けない
いったい、どうすれば……

「この世界に…」

長老が静かに語り始める

「マジャスティスという、魔法がある
 その魔法は、強い正義の心を持つ者であれば誰でも扱える魔法じゃ
 呪いや、マヤカシを打ち消す正義の魔法
 ただし」
「ただし、なんです?」

思いがけない情報に、身を乗り出して長老へ聞き返す

「ただし、どこにあるのかは全く分かっていない…
 ワシらカルベローナの民はその魔法を探しつづけ、そして今でも探しておる
 商人が持ってくる珍しい古文書や情報を集めながらじゃ…」
「そのマジャスティスという魔法は、ほんとに存在しているの?」

メイの問いかけに長老がはっきりした口調で答える

「存在はする
 これは確実じゃ、なにせカルベローナの一族が守っていた魔法なんじゃからな
 だがある日、盗賊によってマジャスティスの魔法書が盗まれてしまった」
「盗賊にですか…」
「うむ…
 あんた達が何者なのか、そこまではワシでもわからん
 じゃが何か、大きな力があんたたちを守ってくれているようじゃ」
「大きな力?」
「そうじゃ
 だからあんた達をバーバラもワシの元へ案内したんじゃろう
 もしかしたら、魔法書を見付け勇者様の呪いを解いて下さるとな
 本来マジャスティスは、盗まれたから取り戻そうとしていたのじゃが、勇者様がああなってしまった
 だから今はその呪いを解くために探しているんじゃ」

大きな力か
ルビスだな、滅多に姿を見せない癖にどこかで見ているのか

「あまり人付き合いしないのも、マジャスティスを探していることを悟られないためですか?」
「いいや、それは一族の昔からの風習というか、そういうものなんじゃよ」

新しい情報"マジャスティス"
どこにあるかわからないが、確かに存在しているという
次の目標は否応なしに決定した
早く呪いを解くためにも、早く元の世界へ戻るためにも、ガッカリしている暇は無い
この世界にきて俺の心は、滅多な事ではめげなくなってしまったようだ

「じゃあ俺達に、そのマジャスティスを探してほしいと」
「いいや、そうは言っていない
 ワシらはワシらで今後も探していく
 あんた達が魔法を見つけ出し勇者様の呪いを解いても文句もいわん」
「…お話、ありがとうございました
 俺達もその魔法を探そうと思います」
「うむ 頑張りなさい
 二人はまだ若いのだから、きっと見付けることができよう」

長老にお礼を言い、家を出る

「結果は残念だったけど、こうして新しい情報も手に入れた
 …まだまだ旅は続きそう─」

メイに話しかけたところで、長老の家の扉がガチャリと開き、バーバラが出てきた

「そちらの… メイさん、長老がお呼びなので来ていただけませんか?」
「私? 私は構わないけど…」

チラと俺を見るメイ

「うん? 構わないよ、俺はここで待ってるから」
「ありがとうございます、ではメイさん中へ…」

バーバラとメイ、二人が家へ入っていく

長老が呼んでるなんて、なんだろう
カルベローナの人は魔力が強いらしいから、その事で話でもあるのかな
メイは賢者だし…


時間にすると一時間ほどだろうか
ガタリと長老の家の扉が開きメイが出てきた
俺は座って何を考えるわけでもなく、ボーッとしていた

「お待たせ」
「お、長かったな」
「ええ 魔法についての話をたくさん聞いてきたわ
 さすがに魔力の強い一族の長だけあって、いろんな事を知っていて、とってもためになった
 タカハシも魔法を覚えたらいいのに、ホイミ教えてあげるわよ?」
「え?俺は… いいよ、メイが使えるのだから」

なんだか、変に、メイが明るく振る舞っているような気がする

「何か、よくない事でも言われたのか?」
「え! いいえ、本当に魔法の事をお話しただけよ
 きっと、いろんな知識を知ることが出来て、嬉しくってそう見えるのね」

俺の思い過ごしか…

「では、道中どうかお気を付けて…」

何時の間にか扉から出てきていたバーバラが俺達の背中へ挨拶し、扉の奥へ戻る
俺たち二人はその姿を、静かに見送った

「…これからどうするの?」
「うーん… 考えていたんだけど、一度ライフコッドへ行きたいんだ
 その後、グランバニアで情報を集めてもいいかな?」
「もちろんよ 私も勇者様の姿を一目みておきたい」
「うん、じゃあトルネコさんに会いに行こう」

相変わらず静かな集落を後に、俺達はグランバニア方面へと歩きだした
もう一度、自分の目標を明確に自覚するために─
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