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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

残り人
翌朝、アトラスとの戦いの記憶も多少薄れ、俺達は出発した

「もう一つの古代魔法はマホトーンっていうの」
「どんな魔法?」
「相手の魔力を、少しの間だけ無力化する事が出来るのよ」
「へぇ じゃあ、その静寂の玉と同じようなものか」
「そうね だけどマホトーンは失敗する事も多いらしいの
 だからあまり過信してはいけないわね」

アトラスを倒してからも、魔物の気配は感じない
俺達はかなりゆっくりとした歩調で進む

魔王にはルビスの気配を感じとれるらしい
わざわざあんなに強い魔物を送り出してくるんだ
俺にはそう思えないが、ルビスは特別な力を持っているんだろうな
それとアトラスの言っていた"闇の衣の魔力"とはなんだ
古代魔法イオナズンも魔力を十分に送ったオリハルコンでもほとんど傷つけることが出来なかった

「闇の衣… 私も聞いたことが無い
 もし、そんな力を全ての魔物が持つようになったら世界はおしまいね…」
「強力な魔法も、剣での攻撃も効かないとなると…
 考えただけでも恐ろしい」

不安はつのるが、今はトルネコの呪いを解く事だけを考えよう
考えすぎると自分の世界へ帰る事すら、見失ってしまいそうな気がするから…


チゾットへ戻った俺達はクリーニに一晩の宿を借りて休み、再び西の道を歩いていた
呪いを解く事ができるかもしれない、カルベローナの生き残りを探すため

聞いた話によると、西の道沿いを歩いていけば逃げ延びた人達が暮らす小さな集落があるらしい
その集落にカルベローナの人間がいるかどうかはわからないという事だったが、このまま途方に暮れるよりはマシだ

プリンセスローブはメイの姿を見たチゾットの人々によって綺麗に修繕され、俺は相変わらず旅人の服だ
当たり前だが男にはやさしくない…
元に戻ったプリンスローブを見て、俺も鎧を買おうかと考えたが魔法の鎧より強力な物はなかった
"無いよりマシ"と適当な鎧を買ってもまたすぐにガラクタになってしまうかもしれない
それなら、懐も寒いし身軽なこの装備のほうが良い
そこらに出る魔物になら、攻撃を当てられる心配も無い

「カルベローナの人達、すぐに見付かると良いけどなぁ」
「この道沿いを進んでいけばいいらしいから、すぐに見付かるわよ」
「見付けたら呪いを、すぐに解いてもらわないとな
 メイももうすぐ、勇者にあえるかもしれないぞ」
「…タカハシは、勇者様の呪いが解けたらどうするの?」
「俺か …俺は旅を続ける
 ただし、トルネコさんと一緒じゃない、一人で旅するよ」
「私達と一緒に旅を続けようよ!」
「それは─」

仕方がないんだ
俺は、帰らなきゃいけない所があるから─

「…その事は、その時考えればいいよね
 もしかしたら、気が変わるかもしれないし」
「…そうだな それにだ
 カルベローナの人達が呪いを解けるという確証はどこにもないんだ
 もしかしたらまだまだ旅しなきゃならないかもしれないよ
 そうなら─」

俺は、何を言おうとしてるんだ
駄目じゃないか
呪いを解くんだ、この旅はそのためにしているんだ
バカか、俺は…

「そうなら?」
「ん?ああ… そうなら… どうすれば呪いが解けるんだろう?って、言おうとしたんだ」
「わからないわね 呪いに関しては、教会でも研究が始まったばかりだし…
 大きな町へ行って、人の話をたくさん聞いたほうがいいかもしれないね」
「大きな町か、じゃあもし、呪いを解けなかったらグランバニアへ向かおうか」
「そうね、グランバニアなら人が集まるからいろんな話が聞けそう」

どのみちライフコッドへ行くには、この西の道を通りグランバニアを経由する事になる
呪いが解けなかったとしても、一度ライフコッドへ行こうと思ってたから丁度良かった


西の道を歩き始めて幾日、うっそうとした森からようやく開放され、目の前に平地が現われる
更に数日進むと丸太を組み上げて作った小さな家がたくさん並ぶ、町らしき場所へたどりついた

「なぁ、あれ
 あれがもしかすると生き残った人達が住む集落じゃないか?」
「きっとそうね だけどこれは…」

その場所は全く"町"という風体をしていなかった
整備された路があるわけでもなく、店があるわけでもなく、家もバラバラな方向へ向かい
まるで散らかされてしまったように感じる
それも広野に、広範囲に

「まぁ、見た目はどうでもいいさ
 カルベローナの人達を見付けなきゃな」

集落へ入り人を探す
だが全く人気は感じられないし、家の扉は閉ざされたまま
少し気味が悪い

「うーん、誰もいないな
 仕方がない、一軒ずつ尋ねていくか…」

なんだか訪問販売みたいで嫌だったが、外に人がいないんだ
こうするしかない
コンコンと扉をノックし声を掛ける
ガチャリと開き、女性が応対してくれた

「はい、なんでしょう?」
「あっ 俺はタカハシといいます
 あの、カルベローナの人はこの集落にいますか?」
「カルベローナの人は、居るにはいるけど…
 ここはカルベローナの人達が作った場所でね、だからそこ出身の人がほとんど
 でも付き合いしたがらないから、誰も外へ出なくなってしまったんだよ
 私はアリアハン出身だけどね」
「家へ尋ねても話してくれないんですか?」
「あんた、商人かい?
 商人だったらカルベローナの人も話してくれるかもね
 あの人達は買い物が好きみたいだから」
「そうですか… ありがとうございました」

商人か…
幸い今はチゾットで食糧や薬草を補充したばかりで荷物は大きい
これなら、心苦しいけど欺けるかもしれないな
早速、隣の家の扉をノックする

「はい?」

中からは中年の男がドアを少しだけ開け、返事をする

「あ、すみません
 商人なんですが、何か買っていただけませんか?」

俺は商人になりすまし、大きい袋を見せアピールしてみた

「…あんた、商人じゃないな
 すまんが見知らぬ人とは話をする気分じゃない、他をあたってくれないか」

男はそういうと扉を閉じてしまった

うーん、たぶん今の人はカルベローナの人に違いない
一言で見破られてしまうとは、トルネコに商人の話しかたを学んでおけばよかった

「タカハシ、どうしよう?」

メイも心配そうだ

「もしかしたら、一人くらい話をしてくれる人がいるかもしれないから…」

俺はそう言い、再び並ぶ家を尋ねる
だが、今度は一言も話さず、断られてしまった
なんでこんなにかたくななんだ…


それから20軒は回っただろうか
その間にカルベローナの住民と思える人は10人いたが、全ての家で門前払い
次、駄目なら一度チゾットにでも戻って商人を連れてこようかと、考え直しながら21軒目の扉をノックする

「はい、どなたでしょうか?」

今までとは違い、扉を大きく開いて一人の若い女性が出迎えてくれる

「あ… えーと…」

商人作戦は通用しない
なんと言えばいいのか─

「…あなた、何か、普通とは違う雰囲気を持っていますね
 それに後ろの女性は大きな魔力を感じます
 ……私はバーバラ、どうぞお入り下さい」

どういう事なのかわからないが、なぜか家の中へ通される俺達二人
まだ名乗ってすらいないのに

丸太を組み合わせ作られた家
中へ入ると狭い部屋が二つ
片方は台所とテーブルが設置され、今通されているもう一つの部屋には二つのベッド
一つは空で、もう一つは歳老いた男が横になっていた

「長老、この方達は………」

バーバラが、長老と呼ばれた男へヒソヒソと短く耳打ちする

「うむ… そうか
 バーバラ、お前は下がっていなさい…」

長老がそう言うと、バーバラは俺達に軽く一礼し部屋を出ていく

「あんた方、ワシの横へ…」

長老が横になるベッドへ近付く二人

「む……… あんたはタカハシ、後ろの女性はメイ、か
 して、何か用かな?」

なんと
長老は心を読めるのか?
なぜ俺達の名前がわかるんだ…

「ワシは、カルベローナの長老 だった者じゃ
 ほんの少しだけ、人の心を見通せる」
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