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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

変わらない
巨大なアトラスの身体には無数の深い斬り傷がパックリと開き
その命を奪ってしまっていた

「倒したのね…」

メイがよろよろと、立ち尽くす俺の横へ歩み寄り言った
深々と突き刺さった木の枝の傷痕は、消えてなくなっている
残っているのは真っ赤に染まった血痕

「残った全ての魔力で、古代魔法ベホマラーを使ったの」
「ベホマラー?」
「そう ベホイミやベホマとは違って、一度に複数の人を治せる
 だけど、イオナズンとあわせてかなり魔力を消耗してしまったから、一晩くらい休まないと…」

だから…
不思議な力が湧いてすぐには起き上がれなかったけど
ベホマラーのおかげで立ち上がることが出来た
あの時メイが呟いた魔法はこれだったんだ
もし、洞窟で古代魔法を手に入れることが出来ていなかったら、今ごろ魂だけの存在になっていた

「ありがとう」
「お礼なんて、私たちは一緒に旅をして一緒に戦っているんだから」
「…そうだな ありがとう」

口の中に鉄のニオイに似た味が、ザラザラと残っている
俺はいったいどうやって アトラスを倒したんだろう

「剣が白くなって、タカハシはとても早い動きで何度も何度も… 斬り付けたのよ」
「何度も… 全く覚えていないよ」

右手に握るオリハルコンの剣は、いつもの通りの金属色
不思議な力は効力を失っていた
倒れる巨体へ目をくれると、光に包まれ空へ溶けこんでいくところだった
同時にシュンと、辺りから不穏な気配も無くなる
そのまましばらく無言で空を眺め、俺は口を開く

「メイ、ルビスの事なんだけど─」

話しておかなければならない
俺といれば、またアトラスのように強い魔物が現われるかもしれない
だから、真実を言って そして俺は一人で旅を続けたいと─

「私は… なんでもいい」
「え?」
「タカハシが"どこの誰で何者"だろうとタカハシである事は変わらない
 今まで通り、なに一つ変わらないの」
「…そうだとしても、また強い魔物に襲われてしまう可能性は高いんだ
 これ以上、俺と旅を続けるのは危険過ぎる」
「平気、よ タカハシがきっとまた、強い力で助けてくれると信じてる
 それに、まだタカハシと旅を続けるって決めてるの」
「しかし─」
「私は、こんな事だいじょうぶだから─」
「聞いてくれ 俺は本当は─」

言い掛けた言葉は、メイの手の平で抑えられ出口を失った

「いい 言わなくても、いい
 今まで通り、いつもみたいにまた、旅を続けようよ
 今までだって常に危険だったじゃない」

メイの目も"それ以上なにも言わないでほしい"と語っているのが感じとれる
俺はいったいどうすれば…

「わかったわ じゃあ、こうする
 もしまた不穏な気配を感じたら、私はすぐに遠くへ離れ逃げるから…
 約束するから、お願い…」

アトラスとの短い会話の中でメイは何を、何に気付いたのか
もしかしたら俺が普通の人間では無いことに気付いているかもしれない
俺のあの不思議な力、俺自身が驚いてるんだ
……だけどやっぱり危険すぎるよ

その後も説得し続けたがメイは折れてくれず
"危険を感じたら必ず逃げる"
という約束を俺は信じ、一緒に今まで通り旅を続けることを承諾した
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