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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

巨大なその、邪悪なるモノ
「早くここから出よう ここは空気が悪い」

ゆっくり、松明を左右に揺らしながら元来た道を帰ろうと振り返る
と─

「あれは…?」
「もしかして… これと同じ魔法が封印されていた丸い石じゃあ…」

うっすら見える巨大な物体へ近付くとやはり
さっき俺達が封印を解いた球体の割れた姿

「もしかして誰かが封印を解いたとか…」
「そうとしか、考えられないわね
 でもどうして全ての封印を解かなかったのかしら…」

この球体にはどんな古代魔法が封印されていたんだろう
ん、そういえば魔物たちは古代魔法ルーラを使っていたな
……まさか!?

「早くここから出たほうがいいかもしれないぞ」
「どうして?」
「実はな、トルネコさんと旅をしているときにルーラを使う魔物がいたんだ」
「ルーラ それは確か古代魔法ね… !」
「そう、この封印を解いたのは魔物かもしれないんだ だから」

何か、やばい気配が辺り一面に流れ込んでくるのを感じた
俺とメイは急いで洞窟を駆ける
正面に外のまぶしい光が見え、その光へ飛び込むように洞窟から抜け出す

外には森のさわやかな風が吹いているが、身体は汗だらけ
走ったのもあるがそれだけではない

「気配が消えない─」

『ガサリ』

「貴様ら、何をしている?」

不穏な気配の正体
それは目の前に突如現われた巨大な魔物 一つ目で、鍛え上げられた身体を持つ、アトラス

「まさか封印を解いたのではないだろうな?」
「お前に言う必要は無い…!」

オリハルコンの剣を抜きながら俺は、アトラスの前に立つ

「ふん 弱い人間のくせに口答えするか
 …もう一度だけ聞く 封印を解いたのか?」

アトラスの大きな身体にギュッと力が入るのが分かった
こいつは簡単に倒せそうな相手では無い
救いは魔力を僅かしか感じられないから、力だけかもしれないという事だ

「もちろん解いたわ! なにか、不満?」

メイが俺の前へズズイと出て、強気な返事を返す

「メイ、俺の後ろへ…」
「不満だと?
 封印を解いたのなら生かしておくわけにはいかんな
 解いてなくても殺すがな! ぐあっはっは!」

久しぶりの戦いだ
魔力も体力も完全に回復している
どう仕掛けるか…

「殺されるのなら、知りたいわ
 他の封印を解いたのはあなたたち魔物?」
「ふむ どうせ死ぬのだから教えてやろう
 俺達魔物では無い ゾーマ様自ら封印を解いたのだ
 魔法はルーラだけだったが、俺のように強い魔物にもゾーマ様はルーラを授けてくださった」
「ルーラだけ… 魔王にしか封印を解けないのだったらあなたは何をしにここへ?」
「俺か? ゾーマ様がルビスの力を潰せと俺に命じたからだ」
「ルビス…だって?」

唐突に出た"ルビス"という単語に、今度は俺が聞き返す
こいつは単純なのかよく喋ってくれる

「そうだ 下らない、創造神ルビス
 相当の猛者がいるのだろうと期待してみればどうだ
 いたのは貧弱な男と女ではないか…!」

足を踏みならし悔しさを表現するアトラス
右手に持つ巨大な棍棒をドスンと地面へ叩きつけ、俺達二人を見下ろした

「ゾーマ様はこうもおっしゃった
 ルビスの力はどんなに小さくてもいずれ大きな力となり我々魔族を脅かす、とな
 そして貴様等は"か弱い"くせに封印を解き古代魔法を手に入れた
 貴様等のどれがルビスの遣いで、なんの魔法を手にしたかは知らんがな!」
「ルビスなんて、俺は知らん…」

俺はかなり迷った
こうなってしまっては、メイに俺の正体を隠しつづけるなんて出来ないからだ
だけどメイには、メイにだけは話しても…

「さて 貴様等と下らない話をするのにも飽きてきた
 さぁ! 死ね!」

アトラスがドシンと前足を出し棍棒を俺に振りかざす
俺は戦いの事以外を考えていたから反応が一瞬おくれてしまった
やばい…!

「イオナズン!」

ズドドォと、アトラスの居たあたりに凝縮され圧力の高まった爆発が起き、激しい爆風が辺り一面に埃のカーテンを作り出す

「はぁはぁ… やっぱり古代魔法はまだ私には負担が……」

メイだ
メイは俺とアトラスが話をしている間に魔力を溜めていた

「メイ! 大丈夫か?!」
「ええ… 古代魔法の一つよ、すごい威力だわ…
 これだけで魔力をほとんど使ってしまった…」

爆発は空気中で起きていた
爆風は収まり、もうもうとのぼっていた埃が消え視界がはっきりしてくる
その痕は、木々をほとんど薙ぎ倒し残っている
アトラスは地面に俯せ倒れていたが、致命傷にはならなかったらしい

「く… なんて魔法だ…」

頭を抑えながら立上り俺達を睨み付けるアトラス
胸元はブスブスと煙が立ちこめ焦げている
あれだけの爆発を一身に受けながらこの程度の傷しか与えられないとは、なんと恐ろしい魔物だろう

「うがががががああああああ!!」

薙ぎ倒された木々を更に蹴飛ばしながら、力任せに棍棒を俺にいくつも振るうアトラス
その度にドスンズシンと地面が揺れ、意外にも素早いその動きを懸命に俺が避ける

「しねぇぇぇぇえええぇ!!!」

ただひたすらに、前に立つ俺を追いかけ回し棍棒を地面へと叩きつけるアトラス
俺は叩きつけた後に出来る少しの隙を狙い、魔力を十分に送り込んだオリハルコンの剣で斬り付ける
が─ 刃があたる瞬間、妙な感触のせいで思った以上に深い傷を与えることが出来ない
魔王の力なのかなんなのか、とにかくこのまま地道に小さいダメージを与え蓄積させるしかない─

そうしてそんな追いかけっこが数分続いた所で、俺はある事に気づく
それは─
アトラスが蹴り飛ばす木は、確実に退路を絶っているのだ
その事に気付いたときはもう手遅れで、俺とメイは積み上がった折れた木に挟まれ、目の前には余裕の戻ったアトラス

「俺が力だけだと思っていただろうが、残念だったな!
 貴様等の魔法や剣など闇の衣の魔力の前では無力!
 もう逃げ道はない さぁ、死んでゾーマ様の力となれ!!」

おおきくゴツゴツとした棍棒がいままでよりも遙かに早い速度で近付き、俺は両手を使いオリハルコンの剣で受ける
が、とてつもなく重いその一撃に直撃こそ免れたが、俺とメイは地面から足が数十センチ浮き、吹きとばされてしまった

「くっ……… なんて、力……!」

ゴスッ!

「カ ハッ……!」

腹に激痛と苦しさ
同時にゴキッという骨の砕ける音
俺の口から苦く、温かい液体が飛び出す
血だ
魔法の鎧をまるで薄皮のように、アトラスの大きく太い足がグイグイとのしかかる

「タカハシ!」

少し離れた所へ飛ばされたメイが、ヨロヨロ立ち上がりながら声をあげる

「女 人の心配をしている場合か?」

アトラスは俺から足を除けおもむろにメイへ近付き、身体に見合う大きな手で、叩き払った
メイの小さく軽い身体はまるで折紙のように空を舞い、倒された木々へガラガラと落とされる

「う……」

折れた木の枝が、胸部を貫通しプリンセスローブが真っ赤に染まってゆく
表情を歪ませその枝から身体を引き抜き、更に地面へ落ちるメイ



『力を─』

ルビス…か?
俺に、こいつと戦う"力"をくれ…

『あなたはすでに"力"を持っている 守りたいモノや人を強く、思いなさい…』



俺の中で何か大きな力が起き上がり、身体を支配する
逆にオリハルコンの剣は輝きを無くし、変わりに刀身が純白へと変わる
だが酷く損傷した俺の身体は思うように動かせない

「ベホ……」

メイが何かを小さく呟き、俺の身体にフワリとした感覚─

『ズシュ』

「クッ!! なんだキサマ!? この後に及んでまだ俺に抵抗しようというのか!
 人間が無駄な事を!」

意識とは無関係に、アトラスの腕へオリハルコンの一撃を見舞う俺

その後は 覚えて、ない
気が付き目の前にあったのは 横たわり動かない、アトラスだった
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