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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

封印された魔法
夜になり、まだ洞窟へはたどり付けず俺達は石畳の道沿いで過ごすことにした
メイは、古代魔法が近くにある為かなかなか寝つけないようで、見張りをいつもより長くしてくれると申し出てくれた

「眠たくなったらすぐに声をかけてくれよ」
「ええ、ありがとう
 でもここ最近、魔物の気配は感じられないしこんな森の奥に人が来るなんてなさそうだから」
「魔物か… どうして急に姿を見せなくなったのか気になるけど、体力を温存できるから助かるな
 でも油断は禁物だよ」
「もちろん 何か起こったらすぐに起こすわ
 だから、たまには… タカハシは安心して休んで」
「たまには? ははっ いつも安心して休んでいるさ
 まぁそう言ってくれてるんだから、今夜は少し多めに休ませてもらうよ
 何度も言うけど、何かあったとしても一人で無理するなよ」
「うん」

木々の隙間からわずかにのぞく深い青色をたたえる夜空
その夜を物憂げに見上げるメイにその場をまかせ、俺は固く薄い毛布に身を包んで眠った


この世界に"季節"は存在しないのだろうか
もうかなりの年月、この世界を旅しているが気温も湿度も変わりなく一定だ
雨だってこの間が初めてだった
俺は、そんな気持ちの良い風と空気にすっかり慣れきってしまっている…

だけど、今いるこの場所の環境はとても酷い
多量の水分を含み生温かい空気
体中にじっとりとまとわりついてくる汗
こんな場所早く出たい 外が恋しい
ここは─ 封印の洞窟内部

夜が明け、歩きだした俺達は程無くして、外へぽっかりと口を開ける岩山を見付けた
それはすぐに洞窟だと分かり同時に目指す場所であることもわかった
だが入口周辺には洞窟を見付けた人間が残した者であろう焚火の痕と、置き去りにされ朽ち果てかけたいくつかの布袋
"もう 封印は解かれてしまったのでは─"
ここまでリアルな人の形跡を見せつけられ、そんな思いが頭をよぎった
だけどやっぱり諦める事なんて出来ない
だから俺が率先して中へと踏み込んだ
メイの、不安そうな表情をなんとかしようと思ったのもあるが─

焚火に使う燃料用の油を布へ染み込ませ、それを手頃な木の棒へ巻き付け松明を作り進んでいく
洞窟の中は人間三人が横に並んで歩ける幅
高さは二メートル半ほど
壁はデコボコで、明らかに手で堀進んだことが分かる
一面にびっしりと苔も張りついている
魔法を封印するためだけに掘ったのだろうが真直ぐ続く道はとても深い
相当の年月がかかっただろうと思う

「嫌な空気… 早く古代魔法を見付けて外へ出たいわ」
「きっと、長い時間人の出入りがなかったのだろうから空気の入れ換えができず、澱んでしまったんだろう…」

警戒して足早に進んで行き、やがて丸く広がる空間へとたどり着いた
松明の明りでうっすらと先が見える

「正面の奥、何かあるわ!」

メイの言葉に急いでその場所へと進み寄る
炎で照らし出されたのは石出で出来た石の土台と数メートルはある巨大な石の球体

「これが 封印…か?」

少し緊張しながらメイへ問いかける

「ええ… 古文書にはこの"丸い石に手をかざし念じろ"と書かれているわ
 …やってみる」

メイが球体へ手をかざし、集中を始める

「…… …… よかった! この封印はまだ解かれていない!」

顔を見合わせお互い安堵の表情
先に入った人間は、恐らく封印を解くことが出来なかったのだろう
これだけ巨大であれば持ち出すことさえ不可能だ

「いよいよ、封印を解くわね…」

メイは手をかざしたまま古文書に書かれた古代文字を指でなぞり、何かを呟く
すると、その呟きに反応するかのように球体が赤くぼんやりと光り、ゴゴと音をたて二つに割れてしまった

「! 割れたぞ……」

俺は声に出して驚いたが、メイは目を瞑ったまま集中している
その様子に俺はなんだか声を掛けられない
しばらくしてメイが、口を開いた

「……封印されていた魔法は、全部で三つ 全て、会得出来た…」
「もう終わったのか?
 いやにあっさりしてるんだな… それで─」
「ごめんね…… シャナクは、無かったの…」

シャナクは 無かった─

「ここまで来て… 本当に残念……」
「いや、これは誰も悪くない 謝ることは無いよ」
「でも 私が期待させるような事を言ってしまって─」
「気にしなくて、いい
 元々、イシス以降まったく宛の無かった俺の旅なんだ
 そんな旅に希望をくれたのはメイなんだよ 感謝してるさ
 それにまだカルベローナがあるんだ
 大丈夫、まだ希望はあるし何があっても誰のせいでもないから」

泣きそうな顔のメイ
俺は自分自身にも言い聞かせるように、そう言った
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