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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

慣れない男と小さな事件
「おかえりなさい、タカハシさん」

診療室へ戻った俺をクリーニが迎えてくれた

「あ、そういえばここを宿屋変わりに使ってしまって…」
「とんでもない
 実はもともと私は宿屋を営んでいまして、実際ここは宿屋だったんです
 私が医者を始めてしまったせいで、この町からは宿屋が無くなってしまいました
 旅人は皆、民家へお金を払って泊めてもらうんです
 そんな環境ですし、構いませんよ」
「そうでしたか」
「お代はテリーさんにいただいてますから、どうか気にせず」
「…遠慮なく使わさせていただきます」
「私は地下の自分の部屋にいますから、何かあったらすぐに呼んでください」

クリーニが地下へ降りていく
俺は背負っていた食糧袋を床へ起き、メイの寝ているベッドの側にある椅子へ腰かけた

ここチゾットから封印の洞窟まで、メイの持つ古文書の地図を見る限り距離はないからすぐ行けるだろう
だけど…
隠されていた道が今では誰でも利用できるようになり、商人や旅人は当然あちこち見て回る
洞窟が誰にも見付かっていないなんて保証はどこにもない
むしろ、すでに見付かっていると考えたほうが良い
…封印された魔法は、高度な魔力を持つ者にしか封印を解くことが出来ないという事だけが安心材料
しかしこれは封印方法にもよるよな
もし持ち運べる程ちいさな封印であれば持っていかれているだろうし
とてつもなく巨大なものであれば、持っていかれないとしても破壊されているかもしれない
賭けだ これからいく洞窟に果たして、何が待っているのか
メイの事を考えれば封印が残っていると、信じたい
俺にはシャナクがなくてもまだ、カルベローナの生き残った住人という可能性がある
それにしても…
しばらく魔物の姿を見ていない
もしかするとここら辺一帯は魔物がいないのだろうか
道具屋の話だと旅人も多いそうだし、壊滅させられた町の人も西には多く住むという
魔物が現われないから交流も盛んに行われているんだな
魔物はどこへ行ってしまったのか…

メイの顔を眺めた
とても落ち着いた表情で眠っている

…なんで俺と行こうと思ったんだろう
俺なんて、フィッシュベルにいる時はとても弱かったし助けられてばかりだったのに…
もっと強い人と旅をしていればこんなに身体を痛めつけることもなかったのに…

気付くと、濃い茶色の長い髪
メイの頭へ手を乗せてしまっていた

「うぉ…」

思わず発し、手を除ける

「どうしました? 顔を真っ赤にして」

ベッドの横の階段からクリーニが登ってきながら言う

「あー 邪魔をしてしまいましたか?」
「え、うぅあ そんあ、そんなこと無いですよなんでもないですから」
「はは、そうですか さっき言い忘れてしまいましたが、お湯を用意しました
 どうぞ使って下さい」

はぁ なんてザマ
別におかしな事はしてないんだから堂々としててもいいはずなのに
無意識だったけど、慣れない事はするもんじゃないよ…

気をとり直し、クリーニへ返事をする

「それは助かります 二十日も水浴びすらしていなかったですから」
「では地下を降りてまっすぐ、突き当たりへ
 これ、タオルです」
「ついでに洗濯してもいいですか?」
「どうぞどうぞ」

クリーニからタオルを受け取り、荷物から全部の着替えを取り出し風呂場へ向かい湯を浴びた

「ふぅー…」

この世界では始めての湯舟に浸かりながら一息

やっぱり湯に浸かるに限る
水じゃなんだか、うまくないんだよな

そのまま裸で、衣類全てをゴシゴシこすり洗い、風呂場を出ようとしたとき事件は起きた

「着替えまで洗っちまった…!!」

まずいぞこれは
まさか全裸で上がるわけにもいかない
考えろ、俺!
………そうだ魔法の鎧!
いやっまてっ!
裸に鎧は、胴体しか隠れないし明らかに変質者じゃないか
このまま服が渇くまでここにはいられない…

この世界に来てたぶん一番脳をフル活用して出た答えは─

「クリーニさん!! クリーニさーん!! 服を貸してください!!」

この場から助けを呼ぶ事
しかし、ついてない事にその時クリーニは出かけていた

そうとも知らず俺は必死に叫びつづけ
急いで着替えを持ってくるクリーニを
かなり長い時間待ったのだった
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