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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

チゾット[2]
「ルビス… 様……」

メイが上ごとで小さく呟く

そう、ルビスが誰を勇者にするかだ
そのルビスが、この世界を救うのは俺では無いと言った
でも俺はオリハルコンという特別な金属を扱っている
…どうも信用できないな 俺に何をしろって言うのか
また変なタイミングで現われるだろうから今度こそは聞き出そう

「ええと、それで治療費なんですが…」
「いえいえ 先ほども言いましたがテリーさんに頂きましたから結構です
 それに医は仁術、人に恵みをもたらすという意味もあるのですよ
 私はその喜び、仁徳を受け取れるだけで満足です」
「そうですか… では余裕ができたらいつか、寄付させていただきます」
「ええ 余裕が出来たらぜひ、お願いします」

ニッコリと微笑むクリーニ
この世界の人は必要以上に欲がないというか、羨ましい

「あ…!」

急に、メイの何かを追いかけるような声
そのまま動かず横になったまま、目と表情だけが動いていた

「コホン… では私は少し席を外しますので」

クリーニが診療室を出る

「大丈夫か?」

俺はメイのベッドへ行き、話しかけた
その顔色は良く、体調も回復しているようだ

「タカハシ…」
「ん?」

キュッと、俺の手をとり心配そうに顔を見つめるメイ
ほとんど死にかけた二人、助かったんだから感激しているんだろう

「助かったね… ここはどこ?」
「チゾットだよ テリーが偶然俺たちを見付けてこの村の人に知らせてくれたんだそうだ」
「テリーさんが? どこにいるの?」
「それが、もう旅立ってしまったって」
「そう… 今度テリーさんに合ったらお礼言わないとね」
「そうしよう それから今後だけど、まだ予定は何も決めていないから後で一緒に─」
「あの……」
「どうかした?」
「…いいえ 私はもう少し休ませてもらっていい?」
「ああ、ゆっくりしてていいよ」

メイがまた、布団へ潜り込む

さて、これから何をするか
とりあえず、食料品でも買い込んでおこう

空になった食糧袋を背負い診療室を出る


チゾットの村は山に沿って作られていた
崖に沿って山肌を切り崩し道を作り、その道沿いに家が並ぶ
"並ぶ"というよりは岩をくりぬいてある
家は岩の奥深くまで続いていて、その中で数十人が暮らしているようだ
店を探すと食料品屋と道具屋しかない
特に見て回る場所もないようなので食料品屋へ直行した

「いらっしゃいませ!」

食料品屋はとても広く、品揃えが多い
対照的に客は俺一人
住民が買い物にくるにしては広すぎるし、こんな山の中でどうやってこんなにたくさんの食糧を用意できるのか
不思議に思い店主に聞いてみた

「はは あんたが運ばれてきた道と反対方向の地、西側に村や町を無くした人達がたくさん住んでいるんだ
 そういう人達が二十日に一回ほど大勢でまとめ買いにくるんで、それで広くしている
 品物は西側へ採りに行って加工してるよ
 ここらは旅人も多いし、商売するには困らないさ」

西の地へはすぐに行ける?

「すぐもなにも、二日かからない
 それにしてもグランバニアからならもっと楽に行けるのに東側からそれもたった二人でくるなんて
 あんたずいぶん遠回りしてきたんだなぁ、イシスから来たんだろうけど」

グランバニアから…?
え! 地図にはそんな道のってなかったぞ?
じゃあトルネコの地図は…?

「もっとも、グランバニアからの道は今まで隠されてきたから、知らなくても無理はないけどね はっはっはっ」
「なぜ隠されていたんです?」
「ここからずっと西にはカルベローナがあってな
 その町の住民の意向でそうしてきたんだが、町は魔物に破壊されてしまった
 だから隠す必要が無くなって、知られるようになったのさ」

隠されていた道 それなら地図に載っていなくても仕方がない
それにしても…
経由できる町を考えると、グランバニアから行ったほうがはるかに安全だ
西からならチゾットまで三日かからない事も含めて…

店主の話にショックを受けながら、保存の利く食糧を買い店を出る
大きく膨らんだ食糧袋を背負い、俺はクリーニの診療室へ戻る事にした
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