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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

チゾット[1]
どれくらい 倒れた?
ここは どこだ?
メイは どうなった?
俺は どうなっている?

もしかしたら死の世界かもしれない
瞼を開くのがとても恐ろしい
あの状況ではとてもじゃないが助かったとは思えない

だけどこの感触
柔らかいシーツにベッドだ
俺は、ベッドの上で寝ているんだ
助かったのか?
だとしたらここは… チゾット?
それとも元の世界、か?

"イチ、ニィ、サン…"と心で掛けながらゆっくりと瞼を開く
石で出来た天井に大きなランプが下がっている
元の世界でも死の世界でも無い、この世界の部屋

身体中を大きな倦怠感に支配され、起き上がりたいけどそれも出来ない
仕方がないから顔だけを横に向けると、隣のベッドで白いシーツに包まれたメイの寝ている姿

「…ここは」

俺の声に反応したのだろう
誰かがコツコツと足音を立て近付いてくる
反対方向を向くと、スラリとした長身の男が居た

「気がつきましたか 私はここチゾットで医者をしているクリーニといいます」
「チゾット… 医者… じゃあ俺たちは助かったんだ……」
「貴方は運が良かった
 たまたま、東から来た旅の剣士が通りかかりこの村の者へ知らせてくれたのです
 お二人とも脱水症状があり、栄養失調になりかけ他にもいろいろ、です」
「助けていただいて感謝します… メイは…?」
「一緒にいた女性ですね 大丈夫、今は熱も引き寝ているだけですよ
 しかし貴方が、意識がはっきりしないにも関わらず、この女性の事を言わなければ存在に気付かなかった」

目立たない岩影に寝かせていたから、見付けてもらえなかったんだ
また、トルネコを目の前で呪われてしまったように、メイも助ける事が出来ないと─
とにかく助かって本当によかった
もう、俺の目の前で誰かが立ち上がれなくなるのは、見たくない

「さぁ、貴方もまだ回復していません
 この薬を飲んでもう少し休んでください」

クリーニから粉薬と水の入った器を受け取り、それを飲み干す

「その薬は身体の回復力を促進させる効果がありますから……」

薬の説明を全て聞く前、現状に安心した俺はストンと深い眠りに落ちた


俺を夢から引っ張り出したのは
クリーニが村の人の治療をしている声

ゆっくり身体を起こしてみる
身体の痛みと疲労感はすっかり無くなり、完全に回復したようだ
今までの旅の疲れも、消え去った

メイは─
隣のベッドで眠っていた

「おや、目が覚めましたね
 身体はすっかり治ったのでもう動いて大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、クリーニさん
 俺はタカハシで、この娘は俺と旅をしているメイといいます」

ベッドから降り、履き慣れた革靴に足を収める
健康に戻った俺の身体はとても軽かった

「はは タカハシさん、礼なら旅の剣士殿に言ってください
 要らないというのに治療費まで支払っていったのですから」
「治療費まで?! その剣士は今どこに」
「なんでも、強い魔物を探すんだとかですぐに旅立っていきましたよ」
「そうですか… 名前はわかりませんか?」
「ええと… テルー? いえ… テリー、と名乗っていましたね」
「テリーだって?! はははっ」

思わず大きな声で笑ってしまった
そうかテリーか!

「テリーさんからあなたに伝言を預りました
 "約束を、忘れるな!"
 だそうですが、知り合いですか?」
「ええ、まぁ 友人なんですよ」
「そうでしたか! それはそれは」

話をしたかったけど、相変わらず忙しく動いているみたいだ
感謝するよ、ありがとうテリー
それにしても、メルビンはどうしたんだ
もう修行は終わったのか?
そしてテリーの言う約束
俺が元の世界へ戻る方法を見付けたとしても─
果たさなきゃならないな

よし
なんだか心も元気に戻ってきた
俺は俺の今の目的を、精一杯やってやろう

「…俺たちの荷物はどうなりました? それから何日くらい眠ってましたか?」
「荷物は、私が責任を持ってお預かりしていますよ
 タカハシさんは十日、そしてメイさんはかなりひどい状態だったのでまだ休ませたほうが良いでしょう
 無理もありません、いろんな症状が一度にでていたんですからね
 あ、身体は治っていますから安心して下さい」

クリーニはそう言い、地下への階段を降りる

俺たちが休んでいる部屋はクリーニの診療室だろう
広い机と診察台、大きな本棚にはたくさんの本が詰められている

あれ?
この世界に病院や医者というものは存在していないんじゃぁ……

「さぁこれです」

クリーニが大きな布の袋三つとオリハルコンの剣を抱えて戻ってきた

「ありがとうございます ところで…」
「なんでしょう?」

受け取ったオリハルコンの剣を腰に携えながら質問する

「この世界、というか、医者というのは?」
「ええ、私が作った職業です
 一般には病気になったり怪我をした場合、薬草や魔法、そして教会で治療することが当り前ですが
 その手段を持たなかったり教会では間に合わなかったりします」

悲しそうな表情で話すクリーニ

「薬草で病気は治りませんし、魔法は使える者が限られている
 最近は病気も複雑化して野草では治らない事が多い
 そうなると教会で人体に詳しい者が治療するのですが、これもまた神官の高齢化でままならなず知識も中途半端
 そこで、です
 私のように怪我や病気を治す事を専門にした人間が町にいれば、そんな事は無くなるだろうと考えた」
「なるほど それで"医者"という職業を始めたんですね」
「そう、今はまだ私しかいませんがきっと認められ、もっと広まると信じています
 "医者"は"医療"で人を助ける
 医者の医は病気を治すという意味があるのでそう名付けました」

医者という職業が広まるのは確実だ
教会から文句を言われるかもしれないが、頑張ってほしい
その為には勇者が世界を救わないといけないんだが…
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