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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

正面にある宮殿へ向かい歩き始めた俺たち二人
道は大理石のような美しい石で舗装され、建物全ては白で統一されている
地下の壁全体も白 まるで近未来を描く映画のよう
 
だけど、何か違和感を感じる
家そのものは大きいのだが窓や入口が妙に小さいのだ

「なぁメイ なんでこの町の入口や窓なんかは小さいんだ?」
「いい所に気付いたわね 向こうを見て」

メイの指す方向へ顔を向けた
身長の低い真っ白なローブを着た二人の男が、何か話しているのが見える
町の色にまぎれ込んでいて気付かなかった

しかし二人の男はやけに… 小さい?
髭を生やしているから大人、だよな…
離れているからとかそういう理由ではなく明らかに"身長が低い"

俺の困惑した表情を見て笑うメイ

「向こうにいる人は小人なのか?」
「あはは 違うわ
 このイシスはね、ドワーフの町なの」
「え? どわわふ?」
「どわーふ、ドワーフよ 聞いた亊無い? 旅人なのに」
「…初めて聞いた」
「珍しい旅人ね…
 いい? ドワーフっていう種族は人間と違って身長が低いの
 手先が器用で人間とは違う独自の文明を持つのよ
 器用なだけじゃなくて魔力も力もあるわ」

ドワーフなんて初めて聞いた
トルネコもテリーも知ってて教えてくれなかったのか?

「ふぅ… この町には驚いてばかりだよ」
「驚いてくれて嬉しいわ」
「まぁ嫌な驚きじゃないからいいけど…
 そういえばメイはイシス出身なんだよな なのに、ドワーフに見えないのは…?」

言ってから、この質問はまずかったかもしれないと気付く
だがメイは至って普通に返事を返してきた

「私の父がドワーフで母が人間なの
 珍しい組合せなんだけどね そして私は父の魔力を受け継ぎ母の人間の姿を受け継いだわけ」
「そういう事か」

よかった、拾われた子供とか不幸な生い立ちじゃなくて…
でもドワーフと人間じゃ身長差が大きいな
向こうで話しているドワーフ二人は俺の胸の下くらいしかない
…いろいろと大変だろう

「ここよ ここがイシス全体の魔力を管理する宮殿」

目の前には高くそびえ立つ何本もの柱に支えられた、巨大な宮殿への入口
その入口に向かって階段が続いている

おかしいな、そんなに歩いたつもりはないんだけど宮殿に着いていたのか

「全体? ああ、町の入口の事か」
「入口もそうだけど気温や気圧も魔力で制御しているわ
 そして空間も魔力で広げてる
 これはうまく説明出来ないんだけど… 今歩いてきた距離よりも実際の道は遠く見えない?
 つまりはそういう亊、ごめんうまく説明できないわ
 とにかく、この地下での生活を維持するために絶対必要なモノなのよ」

空間?!
確かにあまり歩いていないのに、遠くに見えたこの宮殿へ着いてしまった
じゃあ広く見えるこの地下も、実際はせまいのか
いや、でも見せかけだけだったら人は住めない
んー さっぱり理解出来ないがそういうものなんだろうな…

「でも、そんなすごい魔力を持っているんだったらこの町の人だけで魔王と戦えるのでは?」
「残念ながらそれは出来ないわ
 この町を維持する大きな魔力はルビス様の像によるもの
 その像がどのようにして魔力を発生しているのかはわからないのよ
 私たちはその像の魔力をドワーフの知恵で利用しているだけ そしてその像の魔力は攻撃的なものではないの
 ドワーフの魔力も同じよ」
「うーん… 難しいな」
「ルビス様の像やドワーフの魔力では攻撃魔法を扱えないって亊
 私は人間の血が半分入り、親が神官だからその影響で攻撃魔法も扱える魔力を持ったんだと思うわ」
「……イシスはなんだかすごいって亊だな?」
「あはは 私もまだ理解できているわけじゃないからね
 魔力にもいろいろあるのよ 難しい話はヤメにして、行きましょう」

これ以上聞いても俺にはきっと理解できない
少しホッとしながら宮殿への階段を一段一段踏んでいく
階段を昇り入口をくぐると真っ青な絨毯が奥へと続いる
宮殿内部に装飾はほとんどなく、窓すら見当たらない
ただただ、白い壁と青い直線がそれだけで美しい装飾品

静まり返った宮殿
その雰囲気に飲まれ、俺は話すことを遠慮しながら青い絨毯の上を進んだ

しばらく進むと壁に人が通れる位の四角い穴が空いた壁
青いカーテンに遮られ中の様子は見えない

「この奥で魔力を引き出してもらえるわ」
「やっと魔力を持てる、今から緊張するよ」
「儀式は一瞬で終わるから安心して」
「一瞬なのか あ、そういえば寄付とか必要なのかな?」
「いいえ必要ないわ」
「そうか、よかった 実はあまり持ち合わせが無い」

雷鳴の剣の修復費用のせいで余計に懐はさみしい
そういえばメイはいいとしても宿代もテリーは払っていってなかった
…三倍にして返してもらおう

「いってらっしゃい、私はここで待ってる」

俺は荷物を降ろし、青いカーテンの向こうへ進む
この入口もドワーフにあわせてあるためか低い

カーテンの向こうは小さな部屋になっていて、簡素なテーブルには椅子に座る歳老いたドワーフが一人
部屋の左右には重たそうな石の扉
色は全て白だ、それ以外には何もない

「あの…」

椅子に座り何か書き物をしているドワーフへ声をかける

「ふむ… 魔力、かね?」
「ええ 引き出してもらえると聞いて訪ねました」
「では金属の装備を外しこのテーブルの上へ、できたらワシの側へきなさい
 ワシは怪しいものでは無い、魔力を引き出すことの出来る唯一の神父じゃ」

この人がそうか…

鎧をガチャガチャ外し、剣を腰からおろしてテーブルへ置く
一呼吸おいてから、神父の側へ移動した

「ひざまづいて、頭をワシのほうへ傾け… うん、しばらくじっとしていなさい」

ドワーフは背が低い
ひざますいて頭を向けると俺は床を見る格好となった

「……」

頭のてっぺんに手をかざれる感触を感じる…?

ん なんだ、眠気が…
このままじゃ寝てしまう、我慢できん……
これが ぎし き………





この うかぶ かんかくは…

『お久しぶりです、タカハシ』

ルビス…!
これはあんたの仕業か…

『強くなりましたね』

ああ、頑張ったよ
トルネコさんの事もあるし…
それに強くなれって言ったのはあんたじゃないか
で、なにか用ですか、ルビス様?

『あなたはこれから魔力を持ちます』

その為にイシスまで来たんだ
魔力を持てれば今より強くなれるんだろう?

『ええ あなた自身戸惑うくらい強くなるでしょう…』

戸惑うくらい? 今後の旅が楽になるな
でもまだ俺を元の世界へは… 戻さないで欲しい

『…勇者トルネコのため、ですか?』

そう、その通り
…待てよ、あんたなら呪いを解くことが出来るんじゃないのか?
出来るのならやってほしい!

『申し訳ありません あの呪いは私には解く事が出来ない…』

そうか…
なら、俺が方法を探す
トルネコさんの呪いが解けるまで俺を元の世界へ戻さなくてもいい
俺も強くなれるし一石二鳥だ

…でも、なんで俺に強くなれと言う?
そもそもなぜ俺をこの世界へ引き摺り込んだ?

『それはまだ言えません…』

もし、勇者になれと言うならお断りだ
俺には関係が無い
悪いが他をあたってくれ

『……そうは言いません』

安心したよ
ならなんでだ?

『まだ言えません』

……わかった、もういい
用は?

『…あなたはこれから魔力を手に入れます
 ですが、あなたは魔力を引き出しても魔法を使うことができません
 代わりに、オリハルコンの剣を活用してください』

そんな残念なお知らせはもっと早く言ってほしい…
魔力があっても魔法を使えない事があるなんて知らなかった

『失望する事はないのです
 剣術のみで戦う者であっても、魔力があれば自分の力や技をより強力にする事が出来ます
 そしてオリハルコンの真の力はあなたの魔力でのみ、発揮される
 その力はとても大きく、自分の意志で扱えるようになって下さい』

それなら安心だ、しかし─
真の力とは?
俺の魔力でしかできないってどういう事だ?
なぜオリハルコンを知っている?

『今引き出された魔力だけではオリハルコンの真の力は発揮されません
 もっと強い、心と意志が必要ですがやがて手にするでしょう』

その強い心と意志がなければ、今の魔力でオリハルコンは無意味だと?
それと他の質問にも答えてくれ

『いいえ 今の魔力だけでもオリハルコンは力を見せてくれる
 …私の言った他の言葉の意味は、またあなたが強くなった時にお話します………………』

う!
待ってくれ 俺はどこまで強くなったら…
俺に何をしろというんだ……
かってにはなしを おわらせ………





「……タカハシ! 起きてタカハシ!」

パシパシという乾いた音が耳に入る
と同時に、横っ面に痛み

神父の部屋へ戻されたか……

音の源、誰かが俺を平手打ちし頬に衝撃を伝えている音
その動作で顔が左右に揺れている
あまりに痛いので目を見開きガバッと勢い良く身体を起こす

「あ…」

引っ叩いていたのはメイ
俺が突然起き上がったので驚いている
側にいる神父も一緒に驚き、動けなかった

叩かれていた頬を触るとひどく熱い

「起きた…… よかったぁ……」

両ひざをついて平手打ちしていたメイが、がっくりとうなだれる
俺は魔力を引き出してもらっている間に眠り、床へべたりと身体をくっつけたようだ

「失敗してしまったかと、思いましたぞ……」

神父がホッとした表情で言う

「すみません、なんか寝てしまったみたいで……」
「儀式の途中で寝てしまうなんて聞いたことが無い 何もなくて良かったわい
 …魔力は眠っている間に引き出せたよ」

そうだ魔力
だけど俺には魔法を扱えないからどう確認していいか…
…ともあれ魔力を引き出してもらえたんだ、礼を言わなければ

「ありがとうございます、迷惑をかけました」

立ち上がり、神父の言葉を待つ俺
だが何も言ってこない もう何もないのかな?

「…もう、行ってもよろしい」
「そ、そうですか では失礼します」
「後でメイに詫びておきなさい メイの事はよく知っておる
 あまり困らせるんじゃないぞ」
「あ、はい… すみません」
「さぁ、メイを連れて」

座り込んだままのメイを立たせ、荷物と装備を手に取り神父の部屋を出る
メイはずっと下を向いたまま、黙っている

泣いて、いるのか?
俺が儀式で眠ったから?
…とにかくなんとかしないと

「ほら、もう平気だ! いつもみたいに元気─」

ドゴォォォとメイの拳が腹にめり込む
突然の衝撃に、逆くの字へ身体を曲げる俺

「魔力の引き出しに、失敗する人も、いるの…」
「ぐ… え?」
「失敗したら、精神が破壊されて… 滅多に無い事なんだけど、もしかしたらって……」

そんな事もあるのか…
だから心配を

「今のは、心配させたお返し」

顔をあげタタタと駆け出し、入口である門で止まり振り返るメイ
空間制御のおかげで、遠くの門へ少しの動作でたどりつく

「いきましょう! 早く!」

…元気に戻ってくれた
しかし、俺にダメージを与えられるんだから格闘も出来るじゃないか…
鎧を装備していないとはいえ、見事な攻撃だ

鎧と剣を身に付け荷物を背負う
熱い頬はそのままに苦しさの残る腹を押さえ、手を振るメイの元へ向かった
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