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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

イシス
ザッガツッ!

オリハルコンの剣を二振り
ザラザラと分解し風に流されていく土偶戦士

この魔物は宙に浮いて移動し、ラリホーという魔法で相手を眠らせようとする
常に前へ出て戦う俺は当然狙われてしまう
ラリホーにかかると眠気では無く問答無用で意識が飛ぶ
"眠る"というよりは"気絶に限りなく近い睡眠"だろう
攻撃を受けても目覚めることが出来ないことも多く、恐ろしい魔法だ
この手の魔法は術者とかけられた側の"魔力の差"で成功率が変わり、俺にはまだ魔力がないため毎回眠らされた
しかし俺はメイのキアリクによってあっさりと目覚めることが出来る
俺一人だったらとっくに死んでしまっていたに違いない

「ふぅ 町は直角の曲り角の近くって言ってたっけ?」

剣をなおしながらメイに聞く

「ええ 目の前の角を曲がるとイシスよ」

路の左右を森に囲まれ、変わらなかった景色
少し先に、ここまでの旅路には無かった直角の曲り角
人工的に造らなければこんな直角にはならないはず

「この角がそうか、よし急ごう」
「楽しみね」
「ん、なにをニヤニヤいてるんだよ」
「べつにぃ」

…何か企んでいるな

メイの不穏な言葉に少し警戒しながら、粉々になった土偶戦士をまたぎほぼ90度になる角へ歩く

イシス
この町がどんな町なのか誰からも聞いたことが無かったな
魔法の鎧を修理出来る防具屋があればいいんだけど

角を曲がると、イシスへ到着─

「え??」

目の前に広がっていたのは巨大な石で出来た町
だがその町はほとんどの建物が破壊されメルキドと同じくただただ廃墟

まさか俺たちが旅をしている間、魔王に滅ぼされたんじゃぁ…

「驚いてくれた?
 これは魔物を欺くためわざと作ったモノ
 獣の魔物ならただの廃墟だと思って近付かなくなってくれるの
 本当の町は今あなたがいる足元、地下よ」

イシスは地下都市だったのか!
メイのニヤニヤはこれだったんだな
それで、入口はどこに?

「入口は廃墟の中にあるわ、行きましょう」

そう言い廃墟へ入るメイ
俺も続き足を踏み入れた

パッと見た感じでは本物の廃墟だが中へ入ると生活があったとは思えない造り
家らしき建物の間取りもめちゃくちゃだし広さだって適当
獣の魔物は頭が悪い、こんなモノでまんまと騙されてしまうのだろう

「ここ、この階段を降りると町へ入れるわ」

廃墟の中央辺り、一軒の崩れた民家の床には地下へ続く階段

「ほんとに地下なんだな…」

メイを先頭にし階段を降る
かなり深く、まるで終わりがないかのように思える
そして、不思議な事にとても明るい

「地下なのにどうしてこんなに明るいんだ…?」
「ふふ 光の正体はね、これ」

メイが壁を指でなぞり、その指先を俺の目の前へ持ってくる

「ん?! 指先が、光ってる!」
「光苔 この地域にしか生息しない珍しい苔よ
 この光苔を地下の壁全てに植えているおかげで外と変わらない明るさを保っていられるの」
「光苔なんてあるのか、なるほどなぁ」

これなら電気も炎も必要ない
ダミーの町といい光苔といい… 驚きの連続だ

やがて階段を降りきり、今度は地下道を歩いていく
地下道も光苔のおかげで明るい

「この町は昔から地下に在ったの
 魔王の侵略が始まってから、上の廃墟を造ったの」
「へぇ じゃあ地下の専門家だ」
「あはは そういう事ね
 でも町の人を見たらまた驚くと思うわ」
「なんだ? まさか"もぐら"だとでも言うんじゃないだろう?」
「どうかなぁ」

なんだ、不安になるじゃないか
この町はいわばメイのホームグラウンド
俺はまるで借りてきた猫だ

そんな俺の思いとは逆に、楽しそうなメイ

「さ、この扉をあけるとイシスよ 準備はいい?」
「え? ああ、準備も何も…」

俺の顔を一目みて、メイは石で出来た扉の横にある取っ手を引く

『ゴゴゴ…』

扉がゆっくりと左右に開く

この世界の自動扉みたいなものか
今までと違い、やたらと文明的な町だな
だけど白い壁があるだけで町なんてないじゃないか…

「…町は?」
「この白い壁は魔力でつくり出した幻なの 魔物が扉を開けてもすぐに入ってこられないように」
「そ、そうか イシスってすごいんだな」
「なにしろ… まぁいいわ、入りましょう」

メイの言い掛けた言葉が気になったが町に入ればわかるだろう
まず俺が、壁に足をつっこむ

不思議な感覚が足に伝わってくる
足先を阻むモノがない、向こう側は確かに存在するようだ
そのままおそるおそる身体も壁へ─

結界を抜けた俺の目に飛び込んできたのは真正面に構える巨大な宮殿
こんな地下にこんな巨大な建物が─

「ようこそイシスへ!」

後から入ってきたメイが俺の後ろから言う

「なんていうか、驚いてばかりだよ ははは…」

驚きすぎて笑いが出てくる
俺は地下だからてっきり狭い空間にひしめく小さな建物を想像していた
だが違った
真正面の巨大な宮殿を囲むように並ぶ家
その家だって一つ一つがとても大きい
よく地下にこれだけのモノを造り上げたものだ

「宮殿へ行きましょう そこで魔力を引き出してもらえるわ」

宮殿というのはあの正面のでかい建物の事だな
いよいよか、俺も魔力を… 持てるんだ
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