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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

オリハルコンの剣
オリハルコンをカンダタに預けてちょうど十日
今日まで俺は鍛冶屋へは近付かず、夜はほとんどの時間を筋力トレーニングや戦闘のイメージトレーニングに
昼間はメイと一緒に食事をしたりなんでもない話や洞窟の話をして過ごしてきた
時には魔法の修行をするというメイについていってその様子を眺めたり─

そして今、朝早くカンダタに呼び出された俺は鍛冶屋にいた

「お前に合わせ、鍛え直したオリハルコンの剣だ」

長い、金属の剣をズイと差し出すカンダタ

「これが… あのオリハルコン?」

トルネコから預った時の姿とは全く違う、生まれ変わったオリハルコンの剣
長くなった刀身はまっすぐに伸び、銀と黒の光を帯びている
以前のようにわずかな曲線は無く剣幅が少し狭くなったようだ

「自信はあるが一応、構えてお前の手に合うか試してみてくれ」

カンダタから剣を受け取り軽く構えてみる
柄が吸いつくように手へ収まった

このしっくりと馴染む感覚、まるで昔から扱っているような…
簡単に言うと、穿き古したトランクスか

トランクスといえばこの世界での下着は二着しか持ってない
ステテコパンツとかいうサイズが大き目のトランクスに似たものだ
洗濯するのはいいが乾いてなかった時の穿き心地の最悪な事といったらない
後で追加購入しておかねば…

「おうおう そんなに真面目な顔で構えたままどうした?
 もしかして合わなかったってのか…?」

曇るカンダタの表情
バロックの顔も不安そのもの

いかん
こんな素晴らしい瞬間に余計な事を考えてしまった

「いえ! 初めて扱うとは思えないくらいにぴったりです!」

慌てて返事をする俺
俺の言葉にカンダタの表情はいつもの顔つきに戻る

「そうか、よかったよ
 今回はかなり気合いを入れて、俺の鍛冶屋人生で最高のモノが造れた
 最高のモノが出来ちまうのはいつもだけどな! わっはっはっ!」

俺の戦いを少し見ただけでこんなに馴染む剣を作ってしまうその技術には、感動してしまう
新しくなったこの剣のおかげで、俺の戦いも少しはマシになるだろう

「私も初めてオリハルコンに触れ、その素晴らしさに驚きました
 本当は私考案の模様を刃に刻もうと思ったのですが、師匠に反対されたのでやめました」

バロックが残念そうに言う
いや、やめてくれて正解だったよ
反対してくれたカンダタには感謝だ

「戦いに使う剣にごちゃごちゃとした飾りはいらねぇんだよ」
「ですが、これからの時代は武具にも芸術性を…」
「わかったわかった… その話は聞き飽きた
 今度、船の錨にお前の考えた模様を刻んでいいから黙ってろ」
「本当ですか?! いやぁしつこく言ってきた甲斐がありました!
 建物だけじゃなく道具にも、私の最高の芸術作品を込めたかったのです!」

目を輝かせ喜ぶバロック

変な師弟関係だ
このままいくと、バロックもカンダタみたいに豪気な性格になるんだろうか

「よし これで俺の仕事は終わりだ
 後はタカハシ、その剣が生きるも死ぬもお前次第だ トルネコさんのように強くなれよ」
「がんばります! …ところで、鞘は?」

剣をしまおうと思ったが前使っていた鞘がない
あっても形と長さが変わっているから入らないだろうが

「おっと忘れるところだった、ほら」

真新しい硬い革で出来た鞘を、カンダタが俺に投げた

「新しいのを作っておいた、それ使え」
「あ、作ってくれたんですか! ありがとうございます」

剣を鞘に納め腰に下げる
剣は長くなったけど前より抜きやすい、見事な仕事だ

「早速で悪いんだが、会計を頼む
 徹夜続きでフラフラだ、早く寝てぇ」

あ、そうだった
お金の話は一切せずに仕事してもらったから忘れてた

「いくらになりますか?」
「えーと 雷鳴の剣の修理が6000ゴールド、オリハルコンの打ち直しが22000ゴールド
 合わせて28000ゴールドになる」

え?
聞き間違いか?
雷鳴の剣はテリーの…

「ん? 何か不満か?」
「いえ、雷鳴の剣ってテリー、お金払ってないんですか?」
「受け取ってない
 あいつ、剣を受け取るなりすぐ出てっちまったよ」

ああ…
"雷鳴の剣美しいよ病"か…

仕方がない、払おう
財布代わりに使っている布の袋から10000ゴールド紙幣二枚と1000ゴールド紙幣八枚を取り出し、カンダタへ渡す

「ありがとよ!」

トルネコが俺に用意してくれたお金は50000ゴールド
今までの旅で3000ゴールドを使っていたから残りは19000ゴールドか…
とんでもないオチを用意していくなんて、やってくれたよ
次、テリーに会ったときは倍返しさせよう

「俺は明日にでも村を出ようと思います オリハルコン、本当にありがとうございました」
「おう またいつでも寄ってくれ、気を付けて旅しろよ」
「はい、ではまた!」

深々とお辞儀し鍛冶屋を出る
鍛冶屋の目の前にある港からは、たくさんの男達が船に乗って出港していく
日は昇り始めたばかりだ

オリハルコンの剣は完成、いよいよまた長い旅にでるんだ
今度の旅でトルネコさんを治す方法がみつかれば良いな

水平線に向かい段々と小さくなる船を見ながら、宿屋へ戻ることにした
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