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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

旅は道連れ
村へ戻りカンダタへオリハルコンの剣を渡し、鍛冶屋へ向かう
カンダタはキリッとした表情で黙り、俺の戦いの様子を歩きながらまとめているようだ
声をかけたら怒鳴られそうだからメイと話し始めた

「二度も、あんな情けない状態で助けられて…」
「気にしたらだめよ 私だって戦い始めた頃はそれはもう、毎日ボロボロだったんだから」
「メイさんもこういう経験が? あんなにすごい魔法を使えるのに」
「最初から強力な魔法を使えたわけじゃないのよ」

楽しそうに話すメイ

そうは言ってもカンダタさんに"やってみます"なんて言ったしなぁ……

「自分に自信を持つことは大事
 それに失敗してもそこから何か学び取ればいいの」
「なるほどなぁ まだまだ勉強不足だ
 俺はいつも失敗して落ち込んで引き摺るんですよ」
「まぁそんなに落ち込まないで!
 それより気軽にメイって呼んで、普通にしゃべって」

テリーと同じ事をいうメイに、なぜかおかしくなり笑ってしまった

「うん? どうかした?」
「ああ、いや─
 俺と一緒にいた男、テリーっていうものすごく強い剣士なんだけど同じ事を言っていたなぁってね」
「そういえばそのテリーさんはいないわね?」
「うん、彼はこの村での用事が済んで今朝グランバニアへ発ったんだ」
「そうなの… 結局一言も話さなかったなぁ」

そういえばそうだな
この村に着てテリーはすぐ寝込んで回復したとたん鍛冶屋へ篭り、出たと思ったら旅立った
かなり慌ただしい

「あ! あなたの名前を聞いていなかったわね?」
「俺はタカハシっていいます」
「タカハシ、変わった名前ね
 なにをしているの?」
「うーん 旅をしながら剣の修行、とでも言うのかな…」
「へぇ! 私も旅をしながら魔法の研究をしているの」

"それとね"と急に小声になるメイ

「勇者様の仲間にしてもらって魔王を倒すのが目標」

勇者という言葉にギクリとしたが平静を装い話を続ける

「でも勇者は、トルネコさんは呪いを─」
「ええ、もちろん知っているわ」

俺の言葉を遮るように即答し続ける

「それでも、きっと今を乗り越えて下さると思うの
 だって過去八つの伝説でも、苦難を乗り越え勇者様は魔王を討ち取ってくれたんだから」
「うーん…」
「何か腑に落ちない様子ねぇ」
「え、そういうわけじゃあないんだけど…
 そういえばメイ、はなぜ魔王を?」

メイの小柄な容姿からは"魔王を倒す"なんて言葉が想像出来ない

「私の両親は神官で、私はいつも"勇者様に仕えてこの暗い世の中を明るくしなさい"と言われて育ったわ
 それで、当り前に勇者様と世界を救うって考えるようになって」

自分の子供を危険な旅に出すってどんな気持ちなんだろう
そういう教育をするなんて俺の世界じゃ考えられないけど、この世界では普通なんだな
だからみんな強いんだ

「今は、勇者様の足手まといにならないよう自分の力を鍛える事だけに集中しているわ」

勇者トルネコ…
俺としては戦いのない暮らしを、ネネと一緒にトルネコにはしてほしい
…そうすると次の勇者候補はテリー?

勇者テリーの妄想を開始した所で突然、前を歩くカンダタが立ち止まる
目の前には派手な模様の建物

ああ、鍛冶屋へ着いたのかびっくりした
また怒鳴られるのかと思った

ギィと扉を開け中へ入るカンダタに続き俺も中へ
更に続いて、メイも鍛冶屋へ入ってきた

「うん? なんだメイ、おめぇいたのか」

カンダタは考えごとをすると周りが見えなくなるようだ
今気付いたかのように言う

「相変わらずね… ずっと居たわよ」
「あ、お二人知り合いなんですか?」
「おう 実を言うと俺も何度か魔物から助けてもらった事があってな
 それ以来訪ねてくるんだ、用もねぇのに」
「失礼ねぇ おじさん一人じゃ淋しいだろうから相手してあげてるのに」
「バカ! 淋しいわけねぇ
 それにバロックがいるんだ、技術を教え込むのに忙しいんだよ」
「あ、バロック! カンダタさんにいじめられてない?」

奥で忙しそうに動くバロックが"大丈夫ですよ"と笑って返事をする

「まったく… でも悪いがしばらく本当に暇がないんだ」
「気にしないで、私はおとなく見ているから」
「うーん、仕方ねぇな おいタカハシ!」

俺やテリーと違いメイには甘い
カンダタの弱点は女性か

「お前、メイの相手をしてやってくれ
 剣が鍛えあがるまで出番はねぇしな」
「あ、そうなんですか… どれくらい掛かります?」
「そうだなぁ ぶっ通しで十日はかかる
 オリハルコンは金属としては完璧に純粋だが融点が高く敏感なんだ
 冷却するにもかなり時間かけなきゃならねぇ
 それを鍛錬しながら繰り返すんだからどうしてもな
 素晴らしい金属なんだが何の合金だかさっぱりわからない
 まぁ、先祖からの技術を使えば問題ねぇ 任せておけ」

言っている亊があんまりわからなかったので"お願いします"とだけ言い、メイと一緒に鍛冶屋を出た

「タカハシは、これからどうするの?」
「んー… する亊ないなぁ」

オリハルコンの剣はカンダタに託したから魔物相手に剣術の稽古も出来ない
そうなるとすることが無いのでそう答えた

「じゃあ、私の話し相手になってもらえる?
 カンダタさんは忙しいみたいだし用事も済んじゃったから」
「構わないよ 時間だけはたくさん余ってる」

異世界で女性と話す
なんとも不思議な状況じゃないか
落ち着いて見るとメイは綺麗だし、知り合ったばかりだというのに友人のように接してくれる
たぶん、俺と年齢も近いと思う

それにしても…
この世界にきて男としかまともに話してないからかな、なんだか変に動揺する

「なに突然オドオドしちゃって… 都合、悪かった?」
「い、いや なんでもないよ 向こうの椅子に座ろうか」

海へと続く砂浜に木で出来た長椅子が見える
適当に誤魔化しその方向へ歩き始めた

まぁ たまにはこういう気分転換もしなきゃいけないよな
うんうん

「ところでメイ 最初に会って以来今まで姿を見なかったけど、もしかしてずっと部屋に?」
「ええ イシスからフィッシュベルに来る途中、商人から王家の古文書っていう古い書物を買ったの」
「商人から?」
「ええ なんでも滅ぼされた国のお城にあったんだって、言ってた
 で、その古文書っていうのがね…」

よっぽどすごい古文書なのだろう、少し言葉を溜めるメイ

「消滅されたとされる古代魔法を封印してある洞窟、その場所が記されていたのよ!
 古文書自体は古代の言葉で書かれていたから、その解読の為に宿屋の部屋に籠っていたってわけ」
「古代魔法… ザオリクとか、ルーラとか?」
「よく知ってるわね でも何の魔法かまでは記されてなくって…
 高いお金払ったんだから、強力な魔法があればいいなぁ」

それで金をもってなかったのか
魔法を主として扱う者にとって、古代魔法はそれほど魅力的って事か

「あなたは旅をして修行しているんでしょう
 そこで提案なんだけど私と一緒にその洞窟へ行ってみない?
 場所は遠いから時間もかかるけどきっと修行になると思うの」
「二人だけで?」
「そうよ あなたは信用できそうだし、私の魔法を見ているんだから変な気も起こさないでしょ?」

む、あんなすごい魔法を受けたら俺なんて一瞬で消し飛んでしまう
ん? いやそんな気は全く…

「あはは まぁそれは冗談として、どう?」
「そうだなぁ…」

古代魔法にもしかすると呪いを解く魔法があるかもしれない 行ってみる価値はある
メイは強力な魔法を使えるし何より回復魔法を使える
思い切り剣の修行も出来そうだ

「わかった、一緒に行くよ
 でもあんなにすごい魔法を使えるのになぜ俺と?」
「ありがとう!
 私は剣や体術が全くダメだから魔法の効かない魔物がいると進むことが出来ないの
 それに強力な魔法を使えば体力も大きく消耗するから、回復に時間をとられて進むペースも遅くなってしまう
 一人より二人、剣士であるあなたがいると心強いわ」

剣士だなんて、そんな大層なものじゃないけど…
頼られるのは悪くない


少しして椅子のある場所へ着き、腰を降ろす
目の前には白い砂浜が広がり白い波、海が青々と揺らめいている

トルネコさんどうしてるかな
洞窟で呪いを打ち消す魔法が見付かるといいんだけど…
とにかく、なんの手がかりもなかった昨日より少しだけ前進できたと思う

「行けることになったのは良いとしても、誰かが古代魔法の封印を解いてなければいいんだけどね」
「そういう事もあるんだ? でも行くだけいってみよう」
「旅は道連れ、よろしくね」

メイは嬉しそうに微笑んだ
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