[] [] [INDEX] ▼DOWN

タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

別宴
「なぁこの輝き… 美しいよなぁ…」

カンダタの手に依って復活した雷鳴の剣を掲げうっとりとしながらつぶやくテリー
二日間掛け修復された雷鳴の剣を携えこの宿の部屋へ戻ってきたのだ

俺はと言うと、鍛冶屋から追い出された後市場でうまい刺身を食べたり砂浜で物思いに耽ったりして過ごした
いざ一人になってみると何もすることが無い
メイから食事の誘いでもあるかとちょっぴり期待していたのだが姿すら見ることがなかった

「確かに、折れる前よりも… なんというか輝いてる気がするなぁ」

うっすらと青白い光を放つ雷鳴の剣を見て俺も言う
刀身から溢れんばかりの力を放っているように見える

「だろう?
 カンダタさんが言うには俺の魔力と強い思いが賢者の石の力を最高にまで高めたそうなんだ
 この剣で早く戦いたいなぁ………」

なるほど
テリーの剣に対する思い入れはとても大きかったから─

「そうそう、カンダタさんからの伝言だ
 "明日の朝、村の入口へ来い"と言っていたよ
 いよいよお前の剣も鍛え直すんだな、でもなんで村の入口なんだろう?」
「うーん、たぶん俺の剣捌きを見て修正するんじゃないのかな」
「なるほどなぁ ああしかし美しい……」

伝言を伝え終わったテリーは再び自分の世界へ入り込む

雷鳴の剣は復活した
ということはテリーがこの村にいる理由もない
もう 出ていくのか?

「なぁテリー
 雷鳴の剣も直ったし、お前はすぐに出ていくつもりなのか?」

しばらく無言で剣を見つめた後テリーは返事を返した

「ああ… お前には済まないがメルビン殿を待たせてあるからな
 明日、早々に発つつもりだよ」
「そうか…」

この村に着いたらお互いそれぞれの道を歩む事はわかりきっていた
でもやはり別れは─

外は暗い
部屋の真ん中にあるランプは強い光を宿している

「いよいよ、か…
 ここまで一緒に旅をしてくれてありがとう
 短い間だったけど楽しかったしたくさんの事を学ばせてもらったよ」

少しうつむき、テリーの方は見ずに言う
面と向かって言うのはちょっと照れ臭いからだ

「俺の方こそ、剣を譲ってもらいなにより─」

言いかけた言葉を止めるテリー

「なにより、なんだ?」
「ああ 俺はずっと思っていた
 お前と旅をするのはなんというか宿命だったんじゃないかと、な
 前に言ったよな? お前は他の人と違うと…」
「はは なんだよそれ
 テリーは自分の意志で兵士を止め今以上に強くなろうと決めたんじゃないか
 俺は何も言わないし関係ないと思うぞ?」

そう 俺はたまたまトルネコと出会いテリーと出会い─
全ては偶然だ
この世界は異世界の人間が入ってきたことで何か変わったかもしれないが…

「そうか、まぁそうだな考え過ぎか
 でもお前に出会えたことは感謝しているんだ、礼を言う
 さぁ今夜は酒でも飲んでお互いの今後を語りあおうじゃないか!」

そう言い部屋を出るテリー

明日から俺は一人なんだな
そういえばこの世界で一人きりっていう状態は半日くらいしかなかった
これからやっていけるのか 不安だらけだが─
トルネコを助けたい気持ちは今も揺るがない
助ける術を探す旅が俺の為にもなると信じてる

「酒を持ってきたぞ!
 と言ってもお前はすぐ酔うからこの小さな瓶一つだ」

二人してドカッと椅子に座りお互いの器に酒を注ぐ

「じゃぁ… お互いの今後に乾杯だ!」

手に持った器をコツッとぶつけ一口
木製だからチィンと気持ちの良い音が出ないのがなんとも味がある

「なぁタカハシ
 お互い二度と会えなくなるわけじゃないんだ
 旅をしていればきっと再開できる その時が楽しみだな」
「うん、メルビンさんは旅商人だし俺もあちこちを移動する
 次会うときはテリーを越えるくらい強くなるさ」
「言ってくれたな!
 だがその言葉を聞いて安心した、お前なら絶対強くなれるし一人でもやっていける」

そう また会えるさ
明日で別れるのは確かだけどお互い旅を続けることには変わりが無い

「その時まで… 死ぬなよ
 俺たち二人できっと、魔王を倒すんだ
 交わした約束、忘れないでくれよ」

俺は黙って頷きテリーの器に酒を注ぐ

もちろんだよ、死ぬもんか
生きて元の世界へ戻るんだ

その晩遅くまで語り合いいつしか眠りについていた





朝靄がまだ残る早朝
俺はテリーと共にフィッシュベル入口にいた
テリーはこのまま村を発ちグランバニアへと向かう

「じゃあなタカハシ
 お前とは戦友であり友だ
 また会えることを信じている」
「もちろんだよ」

静かだ
心臓の音がテリーに聞こえてしまうんじゃないかという位に無音
友との別れにしては落ち着いている
短いつきあいだったけどとても濃い日々だった

「よし、じゃあ俺はいくよ」
「元気、でな!」
「お前もな、じゃあまた!」

村の外へ歩いていくテリー
俺はその姿をじっと見送る

テリー
俺は元の世界へ戻らなきゃならない
もしかしたら二度と会うこともないかもしれない
だから…
いや、お互いの目的を見事に果たそう
もしも、出来ることならまた会いたい、な


テリーとの別れ
日が昇りきるまで姿が見えなくなっても俺は見送った


〜 第二部 完 〜
[] [] [INDEX] ▲TOP

©2006-AQUA SYSTEM-