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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

商人メルビン
「何者だ!?」

そう言うや否や 男はテリーの剣を跳ね上げ更に俺の喉元に切先を当てる
テリーが反応できない─ 突然の事に身体は全く動かせなかった
稲妻の剣がガチャリと床に落ちると同時にテリーが慌てて詫びる

「も 申し訳ない! てっきり魔物かと…」

俺は喉元に当てられた切先に力が入るのを感じ喋ることすら出来ない

「それは、真か?!」
「俺達はフィッシュベルに向かう旅の者です!
 決して悪意があったわけでは…!」
「……嘘の無い眼をしているな 信じよう」

男が剣を引く
俺はすかさず詫びた

「いや ワシもノックせずに入ったのが悪かった
 盗賊に襲われたのかと思ったんじゃよ
 ここはお互い様という事で水に流そうではないか」

テリーは寂として剣を取り鞘へ収めている
あっさりやられたのが相当悔しいのだろう

「メルビンさん、どうかしたの?」

声のする方を見ると─ ホイミスライム?!
慌てて剣を按ずる

「まてまて ホイミンというんだ、敵ではないよ
 ホイミン、こっちへおいで」

ホイミスライムが小屋へ入ってきた

「ボクはホイミン 悪いホイミスライムじゃないよ!」

悪くないと言われても…
男がニコニコしているので戸惑いながらも柄に掛けた手を直す

「ワシの名はメルビン 旅の商人じゃ
 このホイミンは邪悪な力を持っておらん 安心なされよ」

俺はつくづく商人に縁がある

「俺はテリー、彼はタカハシです
 さっきも言いましたがフィッシュベルを目指してグランバニアから来ました」
「ほう なぜフィッシュベルへ行く?」
「この雷鳴の剣を修理しようと思っているのです」
「雷鳴の剣か! 良い物を持っているな、フィッシュベルの鍛冶屋なら直せよう」
「メルビンさんは町を渡り歩いて商いを?」
「いや、ワシは町や森で仕入れた薬や食料品をお前さん方のような旅人相手に外で商売しているんじゃよ」

トルネコの地図に書かれていた"食料品店"はこのメルビンだった

しかし外で商売なんて危険では?

「ホイミンがおるからな 町だと住民を驚かせてしまう
 ワシにとっては家族だから無下にするなど考えられんのじゃ」
「魔物にも人と生きていこうとする純粋な者もいるのですね 驚きました」
「世界でボク一匹だけだよ! 毎日ルビス様にお祈りしてたら悪いココロを無くしてもらえたんだ!」

ルビスもたまには良い仕事するじゃないか
その調子で世界も救えばいいのに…

…ん?
食料品という事は…

「メルビンさん、新鮮な食料はありますか?」
「おおあるぞ 今しがた魚を釣り上げたばかりでな
 この小屋で乾物にしようと思っていた所じゃよ」
「魚……! う、売ってください!」
「さっきの事もあるし特別安くしてあげよう」

やった!
テリーの顔にも元気が戻る

「米はありますか?!」
「もちろんじゃ 待っておれ」

"まともな喰い物だ!"
テリーを見ると竃元で火を入れていた
素晴らしい行動力 少し尊敬する

「外にきて! 準備整ったよ!」

ホイミンの誘いにフラフラとついていくとそこには立派な馬に繋がれた大きな荷車

「この馬車で旅をしているんじゃ
 さぁ荷車から好きな食べ物を選ぶと良い」




「もう 喰えない…」
「こんなにウマイ飯は久しぶりだ、メルビンさんありがとう」

膨れあがった腹をさすりながら礼を言う
残した料理もたくさんあるが数日なら持つだろう

料理のほとんどはメルビンが作ったものだ
用意したは良いが調理経験の無い二人で立ち尽くしている所を手伝ってくれた

「あ! 代金支払って無かった… いくらになりますか?」
「ワシらも馳走になったのじゃから20Gでどうじゃろう
 約束通りまけるよ」
「いえ 手伝ってもらったしそういうわけにはいきません」

だがメルビンは頑として譲らない
チャリリと10G硬貨二枚をメルビンに渡す

買ったのは今日の分だけではないから随分安くしてくれたと思う

「ありがとう 気持ちの良い喰いっぷりじゃったぞ! わははは!」


しばらく休み、メルビンの手伝いをする
捌かれ開いた魚を釜の上に置かれた箱に入れていく
燻製にするのだ

「これで良い 後はこのまま煙に巻くだけだがとてもこもる
 外で酒でも呑もうじゃないか」

外はすっかり闇
メルビンがランプを灯し酒を持ってくる
テリーとメルビンはぐいぐい飲み始めたが俺は遠慮した
もう二日酔いはゴメンだ

「お前さんはグランバニアの上級兵士じゃったか!」
「元、ですよ もっと強くなりたいから辞めて旅に出たんです」
「上級兵士なら十分じゃと思うがのぅ タカハシ殿も兵士だったのか?」
「いえ 俺は只の旅人で、今はある人の呪いを無くす方法を探してます」

トルネコの名は出さなかった
すでに勇者であると知られているからその事についてあれこれ聞かれるのが嫌だからだ

「呪いはそう簡単には消せん 旅が無事終わることをワシも願おう」
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