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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

海渚
硬いストーンマンとの連戦に疲倦しているとテリーが叫んだ

「おい見ろ!」

丘の彼方に銀と白に燐く蒼
気付いた途端 潮の匂いが鼻を刺激し始めた
咄嗟に顔を見合わせ駆け出す
変わらない場所を抜け新しい物を手にするため疲れも忘れ駆けた


「おおおぉぉぉぉぉぉ!!! 海だぁぁぁあ!!」

丘を越えると眼下に白砂 満ち引きを繰り返し泡立つ潮

「風呂入ってなかったから丁度いい!」

途中道に迷い水を使える休憩所に立ち寄ることが出来ず 水浴びしたくて仕方がなかった

荷物を放り投げ勢い良くジャンプの体勢をとる
が、服を着たまま海へ入ろうとする俺をテリーが止めた

「ま、まて! 気持ちは解かるが─」
「なな、なんだよ! そ、そうか服か、そうなのか?!」
「頼む落ち着いてくれ! お前なんか人が変わったな、恐いぞ…」

う…
なんで止めるんだ 俺は潮が渇いてジャリジャリしてベトベトしてもいいから…

「違うんだ、海にも魔物がいるんだよ」
「えぇ?!」
「海の魔物は強い
 いくら俺達でも泳いでいる無防備な所を狙われたらただじゃすまん
 薬草も少なくなったしこんな所で怪我はできんよ」
「そう なのか…」

ガッカリした
これほど魔物を恨めしいと思った事は無い
俺の喜びを返せ

「風呂はこの近くにある休憩所まで我慢だな
 ここから先は俺も戦う 海の魔物には電撃が効果的なんだ」

あの喜び方はそっちだったのか…
休憩所があるっていうのは見落としてた

「水浴びは諦めるとして 魚食べたいなぁ… 乾燥した肉や野菜はもう飽きたよ」
「釣り具を持ってくるべきだったな 前に来たときは釣りまくったぞ」
「なんだテリー、来たことがあったのか!」
「ああ 魔法を使うにはこの海沿いを通りイシスへ行かなければならないんだ
 あの時は城の兵士達と数台の馬車で進んだから地理は全くわからんがな
 荷物も好きなだけ持っていけるし徒歩より多く移動出来たし楽だった」
「じゃあ、グランバニアで馬車を借りればよかったじゃないか」
「車があっても馬が希少だから無理だ 人力ってわけにもいかんだろ」

水浴びも魚料理もおあずけ 目の前にありながら…

「だがこれでだいぶ進んできた事がわかった 少し安心したよ」
「あぁそうか そういう事になるかぁ」
「この海沿いを進んで行けばフィッシュベルに着く もう一息だ」

なるほど
残念な事が続いたけど確実に前進できている事が嬉しい
どんな町だろう 名前にフィッシュ付きだし漁業が盛んなのかな

気をとり直し進み始める
砂浜では足を奪られてしまうから砂の上を歩くことは避けた


蒼空の下に広がる蒼海 海天には海雲
最高だ 見ているだけで心が広くなったように感じる
おまけに海風も心地いい
気がすっかり緩んでしまうのを抑え近くにあるという休憩所を目指す


海がこんなに青いなんて知らなかった
俺が見たことのある海は 薄黒い
テレビや雑誌で本当は青いって事は知っていたけど…

「お、あれじゃないか? 地図を見せてくれ」

地図を広げ辺りの地形と照らし合わせる

「あの小屋に間違いなさそうだな やっと水浴びできるぞ」

熱いシャワーが恋しくなったりもする
が、冷たい涌き水も桶に移し外に置いておけば水温は上がり昼間なら湯にもなるんだ
不便だけど、こうした知恵で乗り切るのも悪くは無い
この世界にこなければこうした自然の有り難さには気付けなかったよ


「まだ明るいが今日は休憩所に泊まろう
 もしかしたら近くの森に喰い物があるかもしれないし、薬草も探したい
 俺も正直乾物は飽きた…」

水を水筒に詰め、荷物は置かず少し離れた森に入り食べられそうな植物を探す


「うーん なにもない…」
「俺も知識が無いから判断できないよ」
「仕方がない 薬草ならわかるからそれだけでも採っていくか
 こんな事なら非常食心得書を持ってくるんだった……」

長い時間探し食べられそうな植物はあったが得体が知れないので結局薬草だけを持ち帰った
傷を治してくれるが苦くて全くおいしくない

「薬草は少し乾燥させなきゃならないから、外に置いておこう」
「はぁ 乾燥していないものを食べたい…」

十帖ほどの小屋で若い男が二人 沈痛な面持ちで沈黙に耐える

新しい物を手に入れても更に上の物を求めるのは人間の性か
森で食べ物を見付けられると思っていたからとても落ち伏せた

「なぁテリー……」
「なんだ?」
「魔物って… 喰えないかな…?」
「お、おい 勘弁してくれよ あいつらは食用じゃないんだぞ?」
「う… そうだよなぁ」
「やめてくれ 次から喰い物に見えてくるだろうが……」

いかん
ようやく海にたどり着いた自分を褒め為す気持ちで変な事を考えて…!

「何か物音が 誰かくる…!」
「魔物か?」

テリーも何か気配を感じたように言う
剣をとり静かに剣室から引き抜く

『ガチャ』

小屋の扉が開くと同時に入口の何者かに剣を向ける─ !!

扉の向こうから 二人の剣に鋭い眼光を呉れギリギリと抑え込む初老の男が姿を見せた
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