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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

様々な思い 更なる思い
グランバニアを発って幾日
目の前に横たわる凶々しい魔物、ブラディーポの四肢から動く気配が消えた
続けて全身毛に覆われモコモコした、見た目はかわいらしい魔物モコモンが体を丸め突進
真直単調な動きを難なくかわし剣を叩きつけ命を絶つ
剣に付いた血を拭き鞘に納めると ブラディーポとモコモンの体が光に吸い込まれ消えていく

どれくらい命が消えたのだろう
今は魔物を倒す事になんの躊躇も感じない、見慣れた光景だ

トルネコの渡してくれた荷物には魔物のスケッチとその名前が書かれた本

『魔物には知り得ない敵の名前を、俺は知ることが出来る』

魔物に対するただ一つだけの優位


「まだ続くのか…」

名も知らない しかも異世界の人間に殺される魔物達
いつになったら俺の旅は終わるのか、焦るばかりだ

口を衝いて出たこの言葉は 聞く者も答える者も無く大地へ染み入った



緑と薄茶が混ざったような現実感の無い広大な世界
旅人しか使わないだろう均された砂利路の上 変わり映えしない景色を眺めながら進む

「ハァ」
「なんだ、どうしたタカハシ?」
「いや、まだ着かないのかなぁって」
「おいおい、もう音を上げたのか?」
「そんなんじゃないけど、ひたすら魔物と戦って進む事に慣れていないからちょっと疲れたんだ」
「旅人のクセにそんなんでよく生きてこられたな」

そうだ 俺は旅人という事にしてるんだった
でも 今の俺は、無理してるんだよなぁ
本当の俺は… 俺は…?
どんな人間だった かな………

「今日は早めに休もう 俺もちょっと疲れた」

考え込む俺を後目にテリーは木々に挟まれた岩影に腰を降ろす

今はどんな人間だったかなんて関係ないよな
この世界では俺の常識は通用しないんだから…

考えるのをやめ荷物を放り身体を休める
陽はようやく傾いてきた所だ

「なぁ 魔物は倒された後なぜ光に吸い込まれていくんだろうな?」

前から疑問だったことをテリーに聞いてみる

「さぁな 俺が戦うようになった時、いつもそうだったから考えたことも無い」
「そうか… 光に吸い込まれて どこへ行くんだろうな…」

魔物が動かなくなると必ず光がその亡骸を包み込み何処かへと持ち去っていく
それが気になっていた

「どこへ行く、か
 お前は変な事を言うんだな」
「人間も、死ぬと光に包まれて消えていくのか?」
「ああ 人間も光に包まれる、が─
 肉体までは消滅しないんだよ 魔物の時と同じ光なんだけどな」

人間の肉体は消えない… なぜ魔物だけなんだろう
光の向こうには何があるんだ?
…死ななきゃわからないって事か

「そういえばテリーはドラゴン戦の後よく… 蘇生魔法をかけたとはいえ生き返ってこられたな」
「ザオラルか あの魔法はな、完全に死んだ者には効果ないんだ
 まだ生きる力を持つ者だけ つまり完全に死んでいない場合だけ蘇生できる
 完全に死んでしまった場合は上位魔法ザオリクを光に包まれる前に使えば、生き返らせる事が可能らしい
 ただしザオラルもザオリクも老衰や病気なんかには全く効果が無い」
「魔力を持てば使えるようになれるかな?」
「いや、ザオリクは無理だろう 消滅した古代魔法だ」

ザオリク
完全に死んだ者でも生き返らせる事ができるなんて驚きだ

それと、魔物が空へ飛んで行く魔法はなんなんだ?

「ルーラだ 瞬間移動魔法だな
 これも消滅した古代魔法なんだがどういうわけか魔物達は使える
 仮に俺達が使えるようになったとしても体が持たない
 ザオリクもそうなんだが魔力を酷く消耗しヘタをすれば命を落とすそうだ
 昔は高度な魔力を持った人間が多かったんだよ」
「瞬間移動魔法… なんでもありだなぁ」
「はは まぁ古代魔法は上級兵士にでもならないと知る機会がないからな
 書物によると過去八回、魔王によって滅ぼされかけた時に使われていた魔法らしい」

過去八回も… 魔王や魔物を退けてきたんだな
この世界の人達はこの世に存在した時点で魔物達との戦いの中に投げ込まれているんだ

俺はそんなにたくましくない
少し 疲れてきたよ

「トルネコ殿の事もあったし、お前は修行を始めたばかりだ 無理もない
 少しペースを落として行こう フィッシュベルは逃げないさ」
「ああ… すまない」
「…俺達姉弟はな、メルキドで生まれたんだ
 メルキドは俺が幼い頃魔物に滅ぼされその時親を亡くし二人でグランバニアへ移り住んだ
 15の時、二度と魔物の好きなようにされない為強くなろうと決め兵士になった
 だが上級兵士になるにはとても辛かったし何回もくじけたよ…
 なかなか強くならない自分に腹が立ったし焦ったよ
 でも、そんな思いは時間が解決してくれた
 ただがむしゃらなだけじゃ守れる者も守れないって気付いたんだ
 そこからは自分で言うのもなんだが冷静に判断出来るようになって急激に強くなれたよ
 戦闘は今後も容赦なく繰り返されるが─ 焦らずしっかり目的を持って進んでいくんだ」

自分の中に少しの苛立ちを含む焦りを感じていた
そんな様子にテリーも気付いていたんだろう

「ありがとう…」

メルキドはテリーの故郷だった
滅ぼされた時 どんな気持ちだっただろう
どんなに悔しかっただろう
そして 強くなろうとどれほどもがいただろう

─今の俺はただがむしゃらに進んでいるだけ 何も考えていないのと変わらない

そうだ 焦ってミスすれば全てがダメになる
この世界でのミスは死を意味する トルネコも言っていたし俺も戦うようになって実感した
進んでいくのは確かな事だが自分の気持ちが乱れていては……

ここまで自分が弱い人間だったなんて─
同じ事を繰り返し考え堂々巡り こんなんじゃいつまで経っても本当の強さは手に入らないだろう
強くならなきゃ最大の目的であるルビスには会えない

落ち着いてこの世界を歩いてみよう
テリーの言う通り焦らずに進めば見えなかった事も見えるようにきっと なれる
トルネコの事も含め、全ては自分の為に─ 俺は改めて気を嗜んだ
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