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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

勇者
ライフコッドへ来て四日、トルネコはネネと毎日過ごし俺はテリーと稽古や他愛の無い話をして過ごした
美しい山奥でピクニックしている気分だ …相手はテリーだが


なぜテリーのような上級兵士がこんな田舎村にいるのか疑問だった

「村人はほとんど年配で魔物を退治する力が無い
 それでグランバニアは俺を派遣している」

という事なんだそうだ
上級とはいえ、仕えるのは大変なんだな

「グランバニア周辺よりここらへんの方が魔物が多く強い
 俺は戦えればそれでいいんだ」

なるほど
戦闘バカという事か
話によるとミレーユという姉がいて、その姉もテリーと同じ上級兵士で攻撃魔法専門らしい
姉弟揃って戦闘のプロ、喧嘩は恐ろしいだろうな…



「タカハシ、お前には剣術センスがある」
「そうか? 自分じゃわからないよ」
「俺が言うんだから間違いない
 イシスで魔力を引き出してもらえば更に強くなり俺やトルネコ殿などすぐ越えてしまうだろう」
「はは、それはないんじゃないかな」

俺はそんなに強くない
確かに、この短い期間で戦えるようになった
周りがすごいと大袈裟に言うだけで、それはたぶん誰でも一緒なんじゃないだろうか
元々貧弱だったわけだし

「所で、どうしてお前はそこまで強くなろうと思うんだ?
 商人なら旅出来る位の強さで十分じゃないか」
「うーん、実は…」

俺は夢でルビスから強くなれと言われたことを話した
もちろん別世界から来たとは言っていない

「ふぅん、ルビス様がなぁ
 一般人のお前の夢にでてくるなんて、何かよくない事が起こる前触れかな」
「テリー、恐いこと言わないでくれよ…」
「ははっ! なんだ怖じ気づいたのか!」

こんなにのんびりとした時間が流れているのに魔王がいるなん信じられ─

「うわぁぁ!!」
「魔物だ!!」

村の方から叫び声が聞こえる

「なんだ!?」

俺とテリーはほぼ同時に村へ向けて走り出す



「う!? あれは…」
「あれは 俺の夢に出てくる緑色のドラゴンじゃないか!」

村の入口では鱗に覆われた巨大な緑色のドラゴンが尾を振り回している
だが、なぜか村の中には入ろうとしない

「ルビス様の力で魔物は村や町へは容易に入れないようになっている
 それよりもこいつ… 強いぞ…!」

テリーが少し焦った声で言った

「テリー殿! タカハシ殿!」
「トルネコさん!」

トルネコがオリハルコンの剣を構えドラゴンに立ち向かおうとしている

「私が真正面から! あなた方は後ろから頼みましたぞ!」

テリーと俺は無言でうなずき剣を構える

「グルルルル…」

ドラゴンが背後を牽制するため尾を振り回す

「ライデイン!」

テリーがその動きに反応し魔法をぶつける

『ズガガァァン!』
『ガシュ!』

同時にタイミング良くトルネコも斬りかかった

「グガァ!」

『ブゥン! グオン!』

攻撃が効いたのか尾をデタラメに振り回してくる
あの尾が直撃すれば無事では済まない

「ギガデイン!」

テリーのギガデインと雷鳴の剣が同時に雷を落とす
ドラゴンの背中に命中したがダメージを受けていない様子でこっちへ突進してきた

「早い…!」

『ドゴッ! ガッ!』

テリーと俺は尾の攻撃を喰らってしまいふっ飛ぶ
俺はあまりの衝撃に剣を離しそうになってしまった

『カシュ!』

トルネコが背後からこっちへ駆けながら斬り付ける
オリハルコンの剣だけが浅いダメージを与えられた

「大丈夫ですか! ベホイミ!」

身体が少し温かくなり傷が治っていく

「助かりました、でもオリハルコンと魔法しか効かないんじゃ…」
「俺の雷撃で鱗の一部を集中攻撃し穴を開ける、そこを狙おう」

ドラゴンの真正面で三人構える

「私とタカハシが注意を引きます! そのスキに!」

トルネコが目で合図し飛び出していく

「グオア!」

ドラゴンが尾を俺に向け振り上げそのスキを狙ってトルネコが足に斬り付け俺は必死で避ける
だがトルネコの攻撃はほとんど効果がないようだ

「ライデイン!」
「ギガデイン!!」

雷鳴の剣も合わせたテリーの三連続雷撃がドラゴンの一点を焦がす

「グガァァァァァァ…!」

ドラゴンの肩に大きな傷が出来苦しそうに叫ぶ
かなり効いているようだ

俺は肩の傷に狙いを定めもがいているスキに斬り付ける

『ズシュッ!』

「ギャァァァァ!」
「よし! 効いてるぞ!」

続けてテリーとトルネコが信じられない動きで一点を攻撃していく
まるで踊っているようだ

「グオオオォォォオオ!」

ドラゴンも尾を振り回し応戦する
身体の大きさ故かダメージはあるはずだが体力が尽きる気配は感じられない
俺も二人が落ち着いたあたりでちょっと斬りつける

「キリがないな!」
「また雷撃をお見舞して…!」

「グゥゥゥ… チョウシ ニ ノルナ… アソビハ オワリ ダ!」

「しゃべった…?!」

『ザシャアアァァァァ!』

ぐ! あ、熱い…? いや痛い…!

ドラゴンの口から何かが吐き出された数秒後、俺の意識は途絶えた─



「タカハシ殿!」
「う… トルネコさん、一体何が…?」

トルネコを見るとボロボロになっていた
テリーは少し離れた所で折れた剣を杖にし、同じくボロボロだ

「このドラゴンは輝く程激しく冷たい息を吐いてくるのです!
 その息の直撃で大きいダメージを受け、立場が逆転してしまった」
「そんな…!」
「あなたは大きな傷を負い気絶しましたがベホイミで回復できました
 が─ ベホイミでは間に合わないのです
 魔力も無くなってしまい休まなければ魔法は使えません」

回復が、出来ないと言う事か…

「ドラゴンはベホマで自分を回復させた、絶望です…
 恐らく魔王直属の部下… こんな強力な技を持っているなんて、もう私では敵わない…」

トルネコが悔しそうに歯軋りする


「ヨワイ ナ… オマエ タチ…」

ドラゴンの尾がテリーを捉え吹っ飛ばす

「う、ゴホッ…ガハッ… ハァハァ ダメージと、極端な冷気で、身体が…動かない…」

更に尾がテリーを叩きつける…!

「が はっ…! ハァ… ハァァ…」

「テリー!!」

俺は稲妻の剣を構えドラゴンに向かう
が、回復しきれていないせいか身体が思うように動かない
何も出来ず尾の一撃を喰らいうずくまってしまった

このままでは… 殺されてしまう…!



「もうやめろ!お前の狙いは私だろう!!」

トルネコが叫びながらドラゴンに剣を向けるがダメージのせいで剣先がブレる
安定しない剣は容易に弾かれトルネコはドラゴンの太い腕の一撃で地面へ叩きつけられる

「グルル… ソンナ カラダ デ、 ナニヲ スル ツモリ ダ
 ルビス ノ ツカイ、 イヤ、 ユウシャ ヨ…」


トルネコが勇者? 世界を救うという?


「わ、私だけを狙え… 他の者は関係が無い……」

「タシカニ ネライ ハ オマエ ダ
 ダガ コロシ ハ シナイ、 オマエハ、オロカナ ルビス ト ニンゲン、ドモノ
 ハイボク ト ゼツボウ ノ ショウチョウ トシテ イキル ノダ!」

ドラゴンの口から黒い霧が吐き出されトルネコを包み身体に染み込んでいった

「オマエ ノ チカラ ト キオク ヲ ケス ノロイ ダ…
 イキテ ゾーマ サマ ニ ゼツボウ ヲ オクリ ツヅケロ! ルーラ!」

あの山道で対峙した鎧と同じようにドラゴンは消え飛んだ



「タ タカ、ハシ…  トルネコ、さんを……」
「テリー! あんたは大丈夫なのか?!」
「平気、だ…」

少し回復した俺は急いでトルネコの元へ身体を引きずっていく

「トルネコさん! 大丈夫ですか!」
「あ……あぁ……」

呪いのせいか意識がはっきりしないようだ

「トルネコさん! 俺です! タカハシです!」
「う… あ… だ、誰だか分かりませんが、私の話を聞いてください
 私の名はトルネコ、ルビス様に選ばれた魔王を倒す勇者
 10年前、私は魔王と戦いそして敗北した
 魔王は私を殺さず生かすことで人間たちが勇者に失望すると考えた
 だが私が勇者である事を知る者はいなかった… うぅぅ……」

「トルネコさん! しっかり!」

「ぅ… 私は、一度の敗北で戦うことを放棄してしまった… 恐ろしかった……
 あの時、また力を付け魔王に挑んでいれば倒せたかもしれない
 そうすれば今ごろ、平和になっていたはずなのに…!
 今の魔王はあの時とは比べられない程、強大に─
 それからのわたし は、商人となり 勇者を… 自分を否定し生きてきた……
 私の罪…は許されない…!」

そうか、これがトルネコの言う"自分個人の幸せを拒む理由"か

「タカハシ… タカハシと言う者に会ったら今の話を伝えてください
 それから"楽しい旅をありがとう、必ず帰る事が出来る"と…」

「トルネコさん、俺はここです!」

「ううぅうぅぅぅ…… 記憶が消え… ウウアアウァァァ…」

このまま呪われていくのを見ているしか出来ないのか!

「ネネ! ネネ、お前と出会えた事が私にとって唯一の幸せだ
 このまま、お前を忘れてしまうのが、恐い…
 テリーよ、巻き込んで済まない、生きてくれ……」

トルネコの身体から力が抜けていく

「……ネネ…」

完全に気を失い顔から生気が失せていく
テリーを見ると呼吸すらしていないようで危殆な表情だ 助けたいが俺には何も 出来ない


「だっ大丈夫ですか! 今、治療します!」
「俺より二人を… 早く…」

神父と村人が駆けてきた

「ベホマ!」

 ルビスの使いというのはトルネコ─ 勇者

「トルネコ殿はこれでいい、宿へ!」

 勇者は 罪責で自身をさいなめ 私心を捨て人の為に旅を続けた

「ザオラル…!」

 あてのないその旅は 終わった…? トルネコは 何一つ悪くない

「ザオラル! だめだ…!」

 だめ? ザオラル? テリーは死んだのか…

「ザオラル! 私が、戦えたらこんな事には…!」

 俺も強ければどんなによかったか

「ザオラル! …よし!」

 この戦いはなんだったんだ?

「次は…!」



 神父がこっちへ走ってくるのが見える
 今は 何も考えられない



 緑が青々と生い茂る清々しい景色とは逆に
 目の前は暗れ塞がった──



〜 第一部 完 〜
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