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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

剣士テリー
「タカハシ殿! タカハシ殿!」

うーん…?

「はい…?」
「テリーです! 今日は外へ出ないのですかな?」

これが二日酔いというやつか、頭はガンガンし酒はまだ残っている
いつの間にかベッドで寝ていたがトルネコだろう

「う… たぶん、出ません…」
「そ、そうか! 頼みがあるのだが聞いてもらえないだろうか…」
「…なんです、か?」
「その… 私の稲妻の剣とその雷鳴の剣を寝ているだけでいいから交換してほしいのだ!」

寝ている間だけ、か
まぁそれならいいかな…

「いいですよ、でも俺が寝ている間だけですよ」
「そうか!! 感謝する!! ではまた!!」

テリーは嬉しそうに雷鳴の剣を腰に下げ部屋を出ていった

「…そんなに、触りたかったのか テリーさん……」

俺は再び眠りに着いた…



「タカハシ殿! タカハシ殿!」

この声は…

「なんでしょう…?」
「テリーだ! 今日もお借りしていいかな?!」

この人、村にいる間毎日くるんじゃ…… ん?!

「え?! 今日も、ですか??」
「あ… いえ、毎日はさすがにまずいですよね、ははは……」
「い、いえ そうじゃなくて、俺は昨日一日寝てたって事ですか?」
「寝ていたぞ?」

やっちまった…
コップ二杯でこの有り様だ…
せっかくの休みが!

「タ、タカハシ殿?」
「あ 剣は良いですよ、交換」
「おお! では…」
「代わりに… 稽古つけてもらえませんか?」
「そんな事か! よし、早速!」
「ちょ! 風呂入っていきますから、どこかで待っててもらっていいですか」
「そうか、なら町の入口で待っているよ」
「では、後で」

せっかちな人だ
それに雷鳴の剣で頭が一杯なんだろうな、言葉遣いが変だ


俺は湯を浴び装備を身につけ宿を出た

のんびり歩いて入口へ向かう
絵に描いたような田舎そのままの景色
風車が回るその様子は平和世界の象徴にも見える
実際は平和なんかではないけど、この村は違う気がした

トルネコは…
村の外れでネネと楽しそうに会話してる
こうやって旅の疲れを落とすんだろうな



村の入口へ着くとテリーが雷鳴の剣片手に待っていた

「来たか、稲妻の剣はこれだ」

稲妻の剣は刀身がやや白い光に包まれている
これもやはり魔法剣なんだろう

「まず手並を拝見したいのだが、少し町から離れよう」

町から離れ魔物を探す
ここらへんはテリーが退治するので魔物が少ないそうだ



「お、いたぞ
 ヤツ相手にいつも通り戦ってみてくれ」

テリーの指さす方向には二足歩行する虎みたいな魔物がいる

「ダークリカントだ、危険そうだったら加勢する」
「わかりました」

稲妻の剣を構えダークリカントに近付く

「グガオォウ…」

見るからに素早そうに見える
あの大きな爪には注意しなくてはならない

『ザッ』

先制攻撃だ─
間合いを詰め振りを小さく素早い太刀筋で斬り付ける

『ヒュン』

やはり素早い
間髪入れずダークリカントが爪で反撃してくる

『ドシュッ!』

素早いが追えない相手じゃない、避けながら剣を喉元へ突き刺す

「グオオオウウゥウ!」

苦しそうにまた爪で攻撃してくる

『ガシュッッ』

ダークリカントの横っ腹を剣が通り抜ける

「ガアアアァァ……」


「うむ、避けながらの攻撃、見事だ
 このまま実戦経験を積んで行くだけでもかなり強くなるぞ」
「俺はまだ経験がほとんどなくて… そう言ってもらえると嬉しいです」
「なに! それでこの腕前か… かなり見込みがあるな!」

経験を積んでいけばもっと強くなれる…
俺はルビスの言った"強くなれ"という言葉が気になっていた



「そういえばテリーさんはどうして雷鳴の剣に拘るんですか?」
「こ、これか! 俺は雷魔法が好きなんだ
 ライデインとギガデインを使える」
「なるほど、でもそれなら別に稲妻の剣でもいいんじゃないですか?」
「……これを見てくれ」

テリーはそう言い雷鳴の剣を構え集中する

『ズガガガッッ!』

雷鳴の剣から大きな雷が…!

「ライデインと同じ雷だ
 稲妻の剣を渡してくれ」

稲妻の剣を渡す
さっきと同じようにテリーが集中する

『ズバ!』

「あれ?? 風の…魔法?」
「そう、バギなんだよ… 稲妻の剣なのにな…」
「なるほど… それで雷鳴の剣を…」

テリーはすこし項垂れ話す

「ああ… 稲妻と言うからには強力な雷効果を期待したんだがな
 入手するまでかなり苦労… した、のに…」
「この町に俺がいる間はお貸ししますから… そんなに悲しい顔しないでくださいよ!」
「恩にきる、その代わり俺が教えられることは全て教える!」

全部、ときたか
この人はせっかちで豪快でさっぱりした性格なんだな

「魔法─ は無理ですよね?」
「む、すまん、魔法は無理だ
 イシスにいる神官に魔力を引き出してもらわないといけないからな」
「イシス、ですか」

トルネコに頼んでイシスへ連れていってもらおう
俺が元の世界へ戻るには強くなるのが早道のようだから

「ところでな、この雷鳴の剣と出会ってから夢に緑色のドラゴンが出てくるようになったんだ
 何か知らないか?」
「うーん、俺は知りませんね」
「少し気になるが… まぁ俺はこの剣さえあれば何も要らない!」
「俺が町にいる間だけですけどね…」
「わ、わかっている! ああ、それから敬語で話すのは止めてくれないか?
 同世代の人間にそんな話し方されると背中がこう、痒くなる」
「え、でも─」
「頼む、呼ぶときもテリーと呼んでくれ」
「わ、わかった、テリー」
「よし!」

なんだかこの人は付き合いやすいな
人より人間っぽいというか、おもしろい人だ

「じゃあ、俺は町へ戻ります」
「ん? なんだ、もういいのか?」
「また明日、いろいろ教えて下さい」
「構わんぞ! それから言葉、頼むよ」
「あ、ああ じゃあ、又明日なテリー!」



雷鳴の剣を腰に満足気なテリーを残し俺は町の宿へ戻った
戻ったはいいがする事が無い
再び町へ出て道具屋や武器・防具屋を見て回った

この村は小さいので見て回るといっても殆んど時間は潰せない
爺さん婆さんも村の入口広場で椅子に座りほとんど動く事なく過ごしている

俺は山の下を見下ろせる場所を見付け物思いに耽った
天界から下界を見る、そんな気持ちになってしまう程見晴らしが良い


この世界に来て初めて自由にのんびり行動したかもしれないな
急にこの世界へ放り出され、でもトルネコに拾われ面倒を見てもらいここまで来た

このライフコッドは不思議な気持ちになる…
なぜか懐かしく、なぜか心が緩んでしまう…
トルネコもそう感じたからこの村でリフレッシュするんだろう
…ネネに会いにくるっていうのが一番の目的なんだろうけど


俺は元の世界へ戻る
でも最近、その事をあまり考えなくなっている
なぜか… なぜかはわからないが向こうの世界の事をあまり思い出せない
前はもっと自分の暮らしを思い出せたと、思う
だから最近は恐ろしいから─ 考えないようにしている

この世界で時間が経つにつれ俺は、確実にこの世界と馴染んでいく
それがとても恐い いや、恐いのか?
感情がうまく表せないのだが最近、心の奥底に得体の知れない何かが眠っている気がする

…あのルビスとかいう声
強くなれば姿を見せると言った
ルビスが何らかの鍵を握っていることは明白だ

「あの声に、まずは会おう…」

下に見える小さなグランバニアを見ながらそう呟いた
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