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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

ライフコッド
山の中腹、のどかな村が俺たちを迎えてくれた
爽やかな風が気持ちのいい、とても平和な村に見える

「お、これはトルネコ殿!」
「テリー殿、久しぶりですな」
「ええ、本当に! 後ろの方は?」
「私の弟子でタカハシと言います まだ修行中なのでテリー殿にいろいろ世話になりますぞ」

トルネコが俺を前へ押す

「タカハシといいます、よろしく」
「俺はテリー、グランバニア上級兵士の一人だ よろしく頼む」

テリーは身軽そうな青い鮮やかな服装で剣を腰に差している
たぶん俺と同じくらいの年齢だろう、それで上級兵士とは…

「これから村の見回りがありますので、また後ほど… !!」

テリーはそう言い歩きだそうとしていたのだが突然俺を見て言葉を詰まらせる

「タ、タカハシ殿… それ、それは… もしや雷鳴の剣では…?」
「え? ええ、そうですけど…」

どうやら雷鳴の剣に用事があるらしい

「すまないが、少しでいいから… 見せてもらえないか?」
「え…」

目が、ものすごく恐いのでトルネコへ助けを求める
気付いたトルネコはすかさず間に入り込んできた

「今から村長へ挨拶をしに行ってきます
 テリー殿、また後ほど…」
「あ も、申し訳ない… それではまた後ほど」

トルネコに救出され歩きだす
が、テリーの視線が剣に注がれているのが気配だけでわかる

「テリーさん、剣を見た途端変わりましたが…?」
「彼は剣を集めるのが好きなのです
 雷鳴の剣が余程気に入ったのでしょうねぇ ホッホッ」

剣マニアか、まったく恐い人だ



「おお、トルネコ殿 おひさしぶりですじゃ!」

村の村長らしい爺さんが元気に声を上げた

「おひさしぶりですね、村長
 お元気でしたか?」
「元気じゃよ! もうネネには会ったかね?」
「え?! いえ、ま、まだです…」
「そうかそうか お前さんが来るのをずっと待っておったよ、早く行ってあげなさい」

トルネコが恥ずかしそうに俺を気にしている
ネネっていう人がトルネコの恋人なんだろう、態度でわかる

「あ、ところで私にも弟子ができまして」
「お? 後ろの若者がそうか! 名はなんという?」
「タカハシといいます」
「タカハシ! トルネコ殿の弟子になれるなんて幸運じゃ、修行に励むのじゃよ!」

トルネコはどこにいっても慕われているな
なんだかうらやましい

それから軽く立ち話をして村長の家から宿屋へ向かう

「ふぅー…」

宿屋前で呼吸を整えトルネコは扉を開けた

「いらっしゃいませ… トルネコさん!」
「あ、ああ ネネ…さん、またしばらく世話になる、なりますよ」
「私はいつまででも、いてもらって良いのですよ……」

うお!?
いきなりこんな場面になってしまうとは…
こっちが恥ずかしい…

「う、あ! 私の弟子でタカハシと言います!」
「人がいたなんて…! お恥ずかしい所を見せてしまいましたわ…」

トルネコが妙に高いテンションで俺を紹介する
それとは逆に眼中に入れてもらえていなかった俺は少し低いテンションで挨拶した

「じゃ、じゃあ また後で…」
「ええ、ごゆっくり…」



「トルネコさん! きれいな方じゃないですか!」
「いえ… お恥ずかしい…」

荷物を降ろしトルネコに話しかける

「でも、旅で離れるのは辛いでしょう?」
「ええ、でも商売ですから仕方ないのですよ」
「そういう物ですか? うーん…例えば結婚するとか…」
「そうですなぁ ホッホッ」

どうもこの手の話はニガテみたいだな
ネネだってトルネコに好意があるのは明らかだ

「じゃあ、今回いる間に結婚しちゃうとか!」
「え?! ははは…」

う、トルネコの顔が曇る
怒らせてしまったか、さすがに言いすぎた…

「…すみません、トルネコさんずっと一人旅だって言ってたし
 きっかけになればなぁって思って言いすぎました…」
「いえ、そうじゃないんです
 ただ… 彼女とはもう十二年の付き合いですが…
 私はそういう、私個人の幸せを求めてはいけない理由があるんです」
「え?」
「今は理由を、まだ言えません
 いつかお話します、だからその時までは… 聞かないでください」

いつもやさしいトルネコが、後ろ姿だけで深い悲しみやくやしさ
そういった気持ちを抱いている事がわかってしまう雰囲気に包まれている

「……話は変わりますが、この町でも商売するのですか?」
「いえ、この町では頼まれた薬を配るだけですよ
 この村での目的は、一度気持ちをリフレッシュさせる事なのです」
「じゃあ、この村にいる間はずっとネネさんと一緒にいてくださいよ
 俺はテリーさんと特訓しようと思ってるんです」
「…お心遣い、感謝しますよ」

トルネコには俺がわかりようもない特別な悲しみがあるようだ
そういう悲しみは多くの人が持っていて時々他人に触れてもらわないと苦しみに飲まれそうになる
だけど今は触れる時ではないように見える、これ以上はやめよう


その晩、俺はいつもより多めの酒を飲んだ

「休みだ! 飲むぞー!」

休みというよりはする事が無いだけだ
勢いよく飲み始めたがわずか二十分後に床で枕を抱いていた
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