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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

実際
「お、随分雰囲気が変わりましたね
 精悍な顔つきになって… おかえりなさい」

宿へ戻るとトルネコが待っていてくれた

「疲れましたよ! 生きて帰れて感動するくらいです!」
「ホッホッ まぁそう言わずに… 今のあなたなら魔物に負けることはないでしょう
 この世界でも十分生きていけます」


そうだ、俺はこの世界で生きる為に修行したんだよな

「…ありがとう、トルネコさん」
「ホッホッ どういたしまして」

ここまで世話をしてくれたトルネコさんの為にも頑張っていかなきゃ
まぁ、修行はちょっときつすぎだったけど…

「タカハシ殿、これは私からの贈り物です」

トルネコが一振りの剣を俺に渡した

「それは雷鳴の剣といいましてな
 使う者の魔力に同調し雷の力が宿る魔法剣です」

鋭い刀身が淡い青に包まれた不思議な雰囲気の剣だ

「え、そんな良い物受け取れませんよ」
「今後、今より厳しい地への旅になりますし始めから良い武器防具を扱った方が上達すると思うのです
 ですから、使ってください」
「しかし…」
「それからこれも」

更に魔法の鎧と鉄兜を俺に渡す

「遠慮とかそういうのはなしですよ
 この装備でこれからの旅を乗り切っていきましょう」
「…ありがとうございます」
「あれだけの訓練をこなしたんです、しっかり使いこなせますよ」

訓練を見てたのか…

俺は早速装備してみる
雷鳴の剣は訓練用の剣よりずっと軽く、扱いやすそうだ
魔法の鎧も軽く、動きやすい
鉄兜はちょっとかっこ悪かったが命を守る防具なのでそんな事言ってられない

「似合ってますな」
「これだけで強くなった気がする」
「無くても十分強くなってます ホッホッ
 魔力が備われば雷鳴の剣は更にあなたを助けてくれますぞ」


俺が訓練している間トルネコは他の地で集めた薬や食品、道具などを売り
品物が無くなったら今度はグランバニア地方の薬等を集め、残りは武具売買していたそうだ
薬や武具など集めた品物は預り所のある別の町でも売られる
一般の人は戦えないから貴重な薬なんかはトルネコ頼りになるわけか…

「それってトルネコさんが独占してるって事?」
「いえいえ
 私の他にも旅の商人は大勢いますからね
 それに私の場合薬や食品などはほとんど捨て値で赤字です
 何で稼ぐかというと武具の売買ですな、これは相手がプロやコレクターなので多少高くても売れる
 しかも珍しい武具を入手出来るチャンスでもあるのです」
「へぇ 珍しい武具ですか」
「ええ、でも珍しい物を買い取る値段が売上げを遥かに上回ることも少なくありません
 あまり儲けにこだわってないからいいですけどね ホッホッ」

トルネコの話は面白い
ずっと聞いていたいが明日グランバニアを発つ事になっているので早々に眠った



次の日、相変わらず井戸端会議で忙しそうな王に挨拶しグランバニアを出発した
ライフコッドという山奥にある村へ行くそうだ

「山の村ライフコッドは人間が住む場所で最も魔王の城に近い村です」
「そんな所に人が…」
「お年寄が多いので避難も出来ないのです
 私やグランバニア王も町へ降りるよう何度も勧めたんですが…」


山の麓まで何事もなく無事に到着できた
途中の魔物は全て俺が相手をしたがスライムしか出なかったので楽勝だ
魔物相手の実戦を初経験したが臆すること無く倒すことが出来た

「さぁ、ここから山登りになります
 しかも魔物が急に強くなるので注意して進みましょう」

強い魔物か
俺は緊張しながら山へ入っていった

「この山道はどれくらい続くんですか?」
「たぶん、一週間程でしょうか」

一週間も…

『ガサッ』

「!」

道の先の草が揺れる
俺は荷物を降ろし剣を構えた

「グオォォオ…」

巨大なマントヒヒらしき生き物に道を塞がれる

「早速きましたな あれはマンドリルという力だけの魔物です、頼みましたぞ」
「え? 俺一人でですか?!」
「もちろんですよ
 その為に修行してもらいましたから、年寄りに無理させたらダメですぞ ホッホッ」

よし、この為に特訓したんだ
戦う事にもう躊躇いは無い

「ハッ!」

先手必勝、マンドリルめがけ剣を振り降ろす

『ガシン!』

「うわ…!」

なんという力だ、素手で剣の横っ面を叩かれ弾かれた

『ブンッ!』

マンドリルの反撃を余裕でかわす

「俺は避けるのはうまいんだ!」

続けてマンドリルの肩に向け剣を振る

『ドシュッ!』

「グオオオオオォオォ!」

もがくマンドリル
動きは鈍く、狙った部位を正確に斬ることができ
肩から大量の血が流れ出す

「う…!」

血が… あんなに吹き出して…

俺は始めてみる大量の出血に怖じ気づいてしまう
スライムは 血を流すことはなかった

「だめです! とどめを!」
「ウガァァ!」

『ゴスッ!』

「ぐ…ゴホッ…!」

トルネコの叫びも虚しくマンドリルの攻撃を油断した腹に喰らってしまう

くそ、魔法の鎧がなければただじゃ済まなかった…

「この…!」

"死"という言葉を振り払うように雷鳴の剣を叩きつける

『ズバッッ!』

「ガァ…ァ……」

マンドリルは肩から腹に掛け斬り裂かれ起き上がることは無かった



「あなたは十分強くなっています
 そこらへんの魔物に負けることは決してないでしょう
 ただ、それはさっきのように怖じ気づかなければの話ですよ」
「…」

スライムは余りに現実離れした存在だったから倒してもそんなに実感がなかった
でもこのマンドリルは俺と同じ赤い血を大量に流した、俺の攻撃でだ
手に肉を切り裂いた時の感触が残っている
急に実感が湧いてきてしまい油断した…

「確かに魔物も同じ生き物
 ですが今、攻撃を受けてわかったでしょうが躊躇いがあればどんな魔物相手でも心を読みスキを突いてくる」

トルネコノ言う通りだ
このままうじうじしていては本当に死んでしまう

「はい、もう大丈夫です
 …俺は生きて元の世界へ帰る、生きて、戻る」

口に出すことで心に深く刻み剣を身体の前へ構える
俺はこの剣で魔物を倒す
生きるために、生きて帰るために死ぬわけにはいかない



「まともな相手での始めての戦い、良い動きでしたよ
 タカハシ殿は成長がとても早い、私もすぐに追い抜かれてしまうでしょうな ホッホッ」

そうだ、俺は修行して強くなった
心だけだ、心をしっかり持とう
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