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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

グランバニア
六日ほど歩きうっそうとした森を抜けると少し先に巨大な壁が現れた
入口であろう門の前では全身鎧で身を固めた警備兵が盾と長い槍を持ち魔物達を牽制している

「さぁ着きましたよ! ここがグランバニアです」
「やっと… ベッドで休める…」

ここまで必死でトルネコについていきた
慣れない野宿はとても辛く途中でくじけるかと思っていたが、一人になったら魔物が怖いので頑張れた

トルネコによる講習は歩いている間休むこと無く行われ道具、武具などの種類を覚えることが出来た
ここグランバニアでは実際の品物を見ながら商売をしつつ更に詳しく教えてくれるそうだ
魔法も名前と効果だけは教えてもらったが正直理解できなかった

「では入りますぞ」

門をくぐり中へ進むとそこにはスッポリ収まった町、中はかなり広い
グランバニアは高い壁に囲まれ守られていた

広い通路をなるべくキョロキョロしないように進む
建物は赤い屋根が多く壁などは白、四角い2階建てがほとんど
地面はタイルのようなものが敷き詰められ歩きやすいようになっている
広い道の両脇には店が並び、食べ物の屋台も出ていてとても賑やかだ

「まず、王と謁見しに行きましょう」
「そういえば城が見当たらない…」
「この町は過去、魔物に城だけを破壊されそれ以来周りを壁で囲むようになった
 残った城はその材料として使ってしまったので今はないんですよ」
「じゃぁ、王はどこに?」
「普通の家にいますぞ ホッホッ」

王が普通の家に?
城が無いからとは言ってもそれはないだろう
かわいそうな王様だ、もしかして人望が無いのか
まぁ多少おおげさに言っているんだろう

住宅街らしい区域に入ってきた
建物が密集し、あちこちで本物の井戸を囲みおばさん達の会議が行われている
一組の輪がこっちをみてヒソヒソ始めた

変な人が来たとか言われてるんだろうなぁ
王がこんな所にいちゃだめだよな…

「トルネコさん、こんな所に王様がいるんですか?」

トルネコは笑うばかりで何も言わない
俺は騙されてるのか?
まさかどこかおかしな所に売られてしまうんじゃ…

「お、いましたぞ」

俺の心配をよそに、トルネコが手を向ける

「…?」

手の先には警備兵が取り囲む、異様な光景のおばさん会議
その輪の中に一人だけ男性がいる

まさかあの人が王だと言うのか?
服装も至って普通だしどこにでもいるおじさんじゃ無いか、威厳のある髭も無いし…

トルネコが男性に近付き声を掛けた

「王様、こんな所で道草してはなりませんぞ?」
「道草ではない、世間話… おお、トルネコではないか!」

トルネコを見た男性が嬉しそうな顔をする

「お久しぶりです、グランバニア王」
「うむ。半年ぶりだな、元気そうで嬉しいぞ!」
「王もお変わりないようで。
 今日からまたしばらくグランバニアで商売をするのでご挨拶に伺いました」
「そうか、しっかり稼ぐと良いぞ
 また後ほど我が家へ寄ると良い、今忙しくてな」
「ええ、それでは後ほどお伺いいたします」

トルネコはこちらへ歩いてこようとしたが、俺を見て手招きし王へ話しかけた

「紹介を忘れていましたが私の弟子でタカハシと申します」
「弟子か! トルネコの弟子ならさぞかし強いのだろうな!」
「いいえ王様、タカハシはまだ戦ったことが無いのです」
「ふむ 詳しい話は今夜聞こう」
「わかりました、ではこれで…」

忘れられてたんだ、俺…

一言も喋ること無く始めての謁見は終了した
というか、今のが謁見?こんな道端で…

王は再び井戸端会議へ戻っていった
おばさん達も慣れた様子で話している

「トルネコさん、本当にあの人が王様なんですか?」
「ホッホッ 信じられないのも無理はありませんが正真正銘本物ですよ
 王は人の生活を知りたいからと普通の家に住み町へ出て国民と話をするのです
 よほど気に入ったのか、再び城を建てる気はないようですね」
「へぇ 国民思いの王様ですね」
「王が国民の話を直に聞くようになってからこの町は以前にも増して良くなりました
 この頃はあのように奥さま方との会話が目的になってしまっているようですが ホッホッ」

トルネコは王の住居の前まで連れていってくれた
中がどうなっているか分からないがちょっと広い程度の平屋建て
独身らしいし仕事用の家などが別にあるそうだから困らないのだろう
この町が元気なのはきっと一風変わった王の存在のおかげだな


住宅街の中を少し迷いながら抜け中央広場へ向かう
俺の装備を整える為、広場すぐそばの預り所に品物を受け取りにきたのだ
預り所というのは魔法の力で物を溜め込みどこからでも引き出せる店、そう教えられた
どこからでも取り出せはするのだが固定された魔方陣が必要なようで持ち歩くことは不可能だそうだ
その仕組はこの世界の誰にもわからないとも教えてくれた


「まだ戦い自体を知らないので軽いこれでいいでしょう」

トルネコは旅人の服を俺に渡した
旅人の服は旅をしても痛んだりしにくい素材で出来ている
今着ている布の服は所々ボロになっていた

「武器はこれを」
「これは… 銅の剣、でしたっけ?」
「そうです
 剣の修行をしますからね、これで慣れていきましょう」

とてもシンプルな装飾の無い剣だ
いよいよ"戦う"という事が現実味を帯びてきた
重さも結構あり、果たしてこんな代物を俺に扱えるのか疑問に思う

「似合っていますよ、銅の剣は他の剣に比べると少し重い
 でも扱い慣れれば他の剣を使った時が楽になる」

言ってる意味が分からなかったがそのうち分かるようになるんだろうな


陽も傾いてきたので宿へ戻る
今日は何もせずゆっくりし、明日南の森へ木の実を取りに行く事になった

「私はこれから王の元へ出掛けます、タカハシ殿もどうですか?」
「俺はやめておきます、町を見て回りたい」
「わかりました。私は遅くなると思うのでこれを」

トルネコは20ゴールドを俺に渡し

「これで夕食と軽くお酒でも飲んで下さい
 明日からまた暫く忙しいですからね、体力付けておいて下さい」

そう言い、出掛けていった

この歳で小遣いを貰うとは
…価値はどれくらいだろうな?

向こうの世界とは価値観が違いすぎて比べられないか
ここは宿屋が二人で8ゴールドなのに薬草も8ゴールドする世界


さて、俺も外へ出掛けよう
外は薄暗いけど町の中なら出歩いても平気だ

宿を出てまずは食堂を探す
夕方だというのに人が多く、屋台も増えている
この町の人は夕食を屋台で済ます事が多いのだろう

俺はたくさん並ぶ屋台の中で人が少ない所を探し近付いた

「いらっしゃい! なんにする?」

屋台の親父が元気良く声を掛ける

さて何にしようか… !
米料理がある!
これは炒飯ぽい食べ物か、パンばっかりだったから…

「これ、いくらですか?」
「5ゴールドだ、米は高いんだよ」

十分お金は足りる
5ゴールドの炒飯とビールみたいな泡立った5ゴールドのアルコールを頼んだ
竹製の器に入れられた炒飯とビールの入った器を受け取り、屋台前のテーブルで食べた
炒飯は野菜が少なく肉が多い、量も程良く別世界だという事を忘れるくらい旨い
ビールらしき飲物も旨いが結構強いアルコールらしく、余り飲めない俺はすっかり酔ってしまい眠くなった


「うー… 町を見て回りたかったけど無理だ…」

ブツブツ独り言を言いながらフラフラ宿へ戻りベッドへ倒れ込む

「あー いい気分だー おやすみー ……」

旨い食べ物と酒のおかげでかなり上機嫌な俺は、疲れもありそのまま眠ってしまった
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