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最終章[9]
いや、生み出すはずだった。
しかしそれが留めの一撃とはならない。
呪文による横槍が入った為に被害が及ばない所で効果が霧散してしまった。

「……まだ何か奥の手があったのでしょうか」
煙が晴れ、サクヤの視界が確保されるとそこには八人の勇者がずらりと勢ぞろいしていた。

「おーいしなの〜助けに来てやったぞ〜!」
「ふぅ……どうやら間に合ったみたいですね」
「酷い怪我だ……早く手当てを」
「ゲレゲレ! やっぱりあの遠吠えはゲレゲレだったのか!!」
「人も魔物も動物もみんな分かり合えるはずなのに、どうしてできないんだろう」
「すべての元凶はこいつだったわけだ。こういう悪夢は消し去らなきゃな」
「せっかく友達になれたと思ったのに、君には始めからその気はなかったんだね」
「サクヤ、君が元凶だったとはね。すっかり騙されたよ」
口々にものを言うものだから、正確に全員が何を言っているのかは分からない。
しかしサクヤはこれで形勢が悪くなったのをひしひしと感じていた。
「……どうして神殿での異変に気付いたのです?」
「タロウが教えてくれたんだ」
「この子はみんなとは別の小さな穴から洞窟に入ったんだ。そこから出て教えてくれた」
「俺たちは正面から入ってくる必要があったからちょっと時間がかかっちまったけどな」
「言葉は通じなくても思いは通じるものさ」

サクヤの頭がガクリとうなだれる。
完璧だと思われたサクヤの計画は実は既に崩れていたのだ。
ゴーレムによるタロウの足止めは成功していなかった。
そして勇者達がこの神殿に来る事までは予想出来なかった。

「な……何故……」
「あなたたちは洞窟の外にいたのですか、かな?」
「世界の異変を調べてたらみんなここにたどり着いたって訳さ」
「僕はサクヤ君が無事に元の世界へ帰れるか心配で、やっぱり近くで見守ろうと思っただけなんだけどね」
「まぁ他人を利用することしか考えていないお前には分からないことだろうな」

「な……何故……何故邪魔をするんですか!! あなた達はいつも、いつも……!!」
ブルブルと体を震わせ嘆くサクヤ。
そんなサクヤにしなのが声をかけた。
「サクヤ、君に足りなかったのは仲間だよ。心を通じ合わせられる仲間が、ね」
運命は決まっているものではない。
仲間がいたからこそ、ここまで成し遂げる事が出来たのだ。
それが結果として運命を位置づけたに過ぎない。
運命とは人が命をかけて運んでいくものなのだから。

「そんな……そんな事で……」
サクヤはその一言で力が抜けてしまったかのように、地に膝をついた。
「私は負けない……あともう一歩……たった一歩……!!」
そんな言葉を繰り返しながらサクヤは自分の敵達を睨みつけた。
その目に暗い光が再び宿る。
波に削られて今にも崩れてしまいそうな砂の城を建て直そうとするかのように、サクヤは再生計画が破れるのを諦めきれずにもがこうとする。

「さて、そろそろ帰りたいと思うのは僕だけかな」
「いーや、もうこんな世界はうんざりだね」
「よし、決めるぞ!!」
「君達のマジックパワーも借りる! 協力してくれ!」
エイトがヨウイチ達に声をかける。

「今こそ心を一つに……」

その声を頼りにして心を束ねていく。
他人に心を許す感覚が力に変わっていくのが分かった。

「「「「ミナデイィィィィィーン!!」」」」

呼び起こすは圧倒的な光の束。
その光が神殿の天井の穴からサクヤの頭上に落ちてくる。
ライトのように白く照らされたサクヤは何故か不気味に笑っていた。
「ククク……」
「……?」
「あえて動揺してみせるのも時には有効な手段ですね」
絶望的な状況であるはずなのに、そこに先ほどまでのうろたえた様子は一切見受けられなかった。
これが役者なら最高の演技だと言われる程に、嘘をやってのけたのだ。
「私は呪文を使えないのではありません。切り札は最後までとっておく主義なのです」
「しまった!!」
サクヤの意図を察した勇者達は素早く反応する。

しかしサクヤは笑いながら天に手を掲げ、呪文反射の文句を唱えた。

「マホカンt――」
(キィキィーー!!)

――聞き覚えのある声がヨウイチの頭の中にだけ響く。その声に押された腹の底からの叫び――

「ドラオォォォォーーーー!!」
ミナデインの発生させた落雷が叫びをかき消す。
ヨウイチには出会った時と同じ、青い体でふわふわ浮かぶドラオが見えていた。
時間が止まったかのように、その表情は詳しく感じ取れる。
「ドラオ!」
「キィ!」
心で交わしたたった一つずつの言葉は、多くの気持ちを含んでいた。
ドラオの笑顔がだんだんと薄れ消えてゆく。
と同時に、ヨウイチの心に置かれた大きな固まりも少し、小さくなっていた。

ミナデインのもたらした音響はバリバリと余韻を神殿に響かせている。
サクヤの呪文は発動する事はなかった。
怖がりなドラオが口を塞いでまた呪文を封じ込めてくれたのだ。

「……クン……」

光が止み、稲妻に焼かれたサクヤの体は地に伏し塵と化した。
その魂は雷と共に天へと昇っていったのだろう。
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