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最終章[8]
太陽の光がまた一筋、この地から消えた瞬間にどちらからとも無く動き出す。
ヨウイチ達はサクヤを取り囲むようにして攻撃を開始した。
これで必ず誰かがサクヤの死角にいる事が出来る。
しかし決定的なチャンスは得られなかった。
死角から狙ってくる事に早々に気付いたサクヤは見事に対処してのけた。
サクヤとのレベルが違い過ぎたのだ。
もうほんの少しでもタロウ達のレベルが高ければサクヤに勝る事は出来ただろう。
現状ではさざなみの剣一本でしなの達とやり合うのに十分なのだ。
しかしその剣も残りものだった。
氷の刃と砂塵の槍と毒牙のナイフは既に破壊している。
もうこれ以上武器を持っているとは考えにくい。
故にこの策を成功させられれば優位に立てる。

(沈む……!!)

しなのが頷いたのを見て、ヨウイチはわざと隙を見せる。
サクヤは正確にそこを狙って剣を突き出してきた。
その切っ先がヨウイチの胸が刺されるかという時、闇に光が吸い込まれるようにして全員の視界を黒に染め上げる。
何事なのかと一瞬躊躇したサクヤに飛びつくタロウ。
そしてタロウはその体勢のまま装備している風の帽子を使った。
ルーラの効果を持つ風の帽子によってタロウとサクヤの体は飛び上がる。

「がっ……」
タロウによって下から持ち上げられる形となったサクヤは、
天井に穴が開く程の勢いで頭をぶつけた。
当然タロウにかかる負担もゼロではないが、サクヤの方が影響は大きい。
天井から落ちて背中を強かに打ち、衝撃でサクヤの脳はさらに揺れる。
「よし!!」
しなのは、炎のブーメランを大きな弧を描かせるようにして投げ、灯りを作り出す。
それで暗闇の中からサクヤの居場所を特定し、懐から爆弾岩の欠片を取り出した。
そのアイテムをサクヤが持っているのをしっかりと覚えていたのだ。
(これで!!)

しかしその時サクヤはしなのを突き飛ばそうともがいた。
しなのはあわよくばサクヤへの止めの一撃にしようと思っていたが、何とか武器を持つサクヤの右手に爆弾岩の欠片を押し付ける。
互いの力が交差する中で、炎のブーメランが使用者であるしなのの手元に戻ってくる。
その炎が爆弾岩の欠片の着火剤となる。
ドンッ、と花火が爆発した時のような音がそこにあるものを吹き飛ばした。
さざなみの剣と、サクヤの右手と、しなのの体を。

「やったか?!」
しなのが成功したであろう事を信じて今度はヨウイチが松明に火をつける。
松明を掲げて最初に視界に入ったのは、サクヤの不気味な笑顔だった。
ヨウイチは驚きのあまり体を動かす事が出来ない。

「な――」
「いい加減しつこいですね」
サクヤがマグマの杖を振りかざす。
まだ武器があったのか、という思いは焼かれる痛みの中に消えていった。

「わんっ!!」
ガブリとタロウがサクヤの肩口に噛み付き、鉄の爪でひっかく。
が、サクヤは少しも痛がらずにタロウを体から引っぺがして地面へと強く叩きつけた。
「キャンッ……!!」
痛みに吠えるタロウを面白くなさそうにサクヤは杖で殴り飛ばした。
鉄の胸当てにヒビが入り、使い物にならなくなった。
タロウの体は神殿の壁に当たって止まる。

「……夜が来たんですね」
マグマの杖を支えにするようにしてサクヤは息を整えようとした。
先ほどの爆発で右手を失い、余波で体中に火傷を負っていた。
しかし痛みに焼かれる体から血が抜けていく感覚でさえ、サクヤには快感だった。
「もう終わりしましょう」

そう、終わりなのだ。
もうタロウ達は戦えないだろう。
後は犬から欠片を奪い返して石版を完成させるだけなのだ。
それでこの計画は完遂する。
長く遠回りしてしまった気もするが、かけた時間が長い程感慨も一塩なのだ。
そんな感覚が痛みを興奮に変えていた。

(その前に始末しておきますか)
石版が並みの衝撃では壊れない事を知っているサクヤは、しなのが取った手段と同じようにマグマの杖を爆弾岩の欠片で破壊する。
杖に込められた呪文の力と爆弾岩の爆発が混ざり合い、相乗効果で威力を高める。
そしてそれはヨウイチ達を確実に死に至らしめる巨大な爆発力を生み出すのだ。
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