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最終章[4]
「昔々、全世界を我が物にしようと考えた一人の魔王がいました。彼の圧倒的な力に多くのモンスターが賛同し、世界制覇は目前でした。
しかしある時、この世界を作った神様が魔王の非道を阻止するため、その存在を石版に封印してしまったのです。呆気なく封印されてしまった魔王にモンスター達は失望の色を隠せませんでしたが、中にはそれでも魔王を慕おうとする者もいたのです。その者は魔王の封印を解く事を決意しました。
石版の封印をとくためには一度石版をばらさなければなりませんでした。それには強大な力が必要でした。異世界から誰かを召喚するときに発生するような力が……崩壊していくこの世界の、さらに外にある世界から召喚する時に生じるような、ね。
私自身もその力によってずいぶん遠くまで飛ばされてしまいましたよ。まさか石版を壊す事で世界がこのようになるとは思いもしませんでしたし」

サクヤの口から次々に真実が語られていく。
その言葉をすぐには受け入れる事はできなかった。
「だから私達をこの世界に……」
「ちょっと待てよ!! 石版は帰る為にあるんじゃないのか?!」
「ふふふ……石版を集めることで元の世界に戻れるという噂を流したのも私ですよ。嘘に夢を見る気分はいかがでしたか?」
サクヤは種明かしをする事が心底愉快だといった感じで楽しそうにしゃべる。

「俺達はお前の操り人形だったというわけか……」
「人形を操るなど造作もない事ですよ。しかしこうして石版を見事に揃えてまで頂けるとはね。くっくっくっ……私は本当にあなた達に感謝しています。まんまと噂に乗せられ我が主の復活への手助けをしてくれたのですから」
つまり石版で願いが叶うというのはサクヤが作り出した嘘だったのだ。
「ところであなた達はどうやって帰るつもりなのです?」
「どうって……」
石版が魔王を復活させる為のアイテムと判明した今、確かにしなの達が元の世界へ帰る術はなくなってしまった。
いや、騙されていたのだから元から帰る方法など無かったと言っていいだろう。

「ですがまだ希望はあります。私があなた達の召喚者であるという事ですよ」
「どう、いう……」
「私なら元の世界へ送り返す事が出来る」
分からない話ではなかった。
一方的に呼ぶ事しか出来ないのであれば中途半端だと言わざるを得ない。
封印された魔王を復活させる事が出来るなら、サクヤの言う通りの事も出来るはず。
しかし、
「ただし素直に石版を渡してくれればの話ですがね」
こうなる。
敵であるサクヤが無償のボランティアをする訳がない。

「せめて選択させてあげましょう。
石版を渡して帰るか、ここで死ぬか」
ククク、と笑い声をあげるサクヤ。

「ふざけるな! お前の片棒を担ぐなんて私は嫌だ……!」
「わんわん!!」


ヨウイチとしなのがうなだれている間、タロウは警戒し続けていた。
石版をはめるにしたがってサクヤの邪悪な心が増大していくのをタロウは感じていたのだ。
怖いものから人を守るのが犬の役目。
(たっぷりと甘えさせてくれたしなのとヨウイチは僕が守らなきゃいけないんだ!)
だからタロウは一生懸命にサクヤを睨みつける。
その小さな体を精一杯に強張らせて、二人の盾になるようにしてサクヤを威嚇した。
しかしサクヤはタロウのそんな様子にも構わずに言う。
端から気に留める対象に数えていないのだ。

「ほぅ、戦うのですか? たった二人の人間と畜生一匹で私を倒せるなどと本気で思ってるのですか?」
「やるしかないだろう? 仕方なくても、な」
「うぅ〜!!」
「いや、アイツの言う通りだ。俺達が敵うとは思えない……」
ヨウイチはタロウとしなのの意気込みを打ち消すかのように言う。
「ヨウイチ? じゃあどうするんだ!」
「……ここはタロウにかける」
「タロウに……?」
「要は石版が揃わなければいいんだろ。
俺達で時間稼ぎをしてる間にタロウには石版を持ってここから逃げてもらう」
「しかし……」
「タロウ、やってくれるよな?」

しかしタロウはウゥーと拒否の意を示す。
逃げてしまったら二人を守る事が出来ないからだ。
ましてやこの場に置いて行く事なんて出来るはずがない。

「そう言うなよタロウ。ついでに助けを呼びに行ってくれればいいんだ。そしたら俺達はお前に守ってもらえた事になる。それにこうして再会出来たのも何かの縁だろうしな。絶対に皆で帰れるさ」
タロウの頭をクシュッと撫でてやると気持ち良さそうに目をつぶった。
それでタロウは行く決心をする事が出来た。
「わん!」
「よしタロウ、これを」
しなのは荷物の中から素早さの種を取り出し、タロウに与えた。
「行け! 走れタロウ!!」

ヨウイチがサクヤに向かってダッシュすると同時にタロウは神殿の入り口へと駆けて行く。
サクヤはすかさず爆弾岩の欠片を投げ付け、神殿に入り口を壊して逃げ道を封鎖しようとした。
しかしヨウイチの振りかざした破邪の剣に一瞬気を取られて投げ遅れる。
タロウの姿は堅い造りの壁が瓦礫となって崩れ落ちる中に消えて行った。
「タロウ……無事で……」

「ぐわっ!! いてて……しなのも手を貸してくれよ……」
しなのはタロウの安否を心配し、ヨウイチのサポートを怠ってしまったのだ。
サクヤに吹き飛ばされたヨウイチの鎧の肩の部分は防具として意味を成さなくなった。
「おっと、すまない。しかしヨウイチはタロウの言葉が分かったのか?」
「いや……タロウにも言葉が通じれば良かったんだけどな」
ドラオと同じように、という思いは口には出せなかった。
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