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最終章[3]
神殿の中は長方形をした大きなホールになっていて、綺麗に切り取られた白い石が隙間なく敷き詰められている。
壁には神々を模した彫刻や何かを表した壁画が描かれており、それらが夕焼けによりオレンジ色に染まり、思わず立ち尽くしてしまうくらいに美しかった。
「綺麗だな……」
「あぁ……」

「くしゅっ!」
「ははw」
感激しているところにタロウのくしゃみが入り、思わず笑みがこぼれる。
神殿に入るのは躊躇われたが、そうも言っていられない。
厳かな雰囲気を壊してしまわないように音を立てないようにして歩いた。
段差を上がるようにして作られたホールの中央に何かのレリーフがある。
レリーフの形は直方体の台に額縁のようなものが乗せられていると言えばいいだろうか。
額縁の中に石版がはめられそうになっているところを見ると、あれが台座なのだろう。
しなの、ヨウイチ、タロウ、サクヤが台座を取り囲む。
「やっと……やっとこの時が来たんだな……」
「この額縁に石版をはめて完成させれば願いが叶うって訳か」
「さぁはめていきましょう。それでこの裂けいく異世界も元通りですよ」
「って事は俺らにとっても世界にとっても一石二鳥だな。まぁそれはいいんだけど、もう終わりかと思うとなんだかな……」
「私ももう少し冒険しても良いと思ったがな」
「くぅ〜ん……」
「……じゃあ俺からはめてくよ」

ヨウイチが石版を少し緊張した面持ちで石版をはめ込む。
するとつなぎ目の部分が光を発し、二つの欠片が一つに繋がった。
「すげぇ……」
「さっきからヨウイチは驚いてばっかりだな」
「凄いものは凄いんだから仕方ないだろ? しかし凄いな……この石版欲しいんだけど、貰えないかな?」
「何を馬鹿な事を言ってるんですか。元の世界に帰りたくないのですか?」
「う〜ん、悩ましいな」

本気で悩んでいるヨウイチにタロウとしなのは笑う。
しかしサクヤは一刻も早く帰りたいのだろうか、皆をしきりに急かした。
「どうしました? しなのさんも早くはめてください」
「ん……あぁ、そうだったな。すまない」
コトリという音とともに石版がまた少しずつ形を取り戻していく。
終わりが近づいてくる。
「めでたしめでたし、ってやつか」
「ついにやりましたね。皆さんの冒険もこれでおしまいです」
「ホントに短い間だったけど、これでお別れだな……」
「ったく……今生の別れって訳じゃあるまいし」
「また会えるさ。向こうの世界でな」
「そうだな。 それまでのバイバイだ」

次にタロウの石版をはめ込めばちょうど完成するようだった。
「さぁ次はタロウの番だな」
「タロウの石版は私がやりましょう。さあ、こっちに渡して下さい」
タロウでは石版をはめる事が出来ないので、サクヤが気を使う。
「うー! グルルル!」
しかしタロウはサクヤを威嚇するようにして唸りを上げた。
「何だ? 今度はしなのじゃなくてサクヤが嫌われたのか」
「タロウはあらゆる動物から嫌われ続けた私に懐くような犬だぞ……」
面白がるヨウイチとは対照的にしなのの顔が険しくなる。
途端にサクヤの様子が気になってきたからだ。

「サクヤ、赤は危険な色だな?」
「えぇ、そうですね」
「じゃあ皆で渡れば怖くないものは何だ?」
「……橋、ですね。先にモンスターがいると分かっているような危険な橋を渡るのも、皆で渡れば怖くないという意味でしょう」

サクヤの答えと自分の思っている事が違ったのでヨウイチは頭をかしげた。
「え? 赤信号だろ?」
「シンゴウ……?」
逆にサクヤはヨウイチが発した聞きなれない単語に顔をしかめる事になる。
「なあサクヤ。さっき君は『皆さんの冒険はこれでおしまい』と言ったよな」
信号という言葉を知らない、という事が意味するところのものは一つしかない。
そう考えたしなのは、静かにサクヤに詰め寄った。
「なぜ『私たちの冒険』と言わなかったのだ?」


痛いところをつかれたサクヤはうつむき、肩を震わせた。
「……ふっ……っく……」
「サクヤ……?」
「ハハハハハハハハハ!! ……やれやれ。ばれちゃったみたいですね」
少しも困った様子を見せず、むしろそれを楽しむかのように呆れて見せる。
サクヤの声はまだ冷静なものだった。
「宿屋で私が目覚めた部屋には三人の人間がいました。事を荒立てたくなかったので彼らの前では正体がばれないように振舞いました。話を聞く限り腕が立つようでしたからね。とんでもないところで目覚めたものです。でもまぁ、結局彼らに協力してもらうことでその力を逆に利用してやりましたよ。
今はついつい油断してしまったようです。匂いが漂ってしまったのでしょう。
ところでその部屋にはその彼ら三人以外の人間はいませんでした。どういう意味だか分かりますか?」

サクヤは舞台で役を演じるがの如く振る舞い、そしてクイズを出すかのように言った。
「……つまり、お前は人間ですらないということか?」
「くくく……正解です」
そう、サクヤはヨウイチ達と同じ世界の人間ではなかったのだ。
「お前の目的は何だ!」
「目的? 皆さんと同じですよ。石版を完成させる事です」
サクヤがおかしそうに言う。
「実はこの石版には魔王が封印されているんですよ」
「ま、魔王……?」
魔王という言葉にヨウイチは戦慄を覚える。
この世界に居る今の状況であってもそれは現実離れしている話だ。
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