[] [] [INDEX] ▼DOWN

◆8fpmfOs/7wの物語

第3話 タロウの犬予言
その夜、僕は夢を見た。
きれいな町、美しい空、空飛ぶベッド……
えええ! いやー! ベッドが空を飛んでるー!

『あら、可愛らしい犬がいるわ』
『今は犬に構っている場合じゃないぞ』
ベッドから降りてきたお兄さんとお姉さんが僕に気づいて近づいてきた。
空飛ぶベッドに乗っているなんて宇宙人じゃないよね……
『ふふふ、空飛ぶベッドが珍しいのかしら?』
『そりゃそうさ。俺も始めてみたときは驚いたよ。まさに夢の世界だな』
『ええ。もう2度とここへ来ることはないと思っていたのに……』
『再び夢と現実の境目があいまいになってきている。何かが起ころうとしてるんだ』
『夢と現実だけじゃない。私たちが知らない世界とも混ざり合おうとしているわ』
なんだか難しい話をしているね。
『どうした、ミレーユ、ハッサン』
今度はつんつん髪のお兄さんがベッドから降りてきた。
『犬か。お、人懐っこい犬だな。よしよし』
お兄さんが僕の頭をなでてくれる。
あれ、このお兄さんの匂い、勇者さんに似てる気がする……。
『ねえ、この子何か不思議な感じがするわ』
『この犬が? しかし犬に話を聞くわけにはいかないしな……』

『分かるかもしれないわよ、犬の言葉』
どこからか女の子の声が聞こえてきた。
その女の子の姿を見たときベッドの人たちはなんだかとっても驚いていた。
『バーバラ……』
『みんな久しぶり! デスタムーア倒したとき以来だね!』

よく分からないけど、なんだか感動の再会をしているみたい。
『また……こうして会えるとは思わなかった。これは夢か。いや夢には違いないか……』
『ねえ、落ち着いてよ。……私も会えなんて思ってなかった』
つんつん髪のお兄さんと髪を頭の上で結んだ女の子はなんだかうれしそう。
この2人は昔何かあったのかなぁ。僕、犬だからよく分からないけど。
『皮肉なものだな。誰よりも平和を愛する2人。この2人が出会うことができるのは世界が危機になったときだけなのだから』
ハッサンという人が何かかっこいいことを言っているみたい。
きっとこのハッサンさんはかっこいい人なんだね。僕、犬だからよく分からないけど。

『さあ、この子の話を聞きましょう』
やっと僕のことを思い出してくれたみたい。
ミレーユさんとハッサンさんは情報集めに行ってしまっている。
なんだか2人きりにしたかったみたい。僕は犬だから関係ないね。
『話を聞くって、どうするんだ?』
『ここは夢の世界よ。なんだってできるんだから!』

僕たちはジョンという人の家の前に来ていた。ジョン君は空飛ぶベッドの元の持ち主なんだって。
『わかりました。この子の言っていることを通訳すればよいのですね。いえ、私もみなさんのお役に立ててうれしいのです。犬は一度受けた恩は忘れないものですから』
この家の前にいる人なら僕の言葉が分かるらしいよ。本当かな。
『それじゃ、この犬の名前とどこから来たのか聞いてもらえるかな』
『ああ、駄目よ。見た目は人間でも相手は犬なんだから、もっとゆっくり聞いてあげないと』
この人は夢の中では人間だけど現実では犬なんだって。変なの。
『言いたいことが伝わらないのは誤解の元よ』
『そうだな。じゃあ、まずはこの犬の名前を聞いてもらえるかな』
男の人がうなずくと僕に話しかけてきた。
「君の名前を教えてくれますか?」
男の人が犬の言葉でしゃべっている!
凄い! 本当にお話できるみたい!
僕はこの不思議な男の人を通していろんなことを話した。

『うーん。やっぱりこの子こっちの世界の犬じゃないみたいね』
『こっちの世界じゃないというのは現実の世界ということか?』
『ううん。夢でも現実でもない、今繋がっている世界でもない。さらにその外側の世界……』
『やれやれ、世の中ってのはどこまで広いんだ』
『こんな噂を聞いたわ。異世界の迷い込んできた人間がいて、彼らが元に戻るためには石版が必要だって」
『石版?』
『魔力のある石版には何かを封じる力があるそうよ。世界の一部とか魔王クラスの魔物とかね』
『おいおい、この犬が魔王だっていうのか?』
『そうじゃないわよ。そんな石版なら違う世界のものでも封印できるかもしれないってこと』
『封印か……』
『石版はかけらになっていて異世界の人間だけがいける不思議な神殿に収めるそうよ』
僕は犬なんだけどね。
『世界の命運はこの犬が握っているってことか……』
バーバラさんが通訳役の人を通して僕に話しかけてくる。
「ここは夢の世界なの。あなたはもうすぐ目が覚める。そうしたらあなたは石版を探すのよ」
石版を集めて神殿に行く。これが僕がお家に帰る方法らしい。

『しかし、違う世界って言うのは凄いな。普通の犬が鉄の爪を装備しているんだから』
『それはこっちの世界でつけてもらったんじゃないかな』
『……そうだよな。いや、鉄の爪を装備している時点で普通の犬じゃなかったんだよな……』
『ねえ、落ち着いて。こんなことで落ち込まないでよ』
『そうだな。よし、俺からもタロウにプレゼントをあげよう!』

タロウは鉄の胸当てを装備させてもらった!

世界を頼むと言ってお兄さんたちは行ってしまった。


「ねえねえ、『恩を忘れない』って、あのお兄さんたちは何をしてくれたの?」
「私のご主人様が旅立つために必要なものをくれたのです」
「へえ、何をもらったのかな」
「旅立つために必要なもの。それは勇気ですよ」
勇気? 石版探し旅をする僕にも必要なものなのかな……。

タロウはすてみを覚えた!
タロウはみがわりを覚えた!

『なあ、あんた。犬と話ができるのか?』
『ええ。出来ますよ』
通訳してくれた男の人に別の男の人が話しかけてきた。
その男の人は鳥みたいなモンスターの口を押さえている。ううう、怪しいよー。
『面白そうだな。ちょっとやってみてくれよ。名前はなんて?』
「僕ゲレゲレ! じゃないタロウだ!」
『ゲレゲレじゃないだろうか。と言っています』
『何で自信なさげなんだ? まあいいや。ゲレゲレは石版について何か知らないか?』
「ゲレゲレじゃないよ目が覚めたら探すの」
『ゲレゲレにはいない嫁探しならするそうです』
『え、嫁探しだって? 石版は知らないのか……
 じゃあ、不思議な神殿の話を聞いたことは?』
「神殿は知らないよ。行かなくちゃいけないんだけど」
『死んでも知らない。行けないと言っています』
『ん… よくわからない答えだけど… 神殿についてもっと詳しく聞いてくれないか』
「僕も行きたい。だから戻らなくちゃいけないんだ」
『生きたいなら戻らなければならない、と言っています』
『え。どういう事なんだ…… なるほど…… よくわかったよ、ありがとう』
ううー、もうちょっとゆっくり話してよ。なんだか話が通じてない気がする。
[] [] [INDEX] ▲TOP

©2006-AQUA SYSTEM-