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◆2yD2HI9qc.の物語

三十、こころ
クレージュの宿屋にいました。
身体は調子よく、天気はカラカラで気持ちよい気候です。

「女将さん、おはよう」
「ああ、今ちょうど暇になったところだよ」

そういって女将さんがお茶の入った器二つと一緒にヨウイチを席へ座らせます。

「おはよう。 …どうだい、落ち着いたかい?」

まどうしとの戦いから、ヨウイチは眠ることもせずただクレージュを目指したのです。
宿屋へつく頃にはすっかり疲弊しきってあまり話もせず一晩を過ごしていました。

「うん…」

ヨウイチは一つうなずき話し始めました。

「…ドラオなんだけど、さ。ドラオは死んでしまったんだ。理由、全部は俺が弱いせいだった」



「キ、キィィィ!」

瞳がぼんやりと世界を写し、ドラオの声と戦いの風を感じます。

「う… ど、ドラオ?」

まどうしが放つ魔法「ギラ」を素早い動きでかわすドラキー。
ヨウイチにはわかりませんでした。
ドラキーの身体は白く、まどうしと同じ攻撃魔法を使うのです。
ドラオのような雰囲気を持ちながら、けれどもドラオとは違っていました。

「お、おい! ドラオ… なのか!?」

まどうしはかなり弱っていましたが、巧みにギラをドラキーへと引火させます。
炎を浴びるドラキーもまた火傷や傷を負いつつ、鋭いツメで応戦していました。

「なぁ!!」

とっさに、戦いのさなかだというのに声を荒げてモンスターへと近づこうとしましたが、どうやら眠らされている間に攻撃されてしまったようです。
足や腕に激痛が走り立ち上がるのがやっとでした。

「キッ!!」
「ぐぅっ!!」

その時、戦いは決着を見ます。
ドラキーの胴体にはまどうしの杖が飲み込まれ、まどうしの首はドラキーのツメによって切り裂かれたのです。
ヨウイチは動けず、お互いが崩れ落ちていくのをただ見ているしか出来ません。
やがてまどうしの首から噴出した血はわずかになり、地面をじわりと染めるだけになりました。
ドラキーは杖の当たり所が悪かったのかそのまま地面へ落ち、大きくゆっくりと呼吸を繰り返すだけです。

「あ… おい! お前はドラオなのか?!」

ヨウイチがようやく我を取り戻す頃には、白いドラキーの息も絶えつつありました。
腕に抱え上げるとその身体はとても重く、力が失われつつあることを知らしめます。
そして、顔を見てはっとしました。
表情はいつも見慣れたドラオだったのです。
色は違いますが元のドラオに戻り、戦っていたのです。

「き… きぃききぃきききききぃ… き、キィキー、キィー……」

ヨウイチの身体の傷が治るのと一緒に、ドラオの身体が不思議な光に包まれすぅと消えてしまいます。
両の腕は軽くなりそのまま空を抱くだけでした。



「…ドラオが守ってくれたんだね」

女将さんはショックをうけていましたが、優しく言います。

「そう、ドラオ。最後に回復魔法をかけてくれて、それから言い残して… どうして白い身体になったのかはわからないけど、そんなことより…」

悔しくて仕方がありません。
大事な友達が、ずっと一緒に歩いてきた友が、自分を守るために命を落としたのです。

「ヨウイチ」
「……俺はずっと、ずっと一緒に旅したいって。俺が守っていくはずだった、なのに眠って…… 女将さん、ドラオは俺を恨んだりしてないかな」

女将さんは少し黙って、それからヨウイチの肩に手を置いて言いました。

「あんたはなんにも悪くないんだよ。ただのモンスターから戻ったのも、ドラオのこころにヨウイチがいたからなんだから。最後の言葉はきっと、守れてうれしかったんだろうね。 …恨んだりなんかしないよ、ドラオはヨウイチが大好きだったんだよ」
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