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◆2yD2HI9qc.の物語

二十九、モンスター
帰りは順調に進んでいる、つもりでした。
ところが、何処で間違えたのか帰り道とは違う土地へ入り込んでいたのです。
二人は気持ちを落ち込ませないために気づかないふうを装っていましたが、嫌でも気付かされる事があり、元の路へと引き返そうとしていました。
「くそっ… ドラオ、薬草はいくつ残ってる?」
「キ… キィ」
「五つか。まずいな… お前は怪我してないか?」
「キィキ」
「大丈夫だな。とにかく、なんとかしてここを…」
「キキィ、キキキ」
「それは、俺も気付いてたんだけど、間違いであって欲しかったよ。 …お前の言うとおり、ここは帰り道じゃないみたいだ。地形が似てるから大丈夫だろうと思ってたんだけど」
メイジドラキーと遭遇したときに周りを良く見渡せばよかったのです。
あの時から方向を見失っていました。

「モンスターが強すぎる… もうこの剣に鎧じゃ太刀打ちできそうには…もしかするとここで…」
「キ! キーキーッ!」
「ふぅ、そうは言っても薬草は節約しなきゃだめだよ。とにかく、どこでもいいから町へいける路を見つけるまではガマンするよ。目処がたつまでとにかくモンスターからは逃げるんだ」
ヨウイチのお腹には大きな爪痕がありました。
大きく削られたそこからは勢いこそなくなりましたが血がしたたります。

「ここなら、隠れられそうだ」
ヨウイチが見つけたのは大きな岩に囲まれた平地です。
痛みと出血で弱った身体を休める事にしました。
「イテテ… まいったな…」
「キィ…」
ドラオが心配そうにヨウイチを覗き込みます。
「だいじょうぶ、少し休めば元気になるよ」
「キィ〜?」
「いや、いい。ほんとに大丈夫だから」
「キキッキキキィィ」
「…わかったよ、薬草ひとつ食べるから。それだったらいいだろ? お前、戦えもしないのに探しにいくったって…」
ドラオはヨウイチのために薬草を探しに行こうとしていました。
ですが、こんなにもモンスターの強い場所で一人にさせるわけにはいきません。
ヨウイチは荷物から薬草一つを取り出し口へ放り込みました。
「むぐ、ニガイ………ほら、傷口がふさがったよ。な? もう大丈夫だ」
「キィ〜〜」
ドラオが安心したようにくるくる飛び回ります。
そんな姿を見ていると、なんだかずっと昔から友達だった気がして、ずっと一緒に旅をしたいとも思うのです。
けれどヨウイチは別世界の人間で、今まさに元の世界へ帰る方法を探しています。
帰ることが出来れば別れが訪れ、お互いは二度と会うこともないでしょう。
ですからこの瞬間をせめて楽しく、無事に旅を終わらせたいと強くつよく信じるのです。

「傷も治ったし、暗くならないうちにいこうか」
「キィ」
立ち上がり一歩、感じたことの無い不穏な空気があたりを包み始めました。
ヨウイチはとても嫌な予感がして、ドラオを促し早足でもときたであろう路を引き返し始めます。
空にはとうとう夕暮れが始まろうとしていました。
「…やばいな」
その時です。
はっきりと何かが駆け始めたと感じた瞬間、目の前に不安の正体が姿を現しました。

「くそ!!」
急いで銅の剣を突き出します。
ドラオも一生懸命にヨウイチのやや後ろへと下がりました。

「なぜ人間とわれわれ魔の者が行動を共にしている?」
全身をローブで覆われ片手に杖を携えるモンスター、まどうしです。
「お、俺達に戦う意思は無い! だから─」
「ドラキーよ、貴様はこの人間に操られているのか? ならばいますぐその縛を解いてやろう」
ヨウイチの言葉を無視し、まどうしがスライムナイトと同じような仕草を始めます。

「やめろ!!」
「…ラリホー!」

剣を振りかぶりまどうしへ切りかかりましたが、刃先が当たる瞬間身体から力が抜けてしまいます。
「う、あ、なんだねむい…」
とても我慢できるような眠気ではありません。
まどうしは何も無かったかのように再び、ドラオへおかしな術を施しています。
ドラオをみると怯えてはいましたが、目は釣りあがり明らかに変化し始めていました。

「くっ…」
ドサリと地へ身体ぜんぶを横たえ、重くなったまぶたと一緒に意識が薄れていきます。
どうにか目線だけをドラオへ向け、驚きました。
それはドラオではなく、ヨウイチを今にも襲わんとするモンスターと化していたのです。

「どう、して…… どらお… ドラオー!」
力を絞りドラオへ呼びかけます。
ドラオがどうしてしまったのかはわかりませんが、ヨウイチを見ながらただケケケと笑うだけ。

覚えているのはそこまでです。
もう完全にヨウイチは、求めない深い眠りへと落ち、生きているのか死んでいるのかわからなくなりました。
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