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◆2yD2HI9qc.の物語

二十五、ドラオ
「くそっ! やっぱりこんな事になるのかよ!」

ヨウイチは身構えます。
相手は弱そうですが二人、油断はできません。

「ほー。歯向かって来るなんて生意気だ。俺は強いんだぞ? いいのか? 痛い目にあうぞ?」
「ちぇっ! なんにもしないで身包みはがされるよかマシだ!」
「う、むぅ。ん、おいドラキー。なんで人間の味方してるんだ、さっさとこっちへこい!」
「キィーー!!」
「な、なんだ。おまえ、堕落しきった人間にすっかり染まってしまってるな。ようし…」

スライムに乗った戦士がなにやらドラオへ指を指しゆらゆらさせます。
ヨウイチはドラオをかばうように前へと出て剣でひゅうと威嚇しました。

「あっ! なんだ人間! じゃまをするんじゃない!」
「うるさい! とっととすごろく券を持って遊びに行け!」
「…まぁいい。中途半端だがもうそのドラキーは俺達の仲間に戻った。だてにスライムと一緒にいるわけじゃあないぞ!」

ハッとしてドラオへ振り返ります。
ドラオの目はとろんとしてしまい、意識がもうろうとしているみたいでした。

「お、おい! ドラ─」

ドカリと背中に重い衝撃が加わりました。
スライムナイトのスライムが体当たりしてきたのです。
その衝撃でドラオを思わず抱えこんで地面へと転がってしまいました。

「このやろう! 卑怯だぞ!」
「こっちはお前の物がぜんぶほしいんだ。
 綺麗もひきょうもない!」

今度はナイトが剣をびゅうとふるいました。
ドラオをぽいと投げ、剣を構えなおしながらごろごろ転がって避け、しっかりと構えなおします。

「今度はこっちからだ!」

土をけってまるで野球のように剣をぶうんと振り、それをスライムナイトがひょいとよけます。
あんまりに思い切り振ったものですから、ヨウイチは剣に引かれてトトトと横を向いてしまいます。

「ちょろい!」

スライムナイトの剣が風を切ってヨウイチの肌を切り裂きます。

「ピー!!」
「いっつつ!!」

今度はスライムに足をかみつかれてしまいました。
ヨウイチは痛みをこらえて後ろへ下がり、姿勢を整えようとします。
切られた腕は思ったより深い溝ができ、足にはスライムの口型が残ってとても痛くてたまりません。

「きぃ」
「お?! おお、ありがとう」

ふらふらしながらドラオが薬草を手渡してくれました。
様子がおかしいので気になりますが、今はそれどころではありません。
薬草を飲み込み傷を癒し、考えます。

あいつはあまり剣はうまくないし動きも早くない。
それに都合のよいことにとても油断している。
良く見ろ。
落ち着けば必ずかてるぞ。
弱点だってあるはずだ…

深呼吸を一回、二回。
足元のちょっぴり大きめな石を片手に取りスライムナイトへ駆けていきます。

「もうあきらめて荷物を全部よこすんだな! 正直ちょっとビビってたがなんともないぜ!」

びゅうんと大振りなナイトの剣がヨウイチの胸すれすれを通り過ぎ、体勢が少しだけくずれます。
ヨウイチはこの瞬間を狙っていました。
油断しているので気にせず剣を振り回すだろうと予想したのです。
そのまま予定通り、スライムの開きっぱなしになっている口へ思いっきり石を投げ込みました。

「ビギッ!! ビーッ!!」
「な! な! スラぼうどうしたのだ?!」

スライムはとても痛がって、それはもう暴れる牛みたいになりました。
そんな状態で、上に乗っているナイトはたまりません。

「こらー! 落ち着けー!!」

どすんと、暴れるスライムからナイトがすべりおち、スライムはさっそく口に入った石をぺっぺと吐き出しています。

「ば、ばかっ! 俺をおろすやつが─」
「さー逆転だ。どうする?」

地面へへたるナイトへ切っ先をたて、大きいスライムを片足で抑えていいました。

「あ… いや、いや。お、俺は地面の上ではちゃんと戦えないんだ… だから、まいった! 許してくれ!!」

ナイトが必死に頭をさげます。
スライムは気の毒そうにその様子を見ていましたが、ガツンとした音と一緒にぺったんこになってしまいました。

「なにしてるんだよ! ドラオ!」

見るとドラオが大きな石をスライムめがけて投げつけていたのです。
表情はまるで今までみたことのないこわい顔をしていました。
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