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◆2yD2HI9qc.の物語

二十三、マウントスノー
「どうだ、体調は」

年老いた男の声で意識がはっきりしてきます。
体を動かしてみると、ふかふかのベッドに寝かされているのがわかりました。

「ここは… 屋台は…?」
「なんの事だ? 私はブルジオといい、ここはマウントスノーで私の家だ。君は五日のあいだ眠っていたのだよ」
「あ、俺はヨウイチです。確か、町に到着したのは覚えてるけど…」
「町の入り口で倒れていたのだ。あの吹雪だったろう。私は町長として外の様子が心配になり数人と見回りをし、騒ぐドラキーを見つけた」
「気を失ったんだ… あ、助けてくれてありがとうございます。なんていったらいいか… 本当に感謝します」
「礼には及ばん。いつもの事で慣れているしな。今はすっかりいい天気で、雪もほとんど溶けてなくなった」

ホッとし、ベッドから起き上がってドラオを探しますが見当たりません。

「ドラキー、どこにいますか?」
「さっき広間で─」
「キィーーッ!」

バタバタ飛びながらドラオがヨウイチの顔にしがみついてきました。
羽が当たって痛いのですが、無事で安心します。

「見ての通り元気だし食欲もある。君をずっと心配していたよ」

部屋はきらきらした飾りがたくさんあり、暖炉まであります。
床には複雑な刺繍を施した絨毯が敷かれ裕福な家であると教えてくれています。

「しかし、ずいぶんと軽い格好で来たようだな。それにこの時期のあの三日間だけは山が吹雪いてしまうから、誰も外へは出ないというのに。下の町で聞かなかったかね? 毎年、君のように迷い運ばれてくる者がいる」
「町へは寄らなかったもので… すみません、そういう時期があるとは…」
「準備も無しに山を登るとは。まぁ時期でなければ過ごしやすい気候だから、運がなかったな。
ここマウントスノーは他とは違い特別なのだ」

なんだか恥ずかしくて、ヨウイチは自分の姿を見返します。
ですが旅人の服ではなくて、まるで着た事のない厚手の服に着替えさせられていました。

「元の服はすまないが処分させてもらった。もう防具としては機能しないほどにボロボロだったのでな」
「し、しょぶん?! それは困る! 俺はまだ旅をしなきゃならないんだから!」
「ふむ。なぜ旅をしている? ここマウントスノーに来た理由はなんだね?」

自分の装備を捨てられびっくりしましたが、ブルジオの冷静な質問に落ち着きます。

「…目的は、まぁいろいろあって。マウントスノーにきたのは不思議な石版をみてみたいと、思ったからです」
「ほう… 石版を知っているのか。見てどうするんだね?」
「それは─」

言われて気づきました。
見るだけでは駄目なのです。
石版を手にし、それを神殿へと持っていかなければ意味がないのです。
ヨウイチは考えを改めることにします。

「……正直に言えばその石版を譲ってもらいにきました」
「ふむ。石版を持っているのは私だ。…欲しいのなら一つ、条件を出そう」
「条件? なんです?」
「武器を持っているということは、君は戦いを知っているわけだ。そこで頼みがある。町の北にある洞窟に、スライムナイトというモンスターが住み着いたのだ。普段なら町の中まで入ってくるモンスターなどおらないのだが… あろうことか町へ忍び込みいたずらするようになった。町の設備を壊したり畑を荒らしたり店の品物を盗んだり貢物を要求したりと、だんだん手におえなくなったのだ」
「え。まさかそのスライムナイトを退治してくれと?」
「そうだ。これまで町に訪れる商人や旅人に依頼してきたが、失敗している」

ブルジオがごそごそ数枚の紙を取り出します。
ドラオがなぜか目を輝かせているのがわかりました。

「これはすごろく券といい、信用できる商人から仕入れたものだ。私は行ったことはないがなんでも広大なすごろく場で遊べるものらしい。これをスライムナイトに渡してきて欲しいのだ」

すごろく券を手渡されますが、ヨウイチはどうにも納得できません。
モンスターがすごろくをするなんて考えられないからです。

「あの… 俺はそのモンスターを知らないんですが、こんな紙切れで大丈夫なんでしょうか」
「いや、大丈夫だ。様子を見に行ったときスライムナイトが"どうしてもすごろく場で遊びたい"と話しているのを聞いたからな」
「…そうですか。けど、そんな簡単な事でどうして失敗を?」
「それは… すごろく券と一緒に誰もが約束を果たさず逃げてしまうんだ。すごろく場はよっぽど魅力的なのだろう… 私は旅の者と出会うたびに頼んでおる。もちろん、君は特別に信用している」
「はぁ… で、この券を渡せばモンスターもすごろく場へ行ってくれると。でも、券がなくなれば戻ってくると思うんだけど」
「戻るだろう。が、それまでに対策を考える。その時間稼ぎのために、一時でもいいから洞窟をからっぽにしたいのだよ」

なるほど、と考えましたがやっぱり納得できないところもありました。

「でも、渡すだけならそれこそブルジオさんだって出来る事だし」
「いいや。もし券を渡して襲い掛かってきたら、我々は戦えない」
「あー… なるほど」
「うまくいったら石版は譲ろう。頼んだよ、ヨウイチくん」
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