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◆2yD2HI9qc.の物語

二十、夢のまち
「おぉぉ… これはすごい事になったぞ」

二人の寝ていた場所はずいぶん町のはずれで、誰かに見られたりはしていませんでした。
さっそく、この不思議な町を歩いて回ることにします。

「それにしたっていつの間に町へ入ったんだろうな」
「キィ」
「んー… あ! もしかすると眠ったからかもしれない! だって考えてみろよ、俺たちは目が覚めたじゃないか」
「キキ!」
「たぶん、そうだ。なるほど、あの森で眠らないと入れない町なのか。だからシエーナの人にもわからない。さしずめ夢の町ってところか…」
「キィキー」
「そうかもな。俺たちはまだ寝てるか、夢の中で起きてるかのどっちかなんだろ。ん、いや… 夢の中で起きてるっていっても、起きてないことになる、寝てる……?」
「キィ!」
「あ、ああ、ごめん。行こうか」


一通り町を見て回りましたが、クレージュやシエーナとあんまり変わったところは見られません。
ちょっとがっかりしたヨウイチは、町の人に話を聞いてみることにしました。
内容はもちろん石版と神殿の話です。
こんな不思議な町なら知っている人がいてもおかしくないと思ったのです。

「こんにちは」
「こんにちは。ん、君は見ない顔だね。旅人かい?」
「えーと、ついさっきこの町にきたばっかりなんだ」
「そうかい。クリアベールへようこそ。それで、僕に何か聞きたいことでも?」
「願いをかなえてくれる石版や、不思議な神殿の話を聞いたことないかなと思って」
「うーん。すまないね、聞いたことないよ」
「…ありがとう」

まだ一人目です。
簡単にたくさんの話を聞けるとは思っていませんが、町の名前を知ることが出来ました。

「クリアベール… きれいな名前だな。今度はそこの道具屋に入って聞いてみよう」
「キー」

道具屋にはいると体格のよい店主がにこやかに話しかけてきました。

「いらっしゃい! うちでそろわないものはないよ!」
「あ、はぁ… それで聞きたいんだけ─」
「はい、はい! こちらなどどうでしょう?」

ヨウイチが話を聞こうとしているのに、なぜか店主は品物を勧めてきます。

「ちがうんだ。薬草じゃなくて─」
「いやですねぇ、お客さん! これは薬草じゃなくて"ど・く・け・し・そ・う!" 冗談なんか言って、もしかしてお気に召さなかった?! ならこれはどうです?」
「いや─」
「これ、すごいでしょう… ほら! 急所にさすと一撃でモンスターを葬れる毒の針! ほらっほらっ ね?!」
 
今まで見たことのないテンションで、ヨウイチとドラオは断れません。
そのまま愛想笑いをしながら最後のせいすいを出されたところでやっと、言いました。

「ちょっとまってくれ。俺たちは買い物しにきたんじゃない。話をしたいんだ」
「え?! え… な、なんだそうですか… それならそうと早くいってもらわなくちゃ…」
「す、すまない… ええと、石版とか不思議な神殿とかの話を聞いたことないかな?」

買い物に来たのではないとわかったとたん、店主はすっかり元気を無くしてしまいました。

「はぁ… まるっきり聞いたこともございませんよ…」
「そうか… もう一つ聞いても?」
「…なんでしょう?」
「あんた、なんでそんなに必死にしつこく売ってくるんだ」
「それは… うちのカミさんが… 売れなきゃ怖いから…」
「……そうか」


しばらくして、道具屋を出ました。

「キィ」
「仕方ないだろう。…お前にはわからないだろうが、仕方ないんだよ」

道具袋には新しい道具のせいすいが一つ、追加されていました。

「はぁ。なんか落ち込んだ。嫁はいないけど… なんか、わかるんだよなぁ」
「キーキィキィ」
「それもそうだな。よし、気を取り直して別の人に話をききにきくか!」

二人は噴水を眺めながらゆっくり歩きました。
会談を昇り、何の気なしに見回すと、なにやら犬と三人が会話しています。
ヨウイチは不思議に思い近づきました。
聞き耳を立てるとやっぱりどうも犬と会話しています。
さらによく観察してみると、三人のうち一人の男が犬と会話しそれを男女へ伝えていました。
犬の言葉がわかる人間がいることにびっくりしましたが、ヨウイチは良く考えます。

もしかすると犬ならば、石版や不思議な神殿をしっているかもしれない。

伝えられた犬の言葉をふむふむと聞く男女を見て、ヨウイチはあの犬が特別なんじゃないかと思えてきました。

石版も神殿も知っているかもしれないぞ。
ぜひ、話さないといけない。

しばらく待って、男女が去ったのを確認して犬と男に話しかけます。

「なあ、あんた。犬と話ができるのか?」
「ええ、出来ますよ」

犬は、興味がありそうでないようなそんな目です。
何か言いたそうなドラオの口を塞ぎ、期待を抑えながら聞きました。

「面白そうだな。ちょっとやってみてくれよ。名前はなんて?」
「ゲレゲレじゃないだろうか。と言っています」
「何で自信なさげなんだ? まあいいや。ゲレゲレは石版について何か知らないか?」
「ゲレゲレにはいない嫁探しならするそうです」
「え、嫁探しだって? 石版は知らないのか…」

石版を知らないというゲレゲレにヨウイチはちょっとガッカリしましたが質問を続けます。

「じゃあ、不思議な神殿の話を聞いたことは?」
「死んでも知らない。行けないと言っています」
「ん… よくわからない答えだけど…」

神殿はしっているが危険なので教えたくない、そうヨウイチは解釈します。

「神殿についてもっと詳しく聞いてくれないか」

男が今度は長めに犬と会話します。

「いきたいなら戻らなければならない、と言っています」
「え。どういう事なんだ……」

ヨウイチは一生懸命に聞いた話を理解してみます。

『神殿はとても危険だ。だから教えられないが、どうしても行きたいのならここにいてはいけない。戻らなければならない』

ヨウイチの中で答えはまとまりました。

「なるほど… よくわかったよ、ありがとう」

ゲレゲレと男に礼を言い、二人は目覚めた町のはずれへとやってきました。
背中の荷物を降ろし、ヨウイチはやっと塞いでいたドラオの口を開放します。

「…! キー!!」
「い、いやぁ。すまん、だってお前ゲレゲレに飛びかかろうと…」
「キキキキ!」
「不思議な感じ? そりゃあそうだろう。なんたってゲレゲレは教えてくれたんだ、神殿の存在を!」

興奮してちょっと大きな声で言いました。
神殿があるのなら、石版の噂だって本当に違いないからです。
なんでも叶える、その石版の噂です。

「まぁそう怒るな。でかい収穫があったんだから。とにかく、希望がわいてきた。さぁ、戻ってマウントスノーだ!」


その場で座り込みじっとします。
ですが、一向に森へ戻ることが出来ません。

「…どうやって戻るんだ?」
「キィ… キキ!」
「あ! そうか、寝るんだ。起きればきっと戻ってるよな」

すぐさま二人は寝転びます。
が、陽がじりじり照り付けてまぶしくて眠ることが出来ません。

「無理だな」

その一言になぜかドラオがおかしそうに羽をぱたつかせ、つられてヨウイチも笑ってしまいます。
ひとしきり笑って空を見上げていると、二人はいつの間にか眠ってしまうのでした。
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