◆2yD2HI9qc.の物語
十五、シエーナ
幾つもの林を抜け森を抜け数日、二人はようやくシエーナへとたどり着きました。
その数日の間、戦いは何度もありました。
薬草のないヨウイチは傷を増やし、時には逃げながらなんとか生き延びました。
ドラオは、そんなヨウイチを一生懸命に助けながら生き延びました。
ドラキーとも出会い、戦いました。
ドラオが心配でしたが本人はどうやら人間側なんだと割り切っているらしく、なんともない涼しい顔のままです。
逆にヨウイチは、ドラキーが飛んだまま攻撃してくるものですからとても苦労して勝利しました。
もしダンに出会わず旅をしていたら、二人とも無事ではなかっただろうと口には出しませんが思っていました。
シエーナはバザーが催されていてとても賑やかです。
たくさんの出店が並び、人々が行き交いヨウイチもドラオもときめきます。
「ドラオ… 俺たち二人だけでここまでこられたな」
「キィ」
「なんとか最初の目的を果たせたぞ。つっ… まずは傷を治すという薬草を探すか」
薬草はすぐに見つかりました。
バザーに出店されている店で薬草一つ80ゴールドです。
ヨウイチには物価がわからないので安いのか高いのかわかりません。
変な話し方の店主でしたが傷が痛むので二つ買い、その場で考えます。
「で… どうすればいいんだ?」
ドラオは知らないようです。
仕方がないので変な喋り方の店主に聞くと、葉を食べればいいという事でした。
「苦そうだな… 怪しいな… 仕方がないっ!」
ヨウイチは勇気を出して葉を丸めて口へ放り込み、数回噛んでから飲み込みます。
すると、痛みがあっという間に消え傷はふさがりすっかり元通りになってしまいました。
「おおおぉぉぉぉ…… こ、これはすごい……」
驚き、葉をしげしげと見つめますが変わった様子はなく、ただの葉っぱです。
味は渋いお茶に近く、お茶好きなヨウイチはますます気に入ります。
盗まれた薬草の事を考えると腹が立ちましたが、授業料だと思いあきらめました。
「さー、ドラ… あれ?」
さっきまでそばで浮いていたドラオの姿がありません。
うろうろ探してみると、ドラオは女の人のそばで羽ばたいていました。
「キ〜!」
何か見つけたような声を出しながら、女の人の顔の前でふわふわしています。
「こらドラオ! 知らない人を驚かしちゃあダメじゃないか!
ゴメンな。勝手に飛び回るものだから……」
女の人は気にしないといった風に言います。
「いや大丈夫だ。この動物は……?」
「ドラキーを知らないのか?」
「私の世界にはいなかったからな」
まさかと思いました。
自分と同じ世界の人かと考えましたが、ヨウイチはこの世界をまだ良く知りません。
もしかすると別の意味かもしれないと考え直します。
詳しく聞きたい気持ちは強いのですが、変な噂になるのは嫌でした。
「あぁなるほど…… あ、こらドラオ! やめろっ」
ドラオが、ヨウイチの肩に乗ろうと一生懸命にしています。
羽が顔に当たってちょっと痛いのです。
「よく懐いているな」
「ドラオは人を怖がらないからな。触ってみるか?」
落ち着かないドラオをつかまえ差し出し、女の人がドラオを触ろうとします。
ところが、さっきまで頭の上を飛んだりしていたのに、ドラオは逃げるように何処かへいってしまいました。
まるで触られるのを嫌ったようです。
「……何て言うか、その……」
ヨウイチはきまずくなって、けれど言葉が出ません。
ドラオは人懐こいはずなのに、どうして逃げてしまったのかわからなかったのです。
「羨ましいな。どうやって仲良くなったんだ?」
「え? いや、普通に友達になったんだけど」
「むぅ…不公平だ! 私とも友達になってくれ!」
「俺に言われてもな……」
虚しそうに空を見上げる女の人には気の毒でしたがドラオを探さないといけません。
ヨウイチはこっそり素早く、ドラオの飛んでいったほうへ歩くのでした。
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