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◆2yD2HI9qc.の物語

十三、初めてのよる
棒切れを握りドラオを肩の上に浮かせたまま数時間歩きました。
そのあいだ、幾人もの旅人や商人とすれ違い、休憩しながら話したりしました。

「シエーナは遠そうだな…」
「キ…」

話によるとあと数日はかかるらしいのです。

「もう疲れた… 電車ならすぐなのに…」
「キィ?」
「ああ、電車ってのはな……」

路に座り込み電車を教えているうち、やがて空は夕焼けとなり暗くなり始めました。

「うーん、野宿か。子供のころ友達とキャンプしかやったことない」
「キィキー、キィ!」
「いや、だからな。ほんとなんだって。
 鉄の箱でらくらく移動できるんだって……」


適当な場所でリュックにあったオイルで火を起こし、今夜はそこで眠ることにしました。
森の中で、いつモンスターに襲われるかわからない不安の中で、はじめての野宿。
一人ならとても不安でしょうがドラオがいます。
すぐ逃げ出すにしても、話相手をしてもらうことで気晴らしになりました。

「はぁ疲れきった。足の裏が痛いし熱いよ。
 お前はいいなぁ、羽動かしてるだけでいいんだもんな」
「キ! キーッ」
「まぁ、そりゃそうかもしれないけど… 疲れたっていう割には今だって飛んでるじゃないか」
「!!」

ヨウイチに言われてドラオはすぐ羽を止め、地面にしゃがみました。
短い足でちょこんとする姿に、ヨウイチは笑いをこらえるので必死です。

「ぷ。さ、さーもう寝る。
 何も食べる気がしないし、身体が休めって言ってるしな」
「キィ」

ドラオもお腹は空いていないようでした。
返事といっしょにころんと横になり、一瞬で眠りに落ちてしまいます。
疲れたというのは嘘ではなかったようで、やっぱりヨウイチは少し可笑しくなりました。

「面白いやつだな… 俺も寝よう、おやすみ……」

火を消してリュックを枕に横になり、それから数秒で眠りに落ちるのでした。


「…おい …あんた」

何かが身体を揺さぶります。
けれどヨウイチはすっかり疲れきってしまってすぐに起きる事が出来ません。
ドラオは静かに、まだ眠っているようでした。

「だ、だれ……?」
「ああ、私はここらへんで商売をして歩いてる者だが…
 あんた、外を歩くのはまさか始めてかね?」
「え、え、ええ…」

目をごしごしとこすりながら見ると、松明を片手に持った男がいます。
顔はマスクで覆われ背中には大きな荷物を背負った、見るからに旅の商人でした。

「そんなに思い切り寝てしまったんじゃあ、あんたモンスターに殺されちまうよ」
「んん、えぇ?」
「普通は木の幹にもたれてすぐ動けるように武器を抱えて眠るんだ。
 今のあんたは襲われたら一瞬だ」

ドラオはまだ起きません。
この男が言うように今襲われたら抵抗も出来ずに死んでしまいます。

「わかったら、そこのドラキーと交代で番をしながら眠るんだな。
 じゃあ私はもういくよ…」
「あ、あど、ども…」

松明の明かりが遠くへ離れ、辺りは再び暗闇に包まれました。

「ふぅ」

一息ついてリュックを自分の下へ引き寄せます。
口紐が緩んで中が見えていました。

「開けっ放しだったかな…?」

構わず手を突っ込みオイルを探しますが、どうも中身が少し減っているように感じました。

「あ、あれ…」

ありませんでした。
束になった薬草全部と、保存食の半分が無くなっていたのです。
ヨウイチは混乱しましたがやがて気づきました。

「あの男だ…! あいつが盗んだんだ……」

声をかけてきた今の男は盗賊だったのです。
恐らく、盗賊は全部盗もうとしたのでしょう。
ですがヨウイチのあまりの無防備さに同情し半分だけを盗み、助言を与えていったのです。
オイルを取り出し火に照らされながら、ヨウイチはそのまま眠れずに初日の夜を過ごすのでした。
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