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◆2yD2HI9qc.の物語

十一、旅立ち
「旅に出る?」

時間は昼過ぎ。
女将さんが少し驚いた口調で言いました。

「いままで世話になってきて、何も返せなかったけど… 俺は旅に出たい」
「…何かを探しにいきたいっていうのは知ってたんだよ。
 いつかいつか…
こんなに毎日いっしょに過ごしてたんだ。
覚悟していたけどイザとなるとやっぱり複雑だよ」
「女将さん、ごめん」

ダンがいなくなってから数日、ヨウイチはずっと考えていたのです。
少し寂しげな表情を見ると、心がさわさわして言葉が見つかりません。
けれど、そんなヨウイチとは反対に女将さんは明るく言いました。

「そんなに険しい顔をしないでおくれよ!
 今日のためにあんたと過ごしてきたんだ、私も嬉しいよ」
「ありがとう、女将さん」
「キー!」

話を聞いていたドラオが突然、声をあげました。
なにやら女将さんに言っているようです。

「ドラオ、お前も行くんだね。ある日いなくなるんじゃないかって思ってたけど…
 いいよ、いっといで」

ヨウイチにもドラオの言うことはわかりました。

「さぁ二人とも、決めたんならすぐがいいね。準備しといで」

準備、といってもヨウイチは何も持っていませんしドラオだって同じです。
女将さんは少しあきれて、自分の部屋から大きなリュックを持ってきました。
リュックはたくさん入っているようでふくらんでいます。

「ほら、言った通り覚悟はしていたんだよ」

リュックを渡しながら女将さんはニコリと笑いました。

「二人とも。道に迷ったり疲れたりしたらいつでも戻ってきていいんだから。
 それから、用事が済んだら顔だけでも見せに戻ってきておくれよ」
「うん。ありがとう」
「キーッ!」

女将さんは気丈でした。
暗い顔なんてひとつもみせず二人を元気いっぱいに見送ります。
ヨウイチにはそんな姿がとてもとても切なく感じて、おおきく一言出すのが精一杯でした。

「いってきます!」
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