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◆2yD2HI9qc.の物語

十、せきばん
「ヨウイチ、だいぶさまになってきたな。後は一人で経験をつんでいけば大丈夫だ」

稽古を始めてから二ヶ月ほどがすぎていました。
もうすっかり木の棒を軽々と振り回し、ダンとの練習試合も難なくこなせるようになっていました。

「俺も世話になりすぎた。そろそろ旅を再開するよ」
「もう? まだいいじゃないか」
「そうはいかない。なんだかんだで二ヶ月も世話になってしまった。
 それに俺は同じ場所に長くいられないんだ」

宿屋に着き、女将を手伝ってから夕食になります。

「そうかい。あんたもヨウイチによくしてくれたね」
「いえ、私こそこんなに長く世話になってしまいまして」
「ダン。いろいろ教えてもらって助かったよ」
「ほんとにねぇ。ヨウイチもこんなに男らしい態度になって、ねぇ」
「女将さん、それじゃ前は女みたいだって?」
「そうはいわないけど、なんだか頼りない感じだったよ」
「はは。もうヨウイチは一人でもやっていけます。
 一人旅だっていつでもいける」

ダンのこの言葉にヨウイチは胸がドキリとしてしまいました。
忘れていましたが戦いを教えてもらった理由は元の世界へ戻る方法を探すため。
それはこのクレージュを旅立つということだからです。

その晩は遅くまで話し込み、少し寝ると朝日が昇って朝を告げました。
寝不足のままずいぶん慣れた宿屋の仕事を済ませ、ダンを町の出入り口まで見送ります。

「ダン、短かったけどありがとう。これ、女将さんから」

ヨウイチはたくさんの保存食が入った袋を手渡します。
果物や野菜、肉を長く持たせるよう調理した旅には必要な物資です。
ダンは町の人からいろんな依頼を受けてお金を稼いで、必要な物を揃えたり宿代を支払ったりしていました。
ですが小さな用事ばかりだったのであまり稼げていなかったのです。

「すまん。女将さんには最後まで世話になりっぱなしだな」
「ダン。…俺も、旅に出るよ。前言ったように」
「今のお前なら危険な場所にさえ行かなければ大丈夫だろう」
「あんまり自信はないんだけど… やってみたい」

ダンは微笑み町の門をくぐります。
ヨウイチが後姿を見ていると振り返り言いました。

「ああ、そうだ。
 知ってるか、この世界には特別な石版というものがあって、それを神殿に捧げると願いがかなうらしいんだ」
「願い? なんでも叶うのか?」
「願いを叶えたやつがいるなんて聞いたことがないからな
 石版は確かに存在する。だが、願いが叶うというのは定かじゃない」
「なんでそんな事を俺に?」
「お前言ってたよな、叶わない探し物をしてるって。
 …じゃあな」

ヨウイチはこんな時に聞きたいことが山とわいてきましたが、歩いていくダンに声をかける事ができず
ただただ、見送るだけでした。
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