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◆2yD2HI9qc.の物語

九、修行
ヨウイチは女将さんに事情を説明し、男を宿泊させることに納得してもらいました。
最初は、男を怪しそうに思っていた女将さんでしたがヨウイチの決意に動かされたのです。
男は自分の名前をダンと言いました。

「あんたがそこまで言うのなら。ただし、あんまり危険な事はしないでおくれよ
 それとヨウイチ、自分で言ったんだから約束は守るんだよ」

ヨウイチは泊めてあげるためなら宿屋の仕事をこれまで以上になんでもする、そう約束していました。
何度も頭を下げ、次の日から始まる戦いの授業に備えその日は早く寝ました。

翌日、午前中に宿屋の仕事をいつも以上に一生懸命やってから、町のはずれで稽古の始まりです。
ですがまだ何もしていないのに身体中がきしみます。
今日から始めた薪割り。
女将さんは楽にやっているように見えましたが実際は違ってとても苦労しました。
ドラオはそんなヨウイチを邪魔にならない場所でふわふわ浮いて見守っています。

「さて。ヨウイチ、君は俺が使うナイフより剣を覚えるのがいいだろう。
 槍は短期間では習得できないし斧は筋力をつけるのに時間がかかりすぎる。
 ナイフは見たところ素早そうではないから不向きだ」
「わかりました」
「よし。これを持って俺と同じに構えるんだ、そう。
 そしたらこう… ゆっくりと… ちがう、こうだ」

渡された木の棒をダンと同じように振ったり構えたりするのですがなかなかうまくいきません。

「最初から出来る訳はないからな。とにかく動作一つ一つに意識を与えて体で覚えるんだ」
「がんばります」
「あー、それからだ。そういう話し方はモンスターにもなめられやすい。
 もっと気を強く持ってしゃべった方がいいな。それじゃ体だってついてこない」
「だけど」
「いいんだ。そのほうが皆と話しやすいし意思も伝わりやすいもんだよ」
「…わかった」
「その調子だ。ああ、でも最低限のマナーは守れよ」
「もちろんそれは。そこはわきまえてます。だ」
「…まぁそれも慣れだな。体で覚えろ」

ドラオがクスクス笑っているように感じてヨウイチは恥ずかしかったのですが、とにかく頑張りました。
修行は日が暮れるまで続き、疲れきった体でようやく宿屋へ戻りました。

「おかえり。ずいぶん疲れてるね、先に風呂入るかい?」
「女将さん、ただいま。先に腹に何か入れたいんだけど」
「ダンさんはどっちがいいですか?」
「私もヨウイチと同じで頼みます」

(ダン、女将さんに丁寧に話してるじゃないか)
(何を言うか。女将さんには世話になってるんだから当たり前だろう)

「どうしたんだい二人とも」
「女将さん、ヨウイチは心も鍛えなきゃなりません。
 なので話し方も鍛えてやってるんですが、そこも認めてもらえないですか」
「ははぁ、なるほど。私は構わないよ。
 どっちかというと普通の話し方のほうが接しやすいからね」
「キッ」

ドラオはやっぱりクスクスします。
ヨウイチはドラオを少し追いかけてから、女将さんに礼を言いました。

「ありがとう、女将さん。
 なんか、何から何まで親切にしてもらって」
「いいんだよ。私は町一番のお節介で通ってるんだから」

食事を済ませ、風呂に入り少し雑談してから部屋のベッドへもぐりこみます。
動かし慣れない動作の連続だったので腕は震え、熱くなっています。

棒を振り回していただけなのになんてきついんだろう。
明日も宿の仕事があるし薪だって割らなきゃいけない。
だいじょうぶ、だろうか……

気が付くまもなく眠りに入っていきます。
目が覚めればまた宿屋の仕事と稽古、けれどヨウイチはそんな毎日を楽しみにするのでした。
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