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◆2yD2HI9qc.の物語

八、旅人
「おい! しゃがめ!」

突然、うしろから大声が聞こえヨウイチは思わずしゃがみこみます。
サッとザクッとグォーの音と声が同時に聞こえ、それからドタリと振動がしました。
ヨウイチはドラオを抱えながら恐るおそる立ち上がります。

「大丈夫か? 怪我してないか」

男の声が聞こえ、目の前を見ると大きな熊は倒れています。

「…!」
「大丈夫そうだな、よっ…と。
 そのドラキーはお前のペットか」

どうして熊が倒れてしまったかはすぐに気づきました。
話しながら男が熊を転がし大きなナイフを抜いていたからです。

「助けてくれてありがとうございます…
 こいつは… そうです、ドラオっていいます」
「そうか」
「この熊死んだんですか」

倒れた熊はピクリとも動きません。
血がどろどろ流れて、ヨウイチは尻込みしてしまいます。

「当たり前だろ。おかしな事いうなよ」

ヨウイチは思い知らされました。

 なんて恐ろしい世界だろう。
 とんでもない事になってしまった。

男が言った「おかしな事」という言葉は、この世界の厳しさを物語っていました。

 けれど。

覚悟しました。
これからもきっとモンスターに襲われます。
だけどヨウイチは元の世界へ帰らないといけません。
そのためには町を出てこの世界を巡らなければならないでしょう。
ここでくじけるわけにはいかなかったのです。

「ところで、あんたはこんな所で何してたんだ」
「あ、モンスターに襲われて逃げてたら…」
「そうか。見たところ旅人の服だし武器は持ってないし、戦えないんだな」

男は腰にナイフをぶら下げながらいいました。
ヨウイチはおそるおそる男に話しかけます。

「あの」
「お? どうした」

モンスターの死体を探りながら男は振り返ります。

「俺に、あ。ええと、戦いを教えてもらえませんか」
「なぜ」
「それは… 見つかるかわからないけど探したい事があるからです。
 それには戦えないとだめなんです」
 
 ヨウイチはとっさに言いましたが、意味が通じたかはわかりません。

「…何か知らないがわけありのようだな。
 だが俺の戦い方はお前には無理だ。
 しかし基本動作くらいは教えてやらんこともない。
ただし─」
「え、ただし?」
「俺は長く旅をしてきて疲れている。
 だが金がない、つまり… つまりだな」
「…なんですか」
「ああ、俺の宿賃を授業料だと思って払ってほしいんだ」

少し恥ずかしそうに男が言いました。
この条件にヨウイチはラッキーだと心の中でつぶやきます。
なにしろヨウイチは宿屋の店員なのですから。

「そんな事でいいんですか、それなら平気です」
「そうか!」
「じゃあ、いいんですね?」
「ああ、ああ。助かる」

男は顔をとてもほころばせて喜びました。

「じゃあ、早速いきましょうか」
「頼む。この森から出て町へ行くのは俺が案内できる」

両手に抱えられたドラオが目を覚まし不思議そうな顔です。
起こったことを教えると、わかったようなわからないような表情をしていました。
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