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◆2yD2HI9qc.の物語

七、モンスター
緩やかな丘と平地が目の前を続いています。
周りには草木が茂り今にも何かが飛び出してきそうでしたが、モンスターと出会うことはありませんでした。
かわりに旅人と笑顔で挨拶をかわしただけです。
ヨウイチはなんだか拍子抜けしてしまって、ドラオは安心しています。

「なんだ、何にもいないな。
 見てみたかったんだけどなぁ」
「キー」
「なんだ怖いのか? だってなんにもいないじゃないか、平気だよ」

そろそろ引き返そうかと思ったその時、がさりと茂みから音がしました。

「な、なんだ?」
「キ」
「風かな…? だいぶ歩いたしもう戻ろう」

二人は一気に緊張していますぐ町へ帰りたくなってきました。
相変わらず草木はがさり、がさりと音をたてています。
ヨウイチとドラオはまるで走っているかのような早歩きで町の方向へと向かいました。

「キィーーー!」

突然、ドラオが大きな声を上げてヨウイチを追い越していきます。
びっくりして後ろを振り返ると、そこには見たことの無いまるで水彩絵の具を垂らしたような水のかたまり。

「わっ! えっ!」

ぷるぷるする身体に大きな目と口、それは話に聞いたモンスターのスライムでした。

「おい! ドラオ、どこいった!」

見るとドラオは木の陰に隠れてしまっていました。

「お前もモンスターなんだろ、まったく…」

ヨウイチはスライムをじっと見ました。
大きさはちょうど30センチくらい、見た目はすごく弱そうです。

「ええと、どうしよう。ちっちゃいけどきっと凶暴だったりするんだろうからここは─」

タッっと、ヨウイチは走り出しました。

「ドラオこい! 逃げるぞ!」

大きな声で叫び、もと来た道を走って戻るつもりでした。
ところがドラオは震えたまま動こうとしません。
仕方が無いのでヨウイチはドラオのいる道から逸れた林の中へ、ドラオを連れに駆け込みました。
スライムは何か騒がしくしながら飛び跳ね、追いかけてきます。

「キィーキィ−!!」
「バカ! 暴れるなって、ほら、おい、逃げるんだよ!」
「キー!!」

あろうことか、ドラオはすごい勢いで更に林の中へと飛んでいってしまいます。
ヨウイチはもう、それは今までで一番だと思えるくらい一生懸命追いかけました。

50メートルは走ったでしょうか、ついにスライムを振り切りドラオに追いつきました。
周りはすっかり木に囲まれ、昼間なのに夕方みたいな暗さでさすがのヨウイチも怖くなってきます。
ドラオはその木の一本に翼ごと抱きついていました。

「はぁ… お前、まさかモンスターを見たことがないのか」
「キ、キー」
「見たことはあるって? ふぅ、じゃあなんで逃げたりするんだよ」
「キィー… キィ」
「はぁ、自分と同じモンスターは見たことないのか… にしても、一人で逃げるなよ」

ヨウイチはその場へしゃがみこみ、息を整えます。
そして落ち着いてからドラオを抱え出口を探し始めました。

「こうしてつかまえてたら逃げられないな」
「…! …!」
「逃げようってもがいても今度は離さないぞ。しかし、ずいぶん奥まできてしまって道はどこなんだ」
「…!! …!!」

あんまりドラオが暴れるので、ヨウイチは周りをよく見ていませんでした。
ふと前の方をみると大きな熊が二人をにらみつけています。
ドラオは恐怖のあまり声が出せずもがいていただけだと、ヨウイチはやっと気付きました。

「こ、こいつは危なそうだ…」

足がすくみ、逃げようと考えるのですが一歩が踏み出せません。

 ああ、こんなところで殺されてしまうのだろうか。
 結局なにしにこの世界へきたのだ。
 せめてドラオは逃がすんだ。

「ドラオ、逃げろ!!」

ヨウイチが抱える手を離したのに、ドラオは地面へポトリと落ちて動きません。
見ると目がまるでバッテンになって、気絶してしまったのです。

「最悪だ。こんな森の中じゃ誰にも見つけてもらえないぞ… はぁ…」

足は相変わらずすくんでしまって動かせません。
ですが不思議と頭の中はすっきりしていました。
ヨウイチはもう覚悟を決めて、せめて拳の一発でもお見舞いしてやろうと思います。

「くるなら来い! ちくしょうこんなところでなんにもわからず死ぬなんて!!」
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