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◆2yD2HI9qc.の物語

六、町の外
「ありがとうございました。お気をつけて、良い旅を!」

あれから幾日が過ぎ、ヨウイチはすっかり宿屋の仕事を覚えました。
もうドラオにだって文句は言われません。

「ヨウイチ、すっかりこの仕事にも慣れたねぇ。」

女将さんがカウンターの奥にある小さな倉庫から声をかけてきました。

「おかげさまでようやく。なんだかもともとこの世界で暮らしていたような気がしますよ」

その言葉で二人は笑い、手早く朝の宿仕事をこなしていきます。

「女将さん。部屋のシーツ替えと片付けは終わりました」
「ありがとう、じゃあ後はもういいよ」
「じゃあ、朝食を済ませたらまた町を見てまわってきます」
「あんたも好きだねぇ。こんな小さな町で見ることなんてそんなにないだろうに」
「そうでもないんですよ。なにせ見たことも聞いたこともない物ばかりですから」
「そうかい。朝食はフロアに用意してあるからね」

女将さんは何かしているようでしたが構わずヨウイチは朝食を食べます。
今朝は玉子焼きと野菜を一緒に炒めたものです。
この世界で救いだったのは、食べ物がヨウイチの世界とほとんど変わらなかったことでした。

「ドラオー! おいで!」

ドラオもずいぶん懐いてくれて、今ではどこにいくのも一緒です。
ヨウイチもずっと同じに過ごしていたから、ドラオの言いたいことがなんとなくわかるようになっていました。

「キ〜・・」

宿屋で借りているヨウイチの部屋からふわふわドラオが飛んできます。
朝は弱いらしく、なかなか目を覚ましません。
ですがヨウイチが出かけるときに連れて行ってあげなかったらすごく怒ったことがあって、
それからは必ず連れて行くことにしているのです。

「相変わらず眠たそうだなぁ」
「キィキィ」
「そうか。まぁいつもの事だから気にしないよ。
 今日も町を歩いてまわろう、行こうか」

毎日、ヨウイチは町の人や立ち寄る旅人にいろんな話を聞きます。
元の世界へ帰る方法を聞くためにやっている事ですが、この頃では楽しみになっていました。
ドラオは一応気にしているのかヨウイチに一言あやまってくれます。
肩辺りにふわふわしながら一緒に宿を出ました。

「とは言っても… 町のほとんどはもう見たから今日はどうするかな。
 町の外に出てみたいけど、それはダメだって言われてるし…」

話には聞いていました。
町の外に出ると恐ろしいモンスターが現れて人間を襲うのです。
ドラオもモンスターですが人間を襲いません。
モンスターには時々人間と仲良くしたがる者がいるらしいのです。

「キーキー」
「危ないって? うーん、だけどちょっとだけなら平気なんじゃないかな?」
「キッ!」
「わかったよ。歩きながら考えてみようか。何か見つけるかもしれないし」

二人はゆっくり歩きながら、町の人と挨拶を交わしながら歩きました。
気が付くと目の前には町の入り口で、もう一度ヨウイチは考えます。

 町で珍しいものはあらかた見て知った。
 傷を治す薬草も、武器も防具も、興味がわいたものは全部見た。
 道具や世界もしつこく聞いてあらかた知った。
 そうなれば、残っているのはやっぱり。

「外に行こう!」
「キ?!」
「いや、町のすぐ近くなら大丈夫だと思うんだよ。
 だってほら、ここから見てもモンスターっていう生き物は見えないし」
「キッキッ!」
「危なくなったらすぐ逃げるし大丈夫だよ。
 なんだったらドラオはここで待っててもいんだよ」

ドラオは考えているようです。
きっと女将さんに心配かけるのを悩んでいるのでしょう。

「ちょっとだけだから、なあ?」
「キ、キー」
「そうか! よし、モンスターを見たらすぐ逃げればいいんだよ。
 早速いってみよう」

ドラオは不安そうでしたが、ヨウイチは嬉しくて仕方がありません。
見たことの無いモノを見たり触れたりする事が、楽しいのです。
二人は周りを気にしながらゆっくりと町を離れました。
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