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◆2yD2HI9qc.の物語

四、台所
数日がたち、宿屋の台所では朝からドラオとヨウイチが何かしています。

「キーキッ」
「な、なんだよドラオ。俺、間違った?」

ヨウイチは相変わらず何も思い出せませんでした。
正しく言えば、思い出せないというよりも身に覚えがないといったふうかもしれません。
なにしろ自分の部屋で眠ったのに、目覚めるとこの世界にいたのです。
夢なら覚めて欲しいと何度おもったことかわかりません。
ですが一向に目は覚めず、それとは反対に身の回りで起こる事はすべてが現実でした。

「じゃー… この皿はここか?」
「キー」
「あってたか。お前は女将さんより厳しいなぁ」
「キッキッ」
「あーあー わかったわかった。次をやれってんだろ、はいはい…」

この宿屋でお世話になることになりましたが、何もしないわけにはいきません。

 このまま世話になるといっても本当に何もしなければだめだ。
 とにかく行動しないと何もわからないのだから。

ヨウイチは、それから宿屋のいろんな事を手伝い始めました。
今は食器を洗っている最中なのですが、ドラオがいちいち口を出すので嫌になっていたのです。

「すっかりキレイにしてくれたねぇ、ありがとう。
 もっとゆっくりでもいいんだよ」
「女将さん。いいんです。でもドラオがうるさくって仕事になんないですよ」
「ははは。ドラオはこの宿の主人のつもりなんだよ、なにしろ私のやることにも時々文句を言うからね」
「口ばっかりで手は出さないのは助かりますけどね」

「ドラオに手まで出されたら、ほらあの羽だから。前に皿をたくさん割って」
「キー!キー!」
「おや、本当の事じゃないか。あれからドラオは口しか出さなくなったんだよ」

ヨウイチは驚きました。
どうやら女将さんはドラオの言葉を理解できているようなのです。

「あの女将さん。ドラオの言葉がわかるんですか?」
「ええ、なんとなくね。今はヨウイチの前でそんな事いわないでって言ってたんだよ」

ドラオを見るとほんのちょっとだけ、目をそらしました。
いつでも目は丸くて口は少し笑っている顔なので表情などはわからないのですが、今はそう思えました。

「調味料の片付けは私がやっておくよ。泊まっていたお客さんはみんな旅立ったからね」
「俺がやりますよ」
「日が暮れる頃までは暇だからね。ヨウイチも自分の事があるだろうから、自由にしておいで」
「じゃあ、お言葉に甘えて。じゃあなドラオ!」

さっと手を洗い、不満そうな顔のドラオを置いてヨウイチは台所を出ます。

 何をしよう…
 そうだ、町の人にいろいろ聞いてまわってみよう。何かわかるかもしれない。

数日のあいだはほとんど宿屋を出なかったので町の人とは話をしていません。
なので何か話を聞けるかもしれないと思うと身体は軽く、思いのほか早足で宿屋を出るのでした。
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