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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

第十二話 気持ち[2]
「よくぞここまで辿り着きました」

水の上に立つという事が奇跡であるならば、
私は今それを目の当たりにしている事になる。
洞窟の一番奥までたどり着くとそこには泉があり、人とは思えない程に端正な造形をした女性がその上に浮かんでいた。
水面は微かに揺れ、波紋が絶えず綺麗な円模様を描いている。
その紋様を崩さないように浮かぶ女性は目を閉じたまま無表情に佇んでいる。
何とも不思議な雰囲気を醸し出しているその姿を見るだけで、彼女が精霊であると信じてしまえた。

「アンタがここの主って訳か。んじゃあさっさと呪いを清めてくれや」

疲れているとはいえ、アレフが何とも失礼な言葉使いで頼む。
例え相手が神様であったとしてもこの態度は変わらないんだろうな。
しかしようやく呪いから開放されるという希望はすぐには叶わなかった。

「あなた達が真に勇気ある者ならば、その証を今ここに示して下さい。さすればその呪いも解かしてみせましょう」

そう言うやいなや、精霊がその腕を横に軽く振る。
すると反論する暇も与えられない間にアレン達の前に靄のようなものが吹き出し、
そこからモンスターが出現して襲ってきた。

「――!!」

さすがの反射神経で彼らはモンスターの攻撃を受け流し、三匹のモンスターと対峙した。

「何なんだよっ!」
「……ソードイド、サラマンダー、マントゴーアか」

骸骨に、龍に、ライオンの形をした怪物達。
六本の腕がある骸骨、ソードイドがかぶっている兜はアレルの不幸の兜と同じもので、その中から骨むき出しの顔と不気味な目を輝かせている。
青いたてがみに緑の体をしたライオン、マントゴーアは羽を持っており、振っている尻尾はアレンが装備している悪魔のしっぽと同じ形だった。
とすればアレフの呪いのベルトはあのサラマンダーに関係しているのだろうか。

「呪いの具現化、か」
「はっ、龍の皮で作ったベルトって訳だな」

アレルの言葉から推測した事実にアレフがニヤリと楽しそうに笑う。
つまり皆の呪いがモンスターの形をして襲って来たのだろう、という仮説。

「倒して呪いに打ち勝てって言いてぇのかよ!」

怒りを込めて吠え、サラマンダーに向かって斬り付けるアレフ。
硬い印象の龍の鱗に見事傷をつける事に成功する。
同じようにしてアレンとアレルも電光石火の一撃をモンスター達に食らわせていた。

「弱い弱い!」

得意気に、そして勝利を確信したかのように言い張るアレフ。
しかし彼らが傷つけた箇所は蜃気楼のように霞んだ後、幻から覚めた時のように元通りになっていた。
見ている限り回復呪文は使っていないはずだった。

多少驚愕しつつ再度攻撃を試みるが、敵の傷がまた勝手に癒えてしまう。
三人の巧みな剣術は多大な結果を伴ってはいるのだが、何故かその結果自体が消え去って最終的には振り出しに戻ってしまっている。
いや向こうの攻撃はこちらに通るし、攻撃するにしても疲れが発生するのだから、振り出しに戻るのは常にモンスター側の方だけで、
こちらは後退しているような反則的な状況だ。

威厳を見せ付けるように唸り、火を吐くサラマンダー。
その激しい炎をかわしながら再び攻撃に転じようとするアレフ。
しかし急に彼の動きが鈍り、避けきれなかった炎に足を焼かれてしまう。
そしてベホイミを唱えようとする前にサラマンダーはその牙でアレンに噛み付いた。

「チッ!」

アレンと対峙するマントゴーアは威嚇するようにして口を大きく開け、そこから巨大な火の塊、メラゾーマを唱えた。
その威力がいくら大きくても真っ直ぐ飛んでくるものを避けない理由はない。
アレンはメラゾーマを飛び越してマントゴーアにカウンターを狙う。

だがマントゴーアの顔に斬りかかろうとした瞬間、背後からメラゾーマがアレンの体を直撃した。
確かに避けたはず、という思考はマントゴーアの二撃目の中に消えた。

「そんな……」
  
そしてアレルと対峙するのは六つの剣を怪しく動かしているソードイド。
六対一と数の上では負けているがアレルの方が逆に押している形だ。
しかし決め手の一発がどうやっても外れてしまい、体勢を立て直そうとしたところを何度も斬りつけられてしまう。

不幸としか言いようがないアレルの運の無さ。
そう言えばアレルの呪いは不幸の兜によるものだった。
呪いの具現化と先ほどアレルが言っていたのが関係あるのだろうか。
考えようとしてもアレルの腕に剣が刺さるのを見れば頭が真っ白になる。

「くっ……!」

血が流れ、傷跡を炎が焦がしていく。
衣服と人と土の焼ける臭いが鼻を突き刺した。
これでは勝てない……
そう思い始めた時、精霊は再び語りだした。
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