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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

第十二話 気持ち[1]
ひんやりとした空気が少しずつ私達の体を包んでいく。
吐く息が白いのだから洞窟の中には寒い空気が蔓延しているはず。
実際アレフ達は時折体を擦り、体温を保とうとしていた。

しかし私自身は洞窟が寒いと思わなかったし、自分の肌に触れても熱いとは思わなかった。
通常の体温としては熱を持ちすぎているとアレン達は言うのだが、呪いのせいで感覚が狂っているのかもしれない。
まぁ感覚も何も既に私には痛み以外はよく分からなくなってるようだったが。
そのうち思考するだけで頭が悲鳴を上げだすかもしれない。

三日間も気を失った上に、ようやく辿り着いた教会でベッドを使わせてもらった私。
けど少しも体調が良くなるという事はなく、むしろ体の不調は増していくばかりだった。
動かせば動かす程にボロボロと崩れ落ちていく砂の体。
すっかり弱ってしまった私にはそんな表現がぴったりだと思う。

しかし聖水によってその身を固めて形を保つ事ももはや出来ない。
その程度の応急処置では返って私の中の呪いが過剰反応を起こし、返って辛さが増すだけだからだ。

呪いを解く為にはこの洞窟にある勇者の泉で清めてもらわなくてはいけないらしい。
しかしこんなにも呪われたパーティーはきっとここだけだろうな。
そんな私達を快く受け入れてくれた神父には感謝してもしきれない。
喋る事の出来ない今の私にそれをきちんと伝える事は出来なかったが。

私が話せないのとは別に旅の疲れも溜まってか沈黙が多くなっていた私達だが、いつしか四人の息遣いだけがお互いのコミュニケーションになっていた。

痛みはあるか?  何か見つけた。
水が飲みたい。  休憩しようか?

そんな風な会話を言葉を交わさずに成していく。
それが成り立つのは幾らかの時間を共にしてきたからだが、
そこにある種の安堵感を見出していたのは私だけではないと思う。
苦しい時に頼れるものがあるのは嬉しい事だ。

アレンとアレフとアレル。
私と同じように呪われた身でありながら魔を退け続ける強き者達。
私の心が砂漠のように枯れてしまわなかったのは彼らのおかげだと思う。
彼らと出会わなければこのような苦しい状況になる事はなかったのだろう。
でもその代わりに私はどこにも行けず、ただモンスターに食われていたに違いない。
そして何よりこの辛く楽しい旅を経験する事も出来なかったはずだ。
だから彼らには感謝している。

もしこの三人が兄弟なら、アレルが兄、アレンが次男、アレフが三男という感じだろうな。
問題は名前が似過ぎて覚えづらい事か。
あとはアレルもアレンやアレフと同じように勇者だったら完璧だったのになぁ。
呪いを解いた後に世界異変の原因を突き止めようとしている三人だ。
勇者だらけのパーティーなんて強そうだし、何でも解決できそうな気がする。
まぁアレルが勇者でなくても、それだけの力が彼にはあると思う。

世界異変の原因、それが分かれば私も元の世界に帰れるのだろうか。
けどそれを待つまでもなく、ある石版があれば元の世界に帰れるという噂もある。
正確には、石版を神殿に持っていく事で願いが叶うという事みたいだが。
もっとも石版や神殿がどんな物でどこにあるのか全く分からないし、その噂自体が本当に信じていいものなのかも判断しかねる。
嘘を付く事を許されない教会で訪れる者皆がみんなその話をすると言うのが噂の信憑性を高めているとアレンは言っていたような気がする。
そこに望みを託してみるかどうかは考慮しなくてはいけないな。

しかしそういった問題に平行して私を悩ますもう一つの問題があった。
今肩を貸してくれているアレンの事だ。
彼は出会った時から私を良く思ってくれていたようだが、昨日初めてしっかりと好きだと聞かされた。
それを問題だと認識しているのは、彼に対しての自分の気持ちがどういうものか分からないからだと思う。

決して嫌いな訳ではない。
だからアレンの告白は、嬉しかった。
好き、なんだろうな。
でもどのように好きなのかが分からなかった。
だからアレンの告白にどう答えればいいのか分からなかった。
アレン……私は君を利用しているだけなのかもしれないんだよ……
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